第251話
俺がネネの子供化を止めようとしていることにネネは不満そうな表情を浮かべる。
「……私だって女だ。お前に女として見られていないのは面白くない」
「いや……見てないわけじゃ……」
「見てないだろ。……少なくとも同じようには」
「そりゃあまだ日が浅いから……。というか、俺のことを散々フッてるのに好かれたいのかよ……」
つまり、ネネは俺がネネにメロメロな状況でフりたいと。……酷すぎやしないだろうか。
「あの、痴話喧嘩は帰ってからしてくれないかな? ……私、ほとんど神的な存在だよ? 君達の創造主だよ?」
「創造主って、単に文化を伝えてるだけだろ。やってることはパシリみたいなものじゃないのか?」
「だからネネ……人を煽るな」
俺がネネに呆れながら言うと、管理者は首を横に振る。
「いや、獣人と魔族とかの亜人をデザインしたのは私だよ」
「……はあ? デザイン?」
「うん。私は生物の方が専門だからね。案外破綻なく人みたいな複雑な生き物を作るのは難しいんだよね」
「……つまり、それは……あれか、元々はお前みたいな人間しかいなくて、私達のような亜人は全部お前が作ったと」
「うん。そうだよ。魔族は人間の数を減らす用、獣人は森とかに原住生物が来たときに早めに発見出来るようにね」
ネネは怪訝そうな顔をしているが、俺は特に興味もなかったので管理者の淹れたお茶を飲みつつカルアの方に目を向ける。
「あれ、カルアとランドロスのふたりは驚いてないね」
「ん、ああ、まあカルアの推理通りだったから今更感があってな。正直「ああ、やっぱりそうなんだな」という具合だ」
「……うーん、もっとなんかこう「とんでもない世界の秘密を知ってしまった。うわわぁ!」みたいな反応を期待してたんだけどなぁ」
「まぁ、そんなとんでもない話を普通に的中してることには驚いているよ」
「いや、それカルアに対する驚愕だよね。私に驚いてほしかったというか……」
管理者に驚くか……。うーん、おおよそカルアの予想通りすぎてあまり新鮮さがないというか……。
もっと神々しかったり威圧感があったりを想像していた割に普通の若い女性なのが驚きといえば驚きだな。
「あっ、私は思っていたよりも美人さんなことに驚いてますよ」
「えっ、本当? えへへ、カルアとは仲良く出来るかも」
チョロい……大丈夫なのか。コイツ。
「ああ、いけない仲良くするとすぐに死んじゃうから」
「すぐには死にませんが……いや、あと生きて50年から60年ほどだったらすぐという感じなんですかね? 6万年……あ、初代さんなら幾らでも生き続けられるんじゃないですか?」
「私にも仲良くする相手を選ぶ権利はあるんだよ? 不眠不休で何十年も活動し続けてるタイプの化け物は若干関わり合いになりたくないよ」
酷い言われようだな……と思ったが、まぁ狂人ではあるよな。いい奴でもあるが。
「……無駄話はさておき、管理者はカルアが良い代案を出せたら頷くのか?」
「んー、私がいけると思ったらね。無理だと思ったら交渉は決裂」
決裂ということは……俺達を力づくで従わせようということか。
……普通に見えて大量に人を殺すほどに残酷で、けれども身近な人の死に怯えて人と接さないほどに臆病。
……まぁ、よく見る人間だ。
俺も知ってるやつが怪我をしたら心配ぐらいするが、今もどこかで死んでいるであろう人のことはまったくと言っていいほどに気にならない。
一切面識のない人の死など、ただの事実で、ただの数字でしかない。
だからこそ……カルアの狙いが分かってしまう。
「あ、端末? というものの使い方が分からないかもしれないので夕方までここにいてもいいですか?」
「まぁ、別にいいけど……。ご飯はどうするの?」
「ランドロスさんが持ってると思うので大丈夫です。ご一緒しますか?」
「……いや、いいよ」
おそらくカルアは、管理者と「知り合い」になろうとしている。
管理者の精神はとても普通だ。何万年も生きているとは思えないほど普通で……多分、知り合いを自ら殺すことは出来ないだろう。
一週間で旧文明の学問を身につけたとしても、旧文明外の存在である化け物への手立てが見つかるとは限らないし、いくらカルアと言えども答えがなければ見つけられないだろう。
こちらに親近感を覚えさせて敵対出来なくさせるというのは……少しばかり悪辣だ。だが……まぁ、間違いなく効果的だろう。
管理者は昨日の時点よりも明らかに俺達への警戒心が薄れていて、軽口を叩いて軽く笑ってすらいる。
多分、既に管理者はカルアの策に落ちていて……俺達の身の安全は確保されてしまっている。
深く、深く、ため息を吐く。……何か女性を騙しているようで少しだけ胸が痛い。
「……手土産ぐらいは持ってきておくべきだったか」
「えっ、いいよ。そんなの。幾らでも作れるし」
「そうか? ……何か悪いな」
「いいって、大丈夫だよ」
せめて何か詫びの品ぐらいは……と思ったが、別に悪いことをしているってわけでもないしなぁ。
カルアもそんなに悪気があるわけでもなさそうだしな。
「……ネネ、多少暇になるだろうから先に帰るか? シャルも心配しているかもしれないから声をかけてきてくれたら助かるんだが」
「ん……いや、なら扉を開けて声だけかけたらいいだろう」
「別にそれでも問題はないが、暇かと思ってな」
「気にならない。帰ってもやることはないしな」
まぁそれならそれでいいんだが……。ネネ、俺をフッている割に俺のことを好きすぎではないだろうか。
何か彼女面してくるしもう交際しているってことでいいだろうか。
「仲良しだねー。ふたりとも。私庇いあってる男女に萌えを感じるんだよね」
「……萌え?」
「あっ、分からないよね。まぁ素敵だなって、私の推しだよ」
「……庇いあっていないし、仲良しでもない。こんな男と胸糞悪い」
「……ネネ、俺のことを好きなんだよな?」
「それは本能的なところであり、私の理性の思うところではランドロスは幼い子供を騙して何人も嫁にするクソ野郎だ」
ネネ、人の悪口を言うときだけ妙に饒舌で生き生きしてるな。いや、いいんだけどな。
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