第321話
気まずさに負けて自分から言い出したことだが、これ遊んでいても気まずいな……と思いながらシャルからカードを引く。
真面目に勝とうと考えても運の要素が強いゲームだな。まずシャルからカードを引くことになるが、参考になるのはシャルの表情ぐらいのものであり、その表情もシャルがジョーカーを握っていなければ意味がない。
シャルは俺の手札を知らないわけだから、ジョーカー以外のカードはどれが揃うのかはシャルも分からないわけだし表情を読んでも仕方ない。
適当にカードを一枚引いて、カルアに引かせる。
特に何の変哲もない行為のはずだが……何巡かして、妙にカルアのカードの減りが早いことに気がつく。
確実に毎回減っていっているわけじゃないし、単に運がいいだけか? イカサマとかは普通にやりそうな奴ではあるが、魔法は使えないし手先も特別器用というわけでもなくおかしな仕草もない。
たまたまか……? と考えていると、あることに気がつく。……ほぼ毎回、端に持っているカードを取っている?
ああ、俺がシャルから取って手札に加えたカードか。何の意味があるのだろうかと一瞬考えるがすぐに理解する。
シャルも俺もペアになっていないカードの方がペアになりやすいのか。単純に確率はかなり上がるし、イカサマとは言い難い。
取ってすぐにカルアの前に渡すのではなく、ちゃんと混ぜた方がいいか。と、考えていたところシャルから取ったカードがジョーカーだったのでそのままカルアに回す。次の手番からでいいだろう。
それにしても、案外シャルも表情を隠すのが上手いな。ジョーカーのときとそれ以外の時で何も変わらなかった。
それから序盤の流れのままカルアが勝ち、続いてメレク、シャルと上がって俺と管理者の一対一になる。
「……あのさ、ランドロス」
「どうした」
「若干気まずくない? 大人同士でこう顔を向け合うのって。表情を読むために見つめる必要があるし」
「まぁ、それは確かに」
俺の表情をじっと見つめて、それからニヤリと笑ってゆっくりと引き抜くが、それはジョーカーである。
「……というか、今更だけど忙しくないのか?」
「忙しい合間を縫ってきてるんだよ」
「……期限はどれぐらいとか分からないのか?」
「生き物のことだからね。おおよそでしか判断出来ないんだよね。仲間を呼ぶ習性はないけど、一匹がくる状況ってことは他のも来る可能性が高いはず。さっさと餓死させないと厳しいね」
「……そうか」
まぁ、倒せなかったとしても所詮は生き物が一匹だけなら食う量も程度が知れているのでそこまでの被害は出ないか。
それよりも後続がやってくる方が怖い……と。
「万が一、シユウ……前の勇者が倒す可能性とかはないか? 氷魔法の出力ならなかなかのものだが」
「ないね。あれで倒せてたら苦労してないよ」
管理者の手にあるカードを引く。ジョーカーである。
「なら放置じゃダメなのか。わざわざ自分達の手を汚す必要はないだろ」
「……それで生態系が安定してしまうかもしれないからダメかな」
管理者は俺の手からカードを引くが、やはりジョーカーである。……コイツ、純粋に運が悪いな、さっきからずっと二択で外してる。
「……もしかしてなんだけどさ、情で懐柔しようとしてる?」
「……いや、これはそういうわけじゃなくてただ単にやることがない状況だと気まずいかと」
「これは……ということは、そういうことをするつもりだったんだね。……まぁ、うん、それは……成功したのかもね」
俺は管理者の手からジョーカーを引き、ジョーカーを返す。……コイツ、何回外すんだ……あまりにも勘が悪すぎる。ここまでババ抜きが弱いのによく世界の支配者をやってたな。
「成功した?」
「……知り合いが不幸な目に遭うのは、悲しいからね。丸め込まれようとしてるとか、情で絆そうとしているとか、分かってはいてもね」
「……まぁ、分からなくはないな」
