第345話

ある程度脱水はしているとは言えど、水を吸った衣服は少し重く、小さなシャルの体ではしんどいだろう。

やっぱり、俺がよほど忙しい時でもなければこうやって一緒にするぐらいがちょうどいいかもしれない。


出来れば、シャルに家事をさせたりせずにいたいが……本人はむしろもっとしたがっているしな。本を読んだり縫い物をしたりと趣味を楽しめる時間はあるみたいだし、時間がある時に俺もするぐらいがちょうどいいかもしれない。


そんなことを考えながら淡々と干していると、シャルの顔が少し曇っていることに気がつく。


「……シャル?」

「えっ、あっ、はい。な、なんでしょう」

「いや、どうかしたのか? その……なんだ、落ち込んでいるように見えたが」

「お、落ち込んでなんかいませんよ」


シャルは慌てたように否定する。


「……もしかして、さっき俺が下着を見てしまったことを気にしているのか? ……その、悪い」

「い、いえ、そう言うわけでは……」


そう少女は口にするが、落ち込んでいる様子は間違いなく、先程まではご機嫌だったのも確かだ。あれからへこむような出来事はそれぐらいしか覚えがない。

……先に手に取らずに、察して見て見ぬフリをすべきだった。女性下着などそうそう目にするものではないから気がつくのが遅れてしまった。


などと自省をしているとシャルはより落ち込んだ表情で首を横に振る。


「い、いえ、本当に……その、ランドロスさんが悪いわけではないので」

「……シャルの失敗もあったかもしれないが、配慮が不足していたのも確かだ」

「い、いえ、その、そうではなく……」


シャルは俺の方に目を向けたり逸らしたりと繰り返してから、こくりと喉を鳴らして意を決したように赤い顔を俺へと向けた。


「その、今からするのは……懺悔なんです。悪いと分かっておきながら、悪事を働いたうえに……その悪事を隠して誤魔化そうとしていたんです」


真剣そうなシャルの表情。

……シャルが悪事……? 自分が飢えていても人に分け与えて施したりするシャルが……?

むしろ悪とは最も遠くに位置する存在だろう。


けれどもシャルは至って真剣な表情だ。嘘を吐くとも思い難く、何か理由があり悪事を為してしまったのだと思う。

……何があろうとシャルは守る。強くそう思いながらシャルを見返す。


「……と、だったんです」

「……?」

「……ざと、だったんです。さっきの」

「ざと?」

「わざとだったんですっ! ……ら、ランドロスさんにパンツを見せたのっ!」


思わぬ方向から飛んできた衝撃に思わず呆気に取られる。

 ……クルルなら分かる。いや、むしろクルルのパンツが俺の手に渡ったら、間違いなくクルルの仕業であると確信して、安心して楽しむことが出来る。


だが……あの恥ずかしがりのシャルがわざと下着を見せるなんて……俺の家族、ネネ以外全員変態になってしまうではないか。


反応に困ってしまう。……わざと見せてくれたわけだし……お礼を言うべきだろうか。シャルのことだし、俺が喜ぶと思って見せてくれたのかもしれないわけだしな。


「……あの、ランドロスさん?」

「ああ、いや……ええっと、ありがとう?」

「へ? ……えっ、あっ……ど、どういたしまして……?」


シャルは不思議そうにそう言ったあと、顔を真っ赤にして首を横に振る。


「ち、違います。その、ランドロスさんに喜んでもらうためではなく……。いえ、ある意味ではそうなんですけど……。そ、その、クルルさんが羨ましくて……」

「シャルも俺にパンツを見せたかった……ということか……?」

「ち、違いますっ! その……ランドロスさんの注目を浴びているのが羨ましくて、でも直接見せる勇気はなかったから……」

「……悪い。その、本能的に見てしまって……」


好きな女の子のパンツが見える状況で見ずにいられるような精神力の人間なんているだろうか。いや、いない。


「いえ、それは良くないけどいいんです。ただ、羨ましいので真似をしてしまって……はしたないからとクルルさんのことを止めておいて、自分はするなんて卑怯なことを……」

「……ま、まぁ、それぐらいいいんじゃないか?」

「良くないです。あまつさえ、その悪事を隠して知らんぷりをしようとしました。僕は悪い子です」

「……なんで白状したんだ?」

「……その、ランドロスさんが気にしていたので……喜んでいただけるなら、そのまま隠し通すつもりだったんですが、辛い思いをさせるわけにはいかないので……」


ああ……なるほど。


「僕がみだらな女の子だと思われるのはとても恥ずかしいです。ですが、それを隠すためにランドロスさんに辛い思いをさせるわけには……」


どう反応していいか分からず、とりあえず抱き寄せて背中を撫でて誤魔化す。

……思ったより大したことじゃなかったな。


「まぁ、それぐらいはいいんじゃないか。みだらというほどでもないしな」

「いえ、僕はふしだらな女です。人よりランドロスさんの気を引くためにえっちなことに誘ったりしてしまっていますし……。恥ずかしいから出来ないだけで、したいとは思っていますし……」


シャルは顔を赤らめ、瞳を潤ませながら俺の表情を伺うように口にする。


「僕は、たぶん……その、人よりもふしだらなのだと思います」


そんなことはないと思うが……いや、シャルの内心は俺には分からないしな。

もしかしたら頭の中はエロいことでいっぱいなのかもしれない。嫌だからか、むしろ興奮するな。


「……まぁ、人は誰しも性的なことに関心を持つようになるわけで、自分で言うのもあれだが、両想いで好きあっている相手と日頃から触れ合っていたら、そうなるのは仕方ない」

「……そう、ですか?」

「ああ、シャルが変なわけじゃなく、一般的なことだから、そんなに気にしなくていい。さっきのことも俺は怒っていないし、クルルに話したとしても怒ることはないから、気にする必要はない」


シャルは救われたようにこくこくと頷く。

……強引に押せばやることやれそうだな。などと考えそうになる頭を横に振って考えを消す。


睡眠不足のせいで理性が不足している。カルアとのデートまで時間があるので、一度仮眠を取った方がいいだろう。

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