遺物の保管庫と針が示す先 1
「遺物庫に入った賊の詳細は不明ですが、
冬の時季の陽は、傾きだしてからは暮れるのも早い。
暗くなりかけた教会区の敷地内、
保安手とは、遺物をはじめ、教会が所有する物資
「しかし、『痕跡を探す』と仰られても、片付けもとうに済んでおりますし、それがなくとも直後の状況は、手下の
「髪の毛でも爪のアカでも、なんでもいいんです。少しでもなにかを見つけることができたら、この『
首に提げる銀装飾に手を添え、クミは言う。
先刻の会議のなか、彼女がふいに思いついたのがこれだった。
指針釦――探しビトの位置を知れるこの遺物の性質を利用し、レイドログとシアラの行方を追う。そのために遺物保管庫に向かい、「対象の身体の一部」を探そうというのだ。
「だけど、クミ。シアラは、
「そりゃあ、そうでしょうね」
「だったら、なんにもないかもしれないのんね……。塔のなかで足音まで消してたキョライさんが、
「んもう、リィまでそんなこと言って……」
黒ネコは、「はぁ」とひとつ息を吐くと、
「やってみなくちゃ判んない。行ってみなくちゃ、見つかるものも見つかんない。やれることはぜんぶやってみようよ。リィもラァも、やられっぱなしはイヤでしょ?」
「それはそうだけど、ね」
「のん……」
「私もイヤよ。皆みたいに戦力にはならないかもだけど、これだけ好き勝手されて黙ってられないわ。ここらでガツンと一発、反撃のきっかけを作ってやるわよ!」
小さなネコは、少女の肩上で鼻息を荒くし、高らかに言い上げる。
「それにしても、リィのキョライさんのモノマネ。すごい上手だった……っていうか、キョライさんそのものだったわね。声色とか口調とか、ホントそのまんま」
「
妹の軽口を、「そんな昔のことは今はいいでしょ」と止めるニクラ。
「ともかく、現状は、やれることがそう多くないのは確かよ。クミの『ガツン』のため、しらみ潰しにでも探してやろうじゃない」
そうこうするうち、一行は、ひとつの建屋敷地に到着する。
鉄柵に囲われた石造りの建物はこぢんまりとしており、神の
クミたちのその当惑を察したのか、保安手司が「この建物は地下貯蔵庫への入り口になります」と説明をくれた。
「庫内に入るには、この鉄柵門扉と内部、二か所を開錠しなければなりません。常であれば、その鍵を別々に持ったふたりが警備の役でした。半年前まではどちらも単なる
「あぁ……。『
保安手司は、鍵束からひとつを
鉄柵の内へと入り、建屋に続く短い
「先ほどの
「なるほど……、
建屋へと立ち入り、手近な燭台に火が灯されると、すぐ先に見つけることができた石段。そこを下りて行くと、やがて一行は、頑丈そうな鉄扉の前に降り立った。
「手下のひとりは、外の鉄柵のところ。もうひとりは、ここで倒れておりました。魔名術だけでなく、槍術にも覚えがあった者たちです。だが、相手はそれ以上だった。応戦したものの、あえなく敗れてしまった彼らは、よほど痛めつけられたのでしょう。庫内に侵入する手段を白状してしまった。そのような傷も見受けられました。鍵として使われたあとは、もはや用無しと打ち捨てられ……」
鉄扉の中心には薄青の色をつけられた
「彼らの無念を『ガツン』と晴らしてやってください、客人様」
「……はい。頑張ります」
「『閉ざす扉には、神からの術でなく、寄り添う声が必要である』」
それが開錠の文句なのだろう、保安手司が幻燈
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます