波導の少女と風韻の魔名術 1
美名は気が付いた。
ロ・ニクラが自身を見てくるのは変わりないのだが――
「……綺麗な
「……」
「今度はその髪を切ってくれるのかな?」
美名は「
「……投降しなさい。今、投降すれば、まだ何も起きていない。何も
「……私の話は聞く耳持たず……なんだね」
ふっと失笑して、ニクラは肩をすくめる。
「……罪や罰を
言うや否や、朝の
「……
「ラ行・
「光を曲げる」ことができる高位の術で、波導の魔名を持たない者にも遠くの景色を見せてやることができる、「
ニクラはこの術に精通しているようで、「姿を実体と違って見せる」使い方をしていたと、
「逃がさないわ!」
今朝交わした、モモノ大師とのやりとりを美名は思い出す――。
*
「姿を消す、足音を消す……。戦争の時代、光と音の波を操る波導術者は、優れた密偵だった。けどねえ、美名嬢。小娘と美名嬢とでは、経験の開きが大きい」
「経験ですか……?」
「ああ。小娘の経歴はあらかた知ってるがね。ヤツの実戦経験はせいぜい、魔名教学館での教練と、治安が良好な
「……居坂の旅はそこまで危険じゃないですけど……」
「そういうことにしときな。謙遜ばかりじゃいけない。自信を持つことは度胸が据わって、
「私の経験……」
「波導の密偵は、
「……モモ
「……アタシはちょっと、野暮用があってねぇ……」
*
(注意を払う……。感覚を研ぎ澄ます!)
少女は目を凝らし、耳を澄ませ、鼻を利かす。
(……ただの林……)
緑の景色。
木立の中。
風が少し流れている。
美名の全感覚は今、首から上に集中していた――。
(ニクラを見失った……? ……いえ!)
美名の鼻孔をくすぐる、
(……枝が折れた香りがする……。土が蹴り上げられた匂いがする……。何も物音が聴こえなかったはずの、風上から流れてきてる!)
美名は風上に目を向ける。
木々の合間に見える、
二十歩以上先のその中に、風に揺れない藪の葉があることを美名の目は捉えた。ヒトの形をした、無風の領域――。
「そこね、ニクラ!」
二色髪の少女は「
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