第三章 高らか響く
少女 神世編
何処かと何処か
どれほどの時が経ったのか。
「……んッ」
少女が
「……かはっ……。はぁ……」
ひとつ
口の中が
心地よい寝覚めなどではなかった。
もうひとつ咳きこむと、少女はぎゅっと目を
「……どこ?」
少女の姿は見知らぬ場所にあった。
いや、「見知らぬ」どころではなく、「場所」でさえないのかもしれない。
地面も空もなく、近くにも遠くにも何も見当たらず、風ひとつ流れていない。
「私……」
少女は思い起こす。
こうなる直前。もっとも新しい記憶――。
「……『
駆けつけた主塔のたもと、所属不明な集団に出くわした美名たち。
見上げれば、塔の屋上よりさらに高く、宙に浮かぶ男。
その者、モモノ大師が「元凶」と断じた司教ゼダンであると知った美名は、事態が
「……それで『
美名の脳裏にグンカが消失する景色が蘇る。
あの、瞬間的な消失の仕方には、美名にも思い当たるものがあった。
「……『ハ行
ヒトを対象とした去来術を直接に見たことはないが、
「それじゃあ、ここは……、『
あらためて、美名は辺りを見回す。
四方八方、色も何もない、空間。
自身が座っているのか、埋もれているのか、流れているのか、判然としないがゆえの心地の悪さ。声は何かに反響するでもなく、遠くに消えていくばかり。
脱するのも困難な「牢」に
「……沈んでられない! 早くなんとかしないと、皆が!」
半ば
そこで、あらためて気が付く。
まずは、自身の手が「
「何処か」の孤独の中、鈍い光を
次に、自身の胸元。
「これは……」
懐中より美名が取り出したのは、「
一見すればただの紙切れなのだが、手の中の「相双紙」はぼんやりとした光を放っている。
その発光は、
その、明良の言葉は――。
『こたえてくれ』
少年が、少なくとも「相双紙」に書き込める程度には無事であることに目を潤ませる美名。
しかし、「泣いてる場合じゃない」と美名は首を振って、身体を探ってみる。
「……か、書く物……。書く物……ない……」
筆を上着の
「大橋」では
焦っている間に、あらたな文面が「相双紙」に現れる――。
『いずこかにいるのであれば 刀を振るえ』
「『
自らの手元を見下ろす美名。
「嵩ね刀」の手に馴染んだ重みが、頼もしく「任せろ」とでも言っているように美名には感じられた。
「……振るえばいいのね?」
少女は大剣を構える。
迷いなく、「嵩ね刀」を振りかぶる――。
「……
*
手品のショーのように、その女の子は突然、広場に現れた。
「ちょっとなに、あの子? コスプレ?」
「こんな地方の駅前で? ないっしょ」
女子高生が言うとおり、何かのコスプレなのかもしれない。
中学生くらいの背格好に、和服みたいな地味目のコスチューム。それとは不釣り合いな中世ヨーロッパ風のロングソード。衣装には使い込まれた感が出ていて、ところどころボロボロなのも、そういう設定のキャラなのかもしれない。
ヘアースタイルは一転して派手。キラキラとした銀のベースカラーに、前髪にワンポイントで赤のメッシュ。
これだけでも人目をひくが――。
「……しかし……、可愛い子な……」
「だから!」
くっきりとした目鼻立ち。
流れるように美しいフェイスライン。
カラーコンタクトでも入れているのか、瞳は丸々として大きく、紅い。
日本人離れしたそのビジュアルと、キャラ設定のメイクか、顔や腕、足に無数に傷があるのもあって、さらに人目をひく。
これで笑みでも浮かべていれば、その愛らしさにもっと多くの人の目が奪われることだろう。
だが――。
「……ここ、どこ……?」
キョロキョロと辺りを見回す彼女の表情は、行き交う人々の好奇の目もあってか、怯えてでもいるようだった――。
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