俺もなんだかんだで自分を殺そうとした奴に同情したりしてしまうし、人を嫌いになるというのは難しい。
まぁ、ルーナは絶対に許さないが。孤児院への補助を切りやがって……。
今もどこかの子供が飢えていると思うと気分が悪くなる。
俺と管理者のやりとりを見て、カルアはポツリと口を開く。
「何かのゲームをしながら真面目な話をするのってカッコいいと思うんですが、そのゲームがババ抜きで、お互い外してまくってるのがアレですね……」
「いや、トウノボリ、表情が全然変わらないんだよ」
「それはそうなのかもしれないですけど、でもなんでしょうか、このおマヌケ感は……」
そう言われてもな。と言っている間にまた管理者が外す。……俺の負けでいいから当ててくれよ。
それから三回ほど外した後、やっと数字のカードを引いて上がることが出来た。
「……いい勝負だったね」
「ああ、なかなか奥の深い遊びだった」
「ドンケツ二人が何言ってんだ……? というか、今の話ってなんなんだ?」
「あー、メレクは気にしなくていい。大したことじゃない」
いや、世界が滅びるとかは大した話か。まぁ、妻が身籠ってているメレクを巻き込むのはありえない。
「そもそも、何の繋がりなんだ? あと、若者ばっかで気まずいから抜けていいか?」
平均年齢一万歳だからむしろ若者だが……と思っていると、メレクは耳元で小声で尋ねてくる。
「大丈夫か? 面倒ごとなら引き受けるぞ」
「……メレク、子供が出来るんだから少しは大人しくしてろよ」
「心配ぐらいはするだろ」
「まぁ、本当に大丈夫だ。心配はいらない」
メレクは小さくため息を吐いて、ぽすぽすと俺の頭を叩いてから厨房が見える位置の席に移動する。
話しかけにきたの、俺が管理者に警戒していたのを察してか。暇だから俺をからかいにきたのかと思っていた。
「もう一回しますか?」
「いや……もう勘弁して。一応見学って体なんだから見学させて」
「とは言ってもな。別に特別なものとかはないしな。……まぁ適当に紹介するか」
座ったままカウンターの方に目を向ける。
「基本的に日中はギルドの外の奴でもここは出入り自由だし、飲食も利用出来る。少し割高だけどな」
「普通だね」
「あと、俺はしたことがないが、食べたい物があったら割と何でも作ってくれるらしい。まぁ、慣れないものを作るわけだから必ずしも上手く出来るわけじゃないだろうが」
「へー、お寿司とか作れるかな?」
「なんですか、それ」
「炊いたお米にお酢を混ぜて生魚を乗せた料理だよ」
管理者の説明を聞いてシャルとカルアは微妙そうな表情を浮かべ、俺は仕方がないので助け舟を出すことにする。
「いや、生魚は食えるぞ。俺も食料がなくて焼いたりする時間がない時とか、川にいるのとかを手掴みをしてそのまま食ったりしてた」
「ええ……」
「いや、何でお前が引くんだよ話に乗っただけだぞ」
「いや、美味しいご飯の話をしてたら人類の尊厳を掻き捨てたサバイバルの話をされたらこうもなるよ」
理不尽な……。
「面倒だからさっさと話すな。次、あそこにあるのはリンゴの木だ」
「何で室内にリンゴの木が?」
「色々あったんだ。次、聖剣」
「……ええ、何であれがあそこにあるの。どういう経緯……」
「次、子供がよく遊んでる開けた場所」
「……えっ、ランドロスの近くにそんな場所があっていいの? 大丈夫?」
どういう意味だ……俺はロリコンではなく、あくまでも嫁に……。
いや、まぁ幼い子供の身体には興味はあるが、誰でもいいわけではなく、あくまでも好きな女の子のものが気になるというか。
……普通の男でも、惚れた女以外には手を出したりしないだろう。だから一切問題はない。
ギルドや孤児院の女の子にそういう目を向けてないし、どう考えてもセーフである。
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