世間知らずの教主と世間ずれした識者の大師 2
「いえ、タイバ大師こそ、お目通り久しく、御達者な様子で何よりです」
「はっは。これでも、妻の勢いには負けが続いておりますのでな。あんまり持ち上げんでほしいものです」
(大師……? 『
タイバ大師は、どこにでもいそうな老人であった。
小柄で痩せぎす。
本人の
白い生地は絹であろうか、それともクミの知らぬ素材であろうか、陽光を直接反射するのでなく、ヌラリとした独特の光沢を放っている。加えて、金糸、銀糸がふんだんな織り装飾も施されていて、華美そのもの。
さらには、外套衣の隙間からチラチラと見える筋張った
大きい石、輝きの強い石、細やかな
(う~ん……。コテコテの、「
クミにはもうひとつ、タイバ大師の気になる点があった。
それは、絶えず浮かべられたまま、寸分も形の変わらない笑顔――。
(
それでも、現在は目下、「魔名解放党」の件を抱えた(内密ではあるが)非常時である。教主フクシロは主塔入り口
「……ちと私用で本部まで寄ったもので、フクシロ様にもご挨拶しとこうと思いましてな。いや、突然の
「いえ、いえ。それでは今、御通ししますね」
教主フクシロが、「
(えっ?!)
「いつ来ても、この宣誓ばかりは面倒ですなぁ。ええと……。
(えっ?! えっ?!)
「……はい。タイバ師と、その心が『分つ環』を潜ること……」
(えっ?! えっ?! えっ?!)
「……ちょっと!」
思わず、クミは大声を張っていた。
決して広くはない主塔の「入り口の間」に響いたその声は当然、教主フクシロとタイバ大師の注意を引き、黒毛のネコにふたりの視線が注がれる。
クミはまず、教主を無言で見上げる。
「そうじゃないですよね?」と、非難する意を込めた視線である。
そして、目線は返さないものの、タイバ大師の視線に気を配る。肌に刺さるように感じるほど、老人は自身を見つめてきている――。
(くぅ……。「
見つめ続けるネコの瞳から、
ハッとしてタイバ大師に向き直る教主の少女。
「……タイバ大師。申し訳ありませんが、『魔名解放党』に所属していない旨も、宣誓していただいてよろしいですか?」
(えっ……?!)
「まな……かいほーとー? なんですかな、それは……」
「今現在、『魔名解放党』という集団に属する者を、探しているところなのです」
「ふむ……」
(ち……、ちがーう!!)
クミはまた
(教主、フクシロ……! この
しかし、クミの危惧は、現実とならずには済んだ。
「よう判じませんが……、『儂、ノ・タイバは、まなかいほーとーに所属はしておらんこと』、誓ってこの門を潜りたく願いましょう」
「……はい。ノ・タイバ師と、その偽心なき宣誓の通過を許可します」
こうして、タイバ大師は『分つ環』の門を弾かれることなく通過した。
すなわち、大師の宣誓は真実であると、
(まぁ、まぁ……、結果オーライかな? ひとまず、このおじいちゃん大師が『解放党』でないことは確定したんだし……)
だが、この来客の問題はもうひとつ残っていた。
入塔した老大師は、教主フクシロの背後、薄闇に溶けこむような黒毛のアヤカム目掛けて真っ直ぐに歩いてくると、元々曲がっている腰をさらに曲げて覗き込んでくる。
「
(ゲェッ! 忘れてくれてなかったか……)
「これは……価値がありそうじゃわい……」
タイバ大師の顔に浮かんだ笑顔に、クミは不安を煽られる。薄開かれた
だが、なぜかしら、胡散臭く感じた先ほどまでの笑顔とは違って、今の顔のほうがよほど大師にしっくりくると、クミには思えた。
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