鮮血の報せと占術解禁 1
夜明けもまもなくの頃、
薬を与えてしばらくは(投薬の正常反応である)
バリからの話を聞き終え、胸を撫でおろすふたり。居室に通されてすぐに出された茶も冷めきってはいたが、ふたり揃って飲み干すと、これもまた「ふぅ」と揃って息を
だが、その安堵も
眼光を鋭く変えたバリが放ったひと言――「追跡組が消息を絶った」に、ふたりはまず、虚を
「ど……。え? どういうことですか……、バリ様?」
「消息を絶った……?」
「これさ」
卓のうえにバリが放り出したのは、「
明良が広げるも、中身はまったくの白紙であった。
「君たちが戻って来る一日前、夜更けの時分だ。その紙に前触れなく血痕が現れた」
「……なんだと?」
「確認したらすぐに消えてしまったけどね」
「血痕……。血……? 血が……相双紙に出てきたのですか?」
少女の茫然とした顔が、みるみる青ざめていく。
相双紙に血が現れるなど、尋常でない。
いったい、誰の血だというのか――。
「流したばかりとしか見えない鮮やかさだったよ。赤い血の色が乱雑に浮かび上がって、そのなかには小ぶりの
「『小ぶり』……。リィちゃんだわ。リィちゃんとクミの……」
「それで、なんと言ってきたんだ、クミたちは!」
「文字伝えは一切なかった。それから以降、どれだけ待っても、こちらから連絡を入れても返事は返ってこない。追跡組に何かあったのは間違いない」
遮光布を透かし、室内には朝日の気配が入りこんでくる。
積もった雪が照り返すのか、光は強い。快晴を予感させる爽やかな白さである。だが、居室の雰囲気は
「行かなきゃ」
美名が立ちあがる。
ガタと椅子を鳴らし、荷物やら防寒具やら、「
少女の腕は掴まれ、制されたのだ。
「離して、明良」
「……どうする気だ?」
「決まってるわ! クミたちのところに行くのよ」
「行き先も聞かずにか?」
「バリ様! 居所も判らないんですか?!」
「手がかりはあるけど、今の君には教えられない」
「どうしてですか」と詰め寄る少女は、今にも飛びかかりそうな剣幕である。一方のバリは、瞳さえ動かさず、あくまで冷静だった。
「教えたなら、君は、すぐに飛び出していって大海に落ちるのだろうね」
「……」
「明良くん。いくらか落ち着いている君ならば判っているんだろう? 美名くんの劫奪術では本総大陸には戻れない。僕たちはグンカくんが復帰しない限り、何もできやしないんだ」
「……この大陸にもカ行の
「いることはいるだろうが、グンカくんほどに速くはないだろう。
「それなら、船……。船です。船……で……」
少女の声はだんだん小さくなり、ついには消えてしまった。
航行での渡海など、それこそ数日かかってしまうだろう。数日遅れで
「判ってくれたかい? 今の最善で最短の方策は、グンカくんが一刻も早く快復してくれること。それしかない。レイドログは、よくもやってくれたものだ」
バリの言葉が、美名の身に苦々しくも染みる。彼女にとって何者にも代えがたい大事な
少女の頬に、涙がポロポロと伝う。
「クミ……。リィちゃん……。タイバ様ぁ……」
ふらりと崩れるように、美名は明良に
美名に対し、いつか言った覚えのある「泣くな」の言葉。今の明良には、その言葉さえかけてやることができない。
クミら三人に、少女がどれだけ親しんでいるか。美名がどれほど大切に想っている者たちか、痛いほどに判る。知り尽くしている。彼自身、少しでも気を緩めれば視界がぼやけそうにもなるのだ。到底、「泣くな」のひと言で少女を慰められるとは思えない。
「クミ、クミ……」
少女の声に同調し、明良もまた、輩の無事を祈るしかなかった。
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