品評の場と闖入者 2
剣先を突き付けられ、いかな返答が飛び出すか、大勢の注目を集めながらも、ゼダンはもったいぶるようにゆっくりと立ち上がった。相手を見下げる目には今日一番の好奇の色を浮かべつつ、「見違えたな」との言葉が吐き捨てられる。
「過去に
問いかける言葉ではあるが、バリの
対するオ・バリは、うっすらと開かれた目に殺伐の光を強めるのみ。仇敵を見据えたままである。
「……受けるかどうか、それだけを答えていただけますか」
「意気がるな、
標的と定められたバリは、素早く周囲を見回すと、それだけで包囲者らとの間合いを測りきったのか、大きく息を吸い込んで抜き身を鞘に納める。
一触即発の披露台。
だが、その
「認めよう。魔名の返上が確実なことを知りつつも、策を
「……判りづらい言い回しだな。はっきり言ってくれませんか」
「受けると言っているのだ」
決闘受諾の明言に、広場ではさざめきが波及する。
しかし、その騒がしさを叱責するかのよう、強く発せられた「だが」の喝に、観衆はふたたびに静まる。
「だが……、とは?」
「条件がある。『
納刀した得物の柄に手を掛けながら、バリの睨みはこのとき、威圧が高まったようだった。
当然ではある。
「『盛り上げろ』とは……、相当に見当違いな要求だな、ゼダン!」
「見当違いなどではない。勝ち抜くのだ。貴様は私が指名する者と戦い、勝てば私が出張ろう」
「『勝ち抜く』だって……?」
「本来であれば
ゼダンの言葉には、バリも困惑で顔をしかめ、観衆はどよめく反応を見せるしかできない。
そんななか、大都王の背後、少年だけがただひとり、思惑を
しかし、明良の苦りきった様子を嘲笑うかのよう、ゼダンは眼下の披露台に目を注ぐ。包囲網から少し外れ、槍を携えたままでいた首席奴隷ソ・ブルドを見遣って、「貴様」と呼び掛ける。
「貴様が戦え」
「私……? 私が……、この方とですか?」
「そうだ。貴様は武を誇る者であろう? これより他の見せ場などない。見事打ち倒せれば、貴様の評価額は跳ね上がろう。私はその十倍の額で貴様を買う。王座の次席を貴様のために新設し、貴様と貴様の子孫、永年の安泰を約束してもよい」
当惑する武芸奴隷であったが、ゼダンの言葉に焚きつけられたのか、次第に闘志
それに困惑するのはもちろん、オ・バリ。
「本気ですか……?」
「手合わせ、いただけますか。ア行の大師、オ・バリ」
「……私の相手はアナタではない。あの
「……手合わせいただけますか」
披露台上での問答もあるが、高座のうえでも
「バリの件は俺が引き受ける約束だったはず……。どういうつもりだ?!」
「黙れ。焦らずとも、あの奴隷の次は貴様だ。貴様が死ねば、次は私だ」
「俺は
「ほう。貴様はあの奴隷の武威を『余計なもの』と見限り、
「……何だと?」
「見よ」
促されて見下ろした先、槍使いの奴隷は静かに得物を構え上げている。
ひとつの揺れもなく定められた槍先。バリを見据えた半眼。
「附名の筆頭となる以前、あなたは名うての剣術家でありましたね」
「……」
「過去に一度、あなたの練磨試合を観たことがあります。参加した
少年は、自らも剣を手にするから判る。
武芸とは、自らを高めることが肝要ではあるが、相手に恵まれることもまた、必要不可欠である。刃を鳴らし合わせ、穂先を掻い潜り、そうして競り合うようにして辿り着く
かの槍使いもまた、武芸者であることは疑いようもない。奴隷
せめてとばかり、少年は憎々しさ一杯に王の背中を睨みつけてやった。
「どちらかが危ういと見れば割って入る……! 問題ないな?!」
「好きにするがいい。そして、斬られるか突かれるか、するといい」
台上では、彼もまた説得不可を覚ったのであろう。バリは槍使いに正対し、「居合」の構えを向けだした――。
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