気丈な他奮大師と誠心の劫奪大師 1
「リン様が
教区館の廊下を歩く、ルマ執務部長と白い外套衣の少年。後ろからついてくる少女らに目を配せると、ユ・ヤヨイ少年は潜めた声で言った。
等間隔の採光窓からは数日ぶりの月明かりが差し込む、冬の夜の晴天。しかし、一団の雰囲気は晴れやかとは言えない。
「『
「あ、いえ……。失礼しました」
ピンと来ていない様子のふたりに、ヤヨイは目線を下げて謝る。
「『風』とは、リン様の門下で研究中の『病気の原因』に関する分類語です。『ヒトの不調の原因』を、『
「はぁ……」
「伝染性の病も『風』に分類されます。リン様を筆頭として私たちが行っているのは、疾患に対し、これまでのようにただ漫然と『治癒力強化』を施すだけでなく、病の根源を正確に見定め、原因ごとに適切な療法を選ぶ……。そういう研究です。地域差や個人差、性差でばらつく
少し小難しい話で美名はついていけない様子だが、彼女の懐中のクミは「なるほど」と思った。
(まだ少し、文明的には劣ってるなって思う部分も残ってたけど、
「リン様が病に
歩みながらのヤヨイの声の調子が沈みだす。
「ですが、先ほどもお伝えしたとおり、『風の病』ならば、他の二種に比べて効果が期待できるはずの
少年から引き取るように、ルマ執務部長が「風邪ではありませんでした」と続けてきた。
「今も、何の
「じゃあ、話すことは……?」
「起きていらしたら、なんとか話すことはできます。それ以外で急を要する場合は、マ行
「あ」と声を上げ、美名には
「幻燈術を介すれば、意識がはっきりされてなくとも話すことはできます。そのため、
ヤヨイ少年は立ち止まって振り返ると、今度はしっかりと美名に顔を向け、「はじめてです」と告げる。
「リン様は気丈でいらっしゃいますから、『他奮の筆頭が病に
目線を交わして少女と
「『絶対に快復してみせる』、『自力で立ち直ってみせる』とずっと……。今も言い続けておられます。ですが、もう限界です。このままでは、そう遠くないうちにリン様は魔名を返上されてしまう。たとえ、リン様ご自身が強く思われていても、無理なものは無理なのです……」
か細い落胆の声を最後に、一団の会話は途切れた。
それからまもなくして、先導のふたりが揃って足を止める。
その位置は、廊下に居並ぶ扉とさして変わらない、質素な
扉の前で立ち尽くすようなルマ執務部長は、傍らのヤヨイに顔を向ける。
「治せるのですね、ヤヨイさん? 美名様の魔名術でなら……」
「確証は……、ありません」
「その……、『今話した未知の病を、リン様からもらい受ける』ことの危険を……」
ルマは、少女とネコへ目を遣る。
この教区の執務全般を仕切る老婦人は、気遣いの色を
「美名様とクミ様もご承知のうえ、なのですね……?」
美名はゆっくりと頷き返す。
美名とクミのふたりが深夜に大使館を訪れ、大師に面会するまでに至った経緯。
それは、一刻ほど前に
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