説話会とその機会を破るもの 2
これは、今回のような「魔名教集会」や魔名教の
そして、「魔名教集会」の場では、場を
「
これにより、参列する者の「襟手」が解かれる。
大師の言葉が終わって三拍ほどのち、長椅子の者は腰を下ろした。
そのさざめきが落ち着いた頃を見計らって、
教会堂の広さにも関わらず、よく通る澄んだ声音だった。
「今日は私、当代の『ハ行
そう言うと、シアラ大師は聴衆の顔をひとつひとつ堪能するように、ゆっくりと目線を流していった。
「……まず先にご報告いたします。先日、『
「……『何者か』?」
明良の疑義のある
「……私も昨日、
「……秘密?」
「うん。あれから相手も音沙汰ないらしいし、ひとまずは荒立てないってなったらしいよ。私も『動力大師』のことは他言するなって言われたわ」
(あれだけの大がかりな魔名術、
明良は聴衆に向けて事態の現況を説明する大師の顔を見上げる。
大師の言を要約すると、以下のようだった。
「智集館への襲撃の目的は不明。現在、術者とその動機の究明に全力を尽くしている。現段階では
(あの
「……さて、希畔の輩に向けてのご報告はこれくらいにして、
登壇者は、自身の眼鏡の側部に手を添え、仕切り直すように位置を正すと、いくらか軽くなった声音で続ける。
「……明かしてよいのかどうか判らないことを明かしますと、このような説諭の場に登るためには、魔名教学校で『
いったんそこで言葉を切ると、シアラ大師は赤茶けた長髪頭をポリポリと
「私の『講話学』の成績は最も低い、『不足』でした」
堂内にかすかに笑いが起こる。
黒髪の少年もふっと笑いを零す。
「……そんな者でも説諭に登れますし、『
言い切った去来の大師は、そういう自分を誇るかのように、少しだけ、その長躯を伸ばして胸を張った。
「『講話学』においてですが、説諭の類型を分けられて学びます。最も一般的で、皆様にも馴染みがあろうものが『引用』。『魔名教典』や『
去来の大師は、「ね」と言って肩をすくめる。
「解き明かしされると、教会師のありがたみもなんだか薄れてくるでしょう?」
教会堂に、ふたたび笑いが響く。今度のは、先ほどよりもいくらか大きい波であった。
明良も含み笑いをしつつ、思う。
(これのどこが「ヒト嫌い」で「不足」なのだか……)
聴衆の様子に嬉しそうに微笑んで頷くと、去来の大師は振り返って背を向けた。
講壇の後ろには石灰で書きつけることのできる黒塗りの
シアラ大師もこの黒板を使用するようで、石灰をカッカッと鳴らしていく。
振り直った大師の背面、黒板に連ねられた言葉――。
「……私には説諭の才はありませんので、今回は最も一般的な話法、『引用』をしたいと思います」
「嘘偽りのない居坂は、よき世である」。
「……『
もう一度、自身の筆記内容にチラリと目を配せると、去来の大師はまたも、眼鏡の位置を少しだけ正した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます