第335話
クルルは俺と歩く時、いつも上機嫌だが今日はよほど時間がないのか早足で焦った表情をしていた。
「そんなに時間がないのか? 背負おうか?」
「あー、時間としては大丈夫なんだけどね。今回はちょっと早めに行っておかないと良くないから」
「時間は大丈夫なのに早めに?」
「うん。今回の集まりは七大ギルドのマスターだけだからね。一番若くて新入りなのは私だから、あまりゆっくり行くと反感を買いかねないから」
ああ、なるほど。色々と面倒だな。
ここに来てそこそこ時間が経ったが、あまりギルド同士の関係などは聞いていなかったな。
「その七大ギルドってのは、どんなのなんだ?」
「規模が大きかったり、強い人が所属していたりとかで影響力が高いギルドのことだよ。うちは規模としても大きいし、強い人も多い。それに、人間以外の種族の代表として……みたいな理由もあって呼ばれてる感じかな」
「他にはどんなギルドがあるんだ?」
「ランドロスが知っているところなら剣刃の洞とか炎龍の翼とかかな。あとは……まぁ着いてから説明するね」
この方向は前のように剣刃の洞だろうか。
少し歩いていると、クルルの手がちょんと俺の手に触れる。
「少し冷えるか?」
「……うん」
軽く手を握るが冷えたような感触はなく、むしろ暖かくなっているぐらいだ。
言い訳のように寒そうに身を寄せて、それからポツリと口を開く。
「……怒ってる?」
「何がだ?」
「カルアと一緒にいたかったかなって」
「まぁ、カルアと一緒にはいたかったが……」
俺がそう言うとクルルはしょんぼりと目を伏せてしまう。
「……でも、クルルとも一緒にいたいからな。怒ることはない」
「えへへ、そっかぁ。……後でカルアには謝らないとね」
「カルアも怒ってはないと思うけどな」
「でも、横取りしちゃったからね。……今日は早く帰らないとね」
「まぁ、前みたいなのはな」
そう俺が言うと、クルルは前のときのことを思い出したのか耳まで赤らめていた。
「あっ、今日はここだよ」
「ああ、剣刃の洞のギルドじゃないのか」
立ち止まったクルルに続いて顔を上げると、周囲の建物とは少し毛色の違う白っぽい壁の建物。見覚えがあるようなないような。
「……あ、なんか、教会っぽいな」
「うん。そういう趣旨のギルドでね。天神教迷宮国支部って名前のギルドなんだ」
「……そんなところがあったのか」
「一般に礼拝している人もいるから静かにね」
「ああ、一般でもいいのか。そこそこ近いしシャルを連れてきたら喜ぶかもな」
俺がそう言うとクルルは微妙そうな表情を浮かべる。
「あ、あー、それは……どうかなぁ」
「ん? 普通に喜ぶ気がするが」
「いや……なんて言うかね。その……支部って名乗ってるけど、正式な支部じゃないというか、本部とは繋がりがないんだよね」
「まぁ他国だしな。シャルは権威とか気にしないだろうし問題ないと思う」
「いや、権威とかじゃなくて……その、習ってない人がそれっぽい感じで立ち上げたんだよね」
……?
「ん? つまり、どういうことだ?」
「そもそも教義が違うの。祈り方とか、そこら辺も全部違ってね」
「それはもはや別の宗教だろ」
「主な教義は『食事はよく噛んでから飲み込もう』だよ」
「それはもうただのコスプレ集団だろ」
まぁ、魔族をぶっ殺せって言うような連中じゃないだけマシか。何か教会っぽい形の建物に入ると、それっぽいけれど何かどことなく違う感じの内装や祈り方をしている人や、若干似ていない神の像などが飾られていた。
マジでそれっぽいだけだな……。いや、まぁ、歴史的背景とか分からないからツッコミにくいけど、何か色々と違う感じがすごい。
「ここも七大ギルドのひとつでね」
と、クルルが衝撃的なことを口にしたとき、奥の方から修道服っぽいけどよく見るとなんか違う感じの服を着た女性がやってくる。
「【
「あ、はい。ランドロス、行こうか」
奥の方に通されて、以前の剣刃の洞の会議室とは違う少人数用のさほど大きくもない部屋に入る。
中にいたのは厳かな格好っぽいけれどよく見ると下に部屋着を着ている髭を蓄えた老人が腰掛けていた。
「あ、お久しぶりです。超司祭様」
えっ、なんて?
「クルル、今なんて?」
「お久しぶりですって」
「いや、そのあと」
「超司祭様?」
「……何だ。超司祭って、流石にそんなふざけ方してると怒られるぞ」
「いや、そういう役職なんだよ。長い間、元の方と交流がなかったせいでね。そうなったんだよ」
そうはならないと思うんだが……。と考えていると、クルルが俺にも挨拶をするように促す。
いや、こんなふざけた教会のふざけた役職のおっさんに挨拶なんてしたくないんだが……。そうは思いながらも、よく考えたらこちらもギルドマスターが幼女なのであまりとやかく言える立場ではないな。
仕方なく挨拶をすると、超司祭がボソリボソリと何かを言う。
無視するのも悪いので近寄ろうとすると、クルルが俺に説明をする。
「超司祭様は人を正しい道に導くことが出来る尊い人らしいし、お話はちゃんと聞いた方がいいよ」
「……こんなやばい人の話を聞いて導かれたくないんだが……」
仕方なく近寄って耳を傾けると、低く小さな声でボソリ語る。
「……女性の二の腕の感触とおっぱいの感触は同じ」
「!?!?」
超司祭の衝撃的な言葉に思わず目を開いて後ずさる。
ま、マジか……? マジなのか? ……つまり、二の腕を揉んだら実質胸を揉むのと変わらないということなのか……!?
こ、これなら、シャイなシャルやカルアの胸の感触を知ることが出来るのでは!? ネネは二の腕すら触らせてくれそうにないが。
驚いて目を見開いている俺を見て、クルルが少し驚いたように声をかける。
「ど、どうしたの?」
「く、クルル……。この超司祭……本物だっ!」
「えっ、そんなにすごいありがたいお言葉をいただいたんですか?」
「ああ、只者じゃない。生きるべき道を指し示された気がする」
……いや、冷静に考えると、それほどすごい情報ではない気がするけど、それでも俺が知りたい情報であったのは間違いない。
……マジなのか、どうなのか、判断がつかない。
いや、男相手だったら誰にとっても有意義な情報な気がする。
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