希畔の有力者たちと眼鏡の去来大師 3
静寂が長い。
そんな中で不意に、大師の
相手は
「……あの方は
続けて、大師はネ・ハルガのすぐ隣、恰幅のよい男に目を移す。
大師の眼鏡が捉えに来ると、この男もまた、そのふくよかな顔に
「左手奥の方は、希畔商店組合の
同様にして、去来大師のシアラは場の全員をひとりひとり、明良に紹介していった。
(……なんだか判らんが、コイツらは
明良が呆れて、大師が
「……こちらのご婦人は、対面の農畜産組合長の奥方、テ・ナフピンさんです」
黒髪の少年は目の開きを少しだけ大きくする。
(……いた。『タ行
去来大師に紹介されたのは、先ほど発言をしていた、右手側手前の
明良がこの場の者に名乗りを求めた大きな理由は、コレである。
「使役者」が希畔の町にいることには確信のある明良。
この場が、その捜索のための「縁故」を作れそうにもないと判断した少年は、念のため、「タ行使役」の魔名の持ち主がこの中にいないか、確認したかったのである。
(だが……、『
明良はそれと悟られぬよう、女を観察する。
過剰な
身なりや髪まとめは小綺麗で、控えめながらも値がありそうな装飾品を身に着けていることから、彼女の家柄や稼業の金回りのよさを連想させた。
しかしその
(コイツは、違うな……)
直感するとともに、明良はどこか安堵した。
自らの復讐の相手にこんな女は相応しくない、と、どこかズレのある安堵であった。
「……いかがですか? アキラさん」
去来大師の澄んだ声が自分を呼んでいることに気が付いて、明良は顔を上げた。
「これで列席者全員となりましたが?」
「あ、ああ……。
「では」と、去来大師は「大屋主」、ネ・ハルガに顔を向ける。
「どうぞ、お続けください」
希畔の首長は少しの動揺を見せたあと、コホンとひとつ咳払いをする。
「……では、アキラ……さんに問おう」
大師の言い方に
「我々は今回の事態を正確に把握しなければならん。最悪の場合、『戦争』になるかもしれん」
「戦争……?」
「当然だろう? 『
明良は動力の大師の様子を思い浮かべた。
(威圧と血気は凄かったが……、あの男は、「二心」というものを持つような性質の男か?)
どこか楽し気に明良に誘いをかける髭面相に暗い物を感じるかというと、明良は首を縦に振り切るのを
「動力の大師がなぜ襲撃してきたか、思い当たるところはないか? 聞いたところによると、君とギアガン大師とは会話していたらしいとの声もある。彼の口から何か、聞いてはいないか?」
確かに、動力の大師、コ・ギアガンは「智集館」に対して敵対行為をとってきた。
明良自身も少なからず、動力魔名術師の筆頭の
だが、あの豪快に笑う大師は、「二心」などといったものを超えたところで「
あのふたりは、無関係な者の生死に障ることなく彼らの目的を遂げるために、あのように土壁で囲ったのではないか。
明良はそう感じる。
とはいえそれは、彼が勝手に抱いただけの根拠のない印象である。
まさか、あれほどの者でそんなことはないだろうとは明良も思うが、別に「二心」ある者が首謀におり、動力大師は手駒となっている可能性もある。
だから結局は、明良には何とも言えない。
言えるとすれば――。
「……ヤツらは、『智集館』内の誰かを捕らえる目的だったようだ。砕けた魔名術の
希畔の首長、「大屋主」は「ふむ」と考え込む様子を見せる。
「……そうであれば、その者を見つけ出してこの町から追放すれば、最悪の事態はなんとか避けられるかもしれんな……」
距離があり、声を抑えてはいたが、聴き取った明良は片眉を
(……
「大屋主」は少しの沈黙のあと、ふたたび明良に目を向ける。
いや、明良に、ではなく――。
「……その
明良が背負っている――「
「……それでもって、動力大師と対していたようだな。高名な『
「……
場に少し、動揺の空気が流れる。
「この刀は、
「幾旅……金……」
「大屋主」以下、議会の面々はまたも
大師はそれらに構わず、好奇の目を明良に寄越すばかり。
「大屋主」は明良に顔を戻し、コホンと咳払いをする。
「……所有者が不明瞭な遺物は、魔名教会に届けなければいけない。ご存知か?」
「……知っている」
「では、その遺物は置いて行ってもらおう」
横暴な言に明良は一気に激したが、どうにかそれを抑え込むと、「なぜだ?」と問い返す。
「なぜ、置いて行かねばならないか。説明願おう」
「今、言ったとおりだ。『所有者が不明瞭』だから……、遺物は『
明良の理性は一気に飛んだ。
だが、荘厳な会議室に彼の怒声が響くことはなかった。
代わりに響いたのは――。
「所有者はアキラさんです」
男性低音にもかかわらず、澄んだ色の声であった。
「私は遺物に限らず、『相応しい者に相応しい物を』、といった考えを
言い切ると、去来の大師は、明良とは反対側――「大屋主」に顔を向ける。
明良からは大師の顔色を
少しばかり、明良には
「と、とにかく……、町中では無闇に抜かないようにだけしてほしい。以上だ、出て行ってくれ」
もう用無しだと言わんばかりの態度で退室を勧められた明良は、願ったりと内心で喜び、退室の挨拶もせずにさっさと広間を辞していった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます