第322話

「そもそも何だけど、私がギルドに入ってもやることないよ」

「普通に探索とか、あとはめちゃくちゃ迷宮に詳しいわけだし詳細な地図や歩き方を書いた本を出すとか?」

「いや……自宅の庭を探索してどうするの。迷宮を誰でも入れるように開放してるのは魔王候補を探すためだから、難易度が下がって誰でも登って来られるって状況になったら困るんだよね」


 ああ、アブソルトもシルガも迷宮に登って魔王になったようだし、そういう仕組みだったのかと納得する。


「でも、魔族がなるんじゃないのか? 魔族以外でも魔王になれるのか?」

「仕組みとしてはなれるけど、基本的に魔族を率いてもらうからほとんどさせないね。基本的には純粋な魔族だけにするかな。シルガを魔王に選んだのは、独力でも世界を壊せるって判断したからだよ」

「……まぁ、アイツならな」


 単純な力はまだしも、厄介さならアブソルトをも遥かに凌ぐだろう。カルアに次ぐ知能とイユリ並みの魔法技術に、勇者を凌ぐ剣技、初代クラスの治癒魔法、そして何よりもそれだけの強さがありながら手段を選ばない精神性。

 アレは、強かったな。


「まぁ、そういうことだけど、それに……やっぱり戦闘に向いているように作った魔族は純粋に強いよ。迷宮は、普通なら長い時間登ることになるから現地調達をしないと食料はすぐ尽きるんだよ。だから、人間の利点である多人数での行動はむしろ不利に働く。魔族のようにひとりふたりでパッと狩りをして活動する方が有利なんだよね。長期間同じ階層に留まらないから補給部隊みたいなのも難しいしね」

「……そもそも魔族向きなのか」

「そうだね。魔族が少ない人数で狩りをしながら進むってのが正攻法かな。もちろんグライアスみたいなハズレ値もいるけど」


 まぁ……アレはなぁ。本来なら獣人は不得手なはずの魔法を誰よりも多く使っていて、常に回復し続けている化け物だ。

 ボリボリと頭を掻いて考える。


「まぁ、俺としては入って欲しいとは思ってないが……。何かのためにって必要はないだろ」

「どういうこと?」

「義務が発生するわけでもないし、あまり深く考える必要はないんじゃないかってことだ。嫌なら嫌でいいと思うしな」

「嫌というか……みんなすぐに死んじゃうから」

「ミエナは相当長生きするだろうし、初代は実質不老だが……」

「私よりは先に死ぬよ」


 そう言われたら否定出来ないな。

 ゆっくりと水を飲んでから、管理者に言う。


「自分が死ぬまでに死ぬ奴は、全員自分よりも先に死ぬだろ」

「……? うん、そうだね」

「……何か変な言葉になったな。まぁ、何にせよ、子供からしてみたら周りのやつは大体自分よりも先に死ぬもんだけど、仲良くなる前からそんなに気にするものではないだろ」

「仲良くなってからだと遅いよ」


 どうなんだろうな。先に死なれるのが嫌という気持ちはよく分かるが、だからといって関係を断つというのも理解出来なくはない。


 だが……なんとなく納得しがたいというか、否定したくなるというか……。と考えていて気がつく。


「ああ、管理者がそれで傷つくのは俺が死んだ後だから、そんなに気にならないのか。俺が生きている間に見ることになるのは寂しさで傷ついている姿だけだしな」


 まぁ、あまり無責任なことは言えないな。どちらかと言うとそんなに好きな奴というわけでもないので、どうしても助けてやりたいみたいな気持ちはないしな。


 カルアに目を向けると、うんうんと頷いてから口を開いていた。


「ところでなんですけど、これを世界にばら撒いたんですよ」


 そう言いながらカルアが見せたのは昨夜の植物の種だった。


「何、それは」

「私が作った、現在の生物では分解出来ない化合物を合成する植物です」

「……ん、んんっ?」

「つまり、これが繁殖したら世界が滅びます」

「……さっき世界にばら撒いたとか言ってなかった?」

「言いましたよ。だから、何もしなければ数万年後滅びます」


 このタイミングでその話をぶち込むのか……。いや、まぁ……変に管理者と親しくなった後に話すのよりかは……。

 俺が頭を抱えていると、カルアは悪びれる様子もなく話を続ける。


「私はこれの対応方法が分かってますし、対抗するものもすぐにでも作れます。でも、管理者さんはそういうのは苦手ですよね」

「……えっ、いや、本気?」

「元々はランドロスさんを魔王にさせないために脅しとして使おうと思っていたんですが、その必要もなくなったので……。チヨさん、共に世界を救いましょう」


 管理者は俺とカルアを交互に見て、カルアを指差しながら俺に言う。


「ら、ランドロス……君の嫁、おかしいよ」

「……いや、うん。まぁ……ほら、結果的には大丈夫だろうし」

「いや、そういう問題なの? えっ、いや……ランドロス、嫁の問題行動はちゃんと咎めて、こういうことを管理しないとダメだと思うよ」

「いや……あまり強く言って嫌われるのは怖いしなあ」

「「怖いしなあ」じゃないよ。世界を人質にとって自分の意見を通そうとするのはやばいよ」


 それはそうかもしれないが、可愛いしな……カルアは。キスとかさせてくれるし……。


「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。私がこの世界を救うので、救世主なので」

「それマッチポンプって言うんだけど」

「おほん、とにかくですね。力を合わせて世界を救う必要があるんですから、仲良くしましょう」

「……ええ」


 管理者はドン引きした様子で、シャルは話に付いてきていられてないようで、不思議そうに首をこてりと傾げる。可愛い。


「いや、仕方ないじゃないですか。まさかここまで簡単に説得出来ると思っていなかったんですもん。ランドロスさんを守るためにそうする必要があったんです」

「いや……普通、ひとりのためにそこまでするかなぁ」


 管理者は仕方なそうにため息を吐く。


「ちゃんとどうにか出来るんだよね」

「そうですね。手伝ってくれるのでしたら今日中にでも世界を救うことが出来ます」

「……なら手伝うよ。うん。……あのさ、なんて言うか……ヤバいね」

「何がですか?」

「カルアが」

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