寒日の馬車と蟲 3
「解決できる? それって……」
「アサカだ。ヤツならば『
勢いのまま立ち上がった
「バリ。ここから
「……北東部に行く気かい?
「やはり、飛んでいくほうがいいか……」
「美名」と呼び掛けながら、明良は、少女へと振り返る。
「『ワ行・
「ちょ、ちょっと待って……。明良は、アサカってヒトのこと、知ってるの?」
「無論だ」
「居場所も知ってるの?」
「ああ。この一年半のあいだに
「一年半……?」
その言葉の意味するところ、ハッとした美名に、少年はうなずいて返す。
「アサカはヤマヒトにいる。シアラに記憶と魔名を奪われた俺が、長く身を置いた村だ。俺がしばらくのあいだ、共に暮らしていた相手がアサカだ。まさか、
「それだったら、クミたちにすぐ連絡しないと……」
少女の顔がみるみる晴れやかになっていくが、その意見に対し、「いや」と首を振る明良。
「まだ、彼女らの周囲に
「なら、どこか人里に着いたら、ヤマヒト村に
「それもダメだ。声を拾われたら同じことになる。直接、俺が行く。加えるなら、ヤツは
明良は、ふたたびバリに向き直ると、グンカの容体の見解を訊ねた。
確証はないが、ヤ行
「だけど、のんびりもしていられないよ。ヤマヒトがどれほど近くなのか知らないが、グンカくんも一日二日が限度になるはずだ」
「それゆえ、飛んでいく。一日二日もあれば、行って帰ってくることもできるはずだ。光明があるのだから、手を尽くす価値はある」
バリは、右の眉を
それを受けた明良は、少女に向き直り、ふたたび
だが、美名はすぐに平手を光らせることはせず、明良やグンカ、ヤヨイにバリ――なにか考えこむ様子でそれぞれを見渡すのだった。
「何をしている、美名。早く頼む」
「……私も行くわ」
「……なんだと?」
「私もヤマヒトに向かう。今まで『奪地』を長い移動に使ったことはないわ。あの魔名術は体調が悪くなるものだって、明良も知ってるでしょ? 途中で倒れたら、私以外、誰も術を解除することができない」
「だが……、グンカ師やヤヨイが動けない今、介抱の世話や、もしも、ふたたび襲撃があれば……」
言っている途中で、明良は、少女の様子に気付き、言葉を止めた。
凛然として見つめてくる紅い目。
強く訴える眼差しは、少しも譲る気がないことを示していた。
(こうなったら、意地でもついてくるな……)
何度となく体感してきた少女の頑固さ。
厄介でもあり、好ましくもあり――そんな彼女へ掛ける言葉を探すうち、「行ってきなよ」と後押しをくれたのはバリであった。
「介抱やらなにやらは、誰か、ヒトの手を借りれば事足りる。
「……」
「バリ様……」
バリの後押しもあって、明良は、喉まで出かかっていた「判った」の言葉を、そのままするりと吐き出した。
「そうとなったらすぐに行くぞ、美名」
「うん。バリ様、これを預かっていただけますか」
「もし、クミたちから危急の連絡があったら、バリ様のご判断で対応をお願いします」
「うん、預かろう。何もなければ、僕たちは、この街道筋、ふたつかみっつ先の人里に
「はい。判りました」
荷物を背負い、刀鞘を腰に回した明良に、
準備ができたという合図か、少年と少女は、お互いにうなずき合う。
「では、頼んだぞ。バリ」
「バリ様、お願いします!」
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