遺物の保管庫と針が示す先 2
「思ったより……、広いわね」
保管庫は、地下にあるため窓がなく、他に出入口もない、奥行きが三十歩ほどのひと間であった。
庫内で目立つのは、両脇の壁沿いに据えられた三段備えの棚。中央にはなにかしら作業に使われそうな平机が四台、奥に向かって並べられている。他には、刀剣や槍の保管のためだろう、長物立てがいくつか見てとれた。
「広く感じるのは、保管物を別のところに運び出したからでしょう」
庫内を回り、燭台に
「元来は、入り口に立つだけでも様々な遺物、武具を見てとることができ、もっと壮観な……、ある種、異様な感を受けるところです」
「なんで運び出しちゃったんだのん?」
「少しは考えて訊きなよ、ニクリ。一度侵入されたところになんか置いてられないからでしょ」
「あぁ~……。なるほどだのん!」
「それじゃ、早速始めましょ」
保安手司に先導してもらい、クミらは庫内を進んでいく。
入り口辺りは清掃したてのように綺麗なものだったが、少し進むと石造りの床ではぬめりや苔むすのがひどく、クミの足裏からは不快な感触が伝わってきていた。
「まずは、『
入口から右手の壁沿いを進むなか、室の半分を過ぎたあたりで保安手司は立ち止まり、そう告げる。
壁に沿って据えられている棚のなかには、形や大きさが均一のつづら箱が数多く、整然と揃えて入れてあった。
「『六指』は、この中段の箱に入れてありました」
「『
「敵方の身体の一部」を探すにあたり、クミたちはまず、盗難物それぞれの保管箇所を探すことにしていた。庫内の他のところと比べ、盗人の滞在が当然に長かったはずで、そのぶん、目あてのものが見つかる可能性も高いと考えられるからである。
「じゃあ、ここはリィが探すのん」
「うん、お願い」
「髪の毛や爪のアカでいいのんね?」
「爪のアカはないと思うけど……。あ、髪の毛は、レイドログ大師の紫や、キョライさんの青、シアラ大師の赤じゃない可能性もあるから、怪しいのは全部確保でね」
「わかったのん」
小ぶりの
この保管庫から盗み出された物品は、全部で四点だった。
ひとつは、先のとおりの「六指」。
小刀のため、遺物自体の殺傷能力は危険視するほどのものではないが、クミが言うとおり、悪用されたら非常に厄介な特性を持つ。
ふたつめは、最近に教会所蔵となった遺物、「
非常に軽量なひと振り
これもまた、使われたならば厄介な代物であった。
みっつめは、「神代遺物・
これは、先ふたつのように武具ではなく、見た目は手のひらに収められるほど小さな四角の木箱である。しかし、この遺物が持つ特性は、ただでさえ超常的な神代遺物のなかでも抜きん出て不可思議なところがあった。
その特性とは、「混合」。
この箱の
どれほどの昔か知れず、経緯も知れないが、過去、岩石と
その排出物は、岩のような硬さ、重さを備えつつも、試しにと火をつけたところ、途端に燃え出し、まもなく、灰になってしまったのだという。
その事例以来、有効利用の見当さえつかないこの特殊な遺物は、保管庫のなかで眠るだけとなっていたらしい。
そんな特殊な遺物であるから、今回の盗難において、
最後のよっつめは、「
その名から判るとおり、これは神代遺物ではなく、千年前の名工、バルデの手による四振りの刀剣群のうちのひとつ。冴えるような輝きを保つ大剣である。
千年前の当時、想像上でしかなかった「
以上四点の盗難物であるが、先に述べたとおり、敵方の目的は、有用な武器の入手であると考えられた。だが、その目的であれば、保管庫には他にも使えそうな遺物が数多くあった。
なぜ、これらだけを盗んでいったのか。
なぜ、教会本部に乗り込む危険を冒してまで手に入れる必要があったのか。
「最後がここ、この刀剣立てに鞘に入って置かれてあった『玉世喜』になります」
「ここなら、保管棚と違って私の……、ネコの身体でも探しやすそうですね。調べます」
「では、私は、先ほどの逢合函の保管箱をあたります。ここに燭皿を置いておきますので、位置が悪くて見づらければ仰ってください」
「ありがとうございます」
ネコは、衣服を着てもいないのに腕をまくるような仕草をすると、「よし」と言って気合を入れる。
敵の目的は判然としないが、「今やるべきこと」――レイドログとシアラへの手がかりを得るには、この地道な作業をこなすほかない。
空気も淀む地下の部屋、クミたちの探索がはじまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます