十行会議と大都からの報せ 3
「レイドログ大師。美名さんの大師就任に関し、何かしら異議があるのでしょうか?」
「査問」の口火を自ら切らん、と
「異議などありませんよ。美名ちゃんがいなければ、今や、
「では、形式ばかりの査問より、まず先に協議したいことがあるのですが……」
相手の声音が潜められ、神妙な面差しを見てとったレイドログ。彼は、片眉を落とし、それとは逆の口の端を吊り上げる、なんとも大仰な表情を作る。
「これは、俺の早計だったかな? 他にも大師に就任する者があるのですね」
「
「じゃあ、それとは別。美名ちゃんのことを深く知る以上、大事な話があるというわけだ」
「……比べるものではございませんが」
「うむ。俺は構わないが……、コイツはそうもいかないようだ」
ふんと鼻を鳴らし、レイドログは肩をすくめてみせる。
すると、これまでずっとおとなしかった「
「ズッペルは美名ちゃんとお話ししたいようですよ」
「シツギ園」の会堂が広いとはいえ、それは、十数人ばかりが寄り集まって会議するにしては、である。翼を拡げれば大人ひとりを悠に超える大きさのアヤカムが
「レイドログさん! このアヤカムを止めて!」
「おい、収めてくれんか! うるさくてしょうがない」
騒々しさの渦中にあって、レイドログは泰然として笑った。
「知っているでしょう、タイバ師。プリム嬢も。ズッペルは俺が使役してるわけじゃない。俺たちはふたりでひとつ。コイツが気に食わないのであれば、『タ行の大師』は首を縦に振らない」
「
負けじと叫び上げられたプリム大師の声も、ズッペルの狂騒に取り込まれた。
耳のよい美名にとり、アヤカムの
最前に対面したズッペルのつぶらな瞳。つるつるとした肌触りを予想させる外皮。アヤカムにしては人懐っこく、クミとはまた違った愛らしさがあると興味惹かれてはいたが、これ以上、会議の場が荒らされるのであれば――。
しかし、
騒音のなか、
「よかったな、ズッペル。お許しが出た」
居所に収まったアヤカムは、黒々とした瞳を美名に据えたまま、相方に撫でられたことに応えるかのよう、「きぃ」とひと鳴きする。
おとなしくしていれば、なんとも珍妙で可愛いのに、とひと息入れながら、美名は刀から手を離した。
「……今後、美名さんとお話できる機会はいくらでもありましょうから、あまり、間延びしないようにだけお願いいたします」
「了解しましたよ」
堂内の大師連中から不興を買ったことも意に介さず、使役大師は嬉々として揉み手をする。「ひとクセどころじゃないわね」と足元で嘆息を吐くクミに、美名も
「さて、美名ちゃん。はじめようか」
「……はい」
とはいえ、相手は大師職の先人。フクシロの承認のもと、この場が「自身への査問」になったのであれば、問われたことに誠心で答えねばならない。
美名はレイドログへと正対した。
ズッペルの抗議により、査問の先取がレイドログにあることは歴然。静まった場のなか、使役大師はもったいぶるように咳ばらいから始めた。
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