意地と拳 1
「わははぁ~! こんなこともできるんだね!」
「身を潜めていろと言ったはずだぞ、ローファ!」
「えぇ~。だって、遠くから見るより近くで見たほうが面白いのに」
悪びれもせずに明良のそばまでやってきたローファは、紅い瞳を輝かせ、「
「そっか。土や石を操るのといっしょに湿り気で凍らせて、それで固くしてるのかぁ。勉強になるねぇ」
「ローファ! 下がっていろ!」
明良は、なにやら感心している様子の相手の肩を掴み、押し返そうとするが、少女の体躯は微動だにしない。まるで、地に根が張っているかのようだった。
「くっ……。頼むから下がっててくれ! あの男は、油断のならない相手だ!」
「あ。あ~……。そうみたいだね」
少女の目が、自身の背後に向けられている。それを追って振り返った先、明良は、「
「明良様!」
「石動」を仕掛けた
「不甲斐ない『石動』で申し訳も立ちません。突破されようとしています」
「そのようだ……」
「やはり、私にはまだ、我が師ほどには……」
「師に不足はない。『磊牢』の急所は、地面から最も遠く離れた天頂部にある。何度も囚われ、俺がやっとに感得したその急所を、即座に見抜いた武の冴え。師の力不足ではなく、やはり、ヤツは武芸の達者だというだけだ」
三人の目が注がれているあいだも、白く光る刀剣は、土石の壁を何度も突き刺している。武芸者が囚われから脱け出るのも目前と思われた。
「さらに『石動』の囲いを作りますか?」
「いや。次の段にいく。ヤツの体力は、師の協力の甲斐もあってだいぶ削られたことだろう」
明良は、「
「もとより、バリの復讐心は俺が呼び起こしたようなものだ。その鎮静を自ら提示し、進んで課せられた任でもある。ここから先の始末は、俺ひとりがつけるべきだ。この男は、ここで徹底的に打ちのめす。グンカ師、頼む」
「……承知。カ行・
グンカ得意の「
バリから逃げの手を封じ、決着をつけるための「次の段」がこれであった。
「劣勢とみれば、助太刀に入ります。よろしいですね?」
「……師の判断のままに」
炎の向こうで少年の影が答える。
直後、土砂の崩れる音もかすかに聴こえたようだった。バリが「石動」の牢を破りきったのだろう。
少年とア行
「ちょっと、グンカくん」
口を尖らせたローファが、
「く、『くん』……? なんでしょうか、ローファ様?」
「こんなにゴウゴウと燃えてたら、よく見えないんだけど」
「……見なくていいのです。あなた様は、お下がりください」
「えぇ~……。見ないとつまらないでしょう?」
まるで配慮のないあけすけな落胆に、グンカ大師の気配が変わる。
「ローファ様。我々は、面白いやつまらないなど、そういった
グンカは、少女を冷徹に
しかし、少女は口の端で笑い、「粋狂だよ」と言い返してくる。
やはり、この少女は、ただの村娘などではない。
「ローファ様。あなたはいったい……?」
「粋狂じゃなきゃ、
「みみなし……?」
「ローファ様、燃えてしまいます! お止めください!」
「大丈夫だよ~」
「くッ?! 『魔名術が効かない』か?! 明良様! ローファ様がそちらに行かれてしまいました!」
すでに決闘は始まっているのかもしれない。グンカからの呼びかけに、明良の返答はなかった。
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