第233話

 

 ネネが蔓草を払おうともがくほどに蔓草がネネを絡めとっていく。

 俺は焦りながら雷を管理者へと放つが、管理者が放った青い雷に阻まれて防がれる。


「ああ、いや、ネネは気に入っているよ。痩ガエルほど応援したくなるものだよ」

「……痩ガエル?」

「ああ、そういえばそういうのは伝えてなかったかな。まぁいいや。話を戻そう。魔王をやってくれない?」


 ネネの呻き声が聞こえ、バッと、そこを見ると蔓草に身体を締め付けられているネネの姿があった。


「っ……脅しのつもりか」

「……あー、考えてはなかったけど、そういうことにはなるのかな?」


 思わず歯噛みする。どうするべきだ。

 今だけ頷いて知らないフリをするか? ……ネネを見捨てるのはありえない。とりあえず、なんとかして蔓草を焼き払って解放するべきだ。


 俺がそう考えていると胸を蔓草に締め付けられて苦しそうな息を吐いているネネが口を開く。


「ッ……私が、やる」

「……あれ、声が出ないぐらいには締め付けたはずなんだけど」

「よく分かっていないが、必要なら私がやる。あんな馬鹿男より、私の方がよほど人を殺すのが上手い。幼い頃からずっと人を殺してきた」

「……へー、そこまで庇うんだ。純粋に疑問なんだけどさ。そんな庇い方をしてネネに何か意味があるの? 好きな人には会えなくなるし、人類とは敵になる。利点なくない?」

「……うるさい」


 ネネは苦しそうに息を吐いて言う。


「うるさい。うるさい。みんな、何も、誰も、好き勝手に言いやがって。幸せになりたいだなんて誰が言った……。夢や希望や望みを叶えるのが嫌な奴だっているんだよ」

「……へー、知らなかった。不幸になりたがるなんて奇特な人だね。誰でも好きな人と愛し合いたいものだと思ってた」

「誰があんなヘラヘラ笑う馬鹿男に惚れるか。新入りの癖にいちいち私を心配して偉そうで、小さな子供の尻を追いかける変態で、嫌なことを無理矢理引き受けようとしたり、見ていて腹が立つだけだ」


 管理者は面白そうに笑う。


「ふーん、そっか」

「気持ち悪いだけだ。幼い子供に発情して、尻を目で追っている男を見るのなんて、誰でも嫌だろう」

「まぁ、正直に言うのが一番だと思うけど。……まぁいいや、君は魔王には出来ないしね」

「ッ……その男よりかは、出来る。私は人を殺せる」


 管理者はトンと地面を叩くと管理者の足元から木が生えてきて、伸びる勢いでその枝に尻が当たり、管理者はそれに座るようにして、木は管理者を持ち上げながら成長していく。


 木の枝に座るような形になった管理者はネネを見下す。


「……世界を救うために世界を壊す。そんな相反することは普通の人には耐えられないんだよ」

「私は殺せるっ!」

「いつかは折れるよ。命の重みを知らなければ出来ない。なのに命を軽く扱わなければならない。人を愛さなければならないのに、人を愛しては出来ない。強さと弱さを共に抱いて、愚かで賢しく、感情的で論理的。そうでなければ出来ないよ。……ネネ、君はマトモすぎる」


 ネネは顔を歪ませながらもがく。


「誰が、誰がマトモだっ! 私は、私は人を殺してきた! 戸惑なく殺せるっ!」

「そういうところだよ。見栄っ張りでさ。まぁ単純に能力も足りてないよ。今は率いる魔族もいないから、魔王本人が強くないとダメだからね。君が毎日百人殺しても増える数の方が多いから意味ないよ」


 蔓草から抜け出たネネはその勢いのまま管理者へと突っ込もうとして、俺はその身体を抱きとめて引き留める。


「っ、落ち着けネネっ!」

「……お前が、止めるなっ!」

「仲間だ。止めるに決まっているだろうが!」


 グイッと抱き寄せた瞬間、ネネの泣きそうな表情が見えてしまう。思わず手を離してしまうが、ネネは飛び出していくこともしない。


「……うるさい。お前はいつも、お節介だ。……ランドロス」

「……無理ばかりするからだろうが」


 落ち着け。管理者の言葉を信じる必要はない。

 とりあえずネネは奪還出来たのだから……脅迫材料になるものはない。カルアもトトトと小走りでやってきて合流する。


「ッ無理をしているのはお前の方で……!」

「……今は、そんな争って場合でもないだろう。構えろ。距離を取って逃げるぞ」

「……ああ。じゃあ、三秒後、同時に逃げる。……1」


 2と頭の中で数える。

 ネネとカルアが逃げるのと同時に管理者へと突っ込んで時間を稼ぐという算段を立てて剣を強く握りしめる。


「3!」


 と、言うのと同時に前に跳ね飛んだ瞬間、何故か隣に猫耳が見える。


「ッ! ランドロスお前なんで突っ込んでるんだ!?」

「ネネこそっ! 逃げろよ!」


 コイツとはとことん気が合わない引き返そうとするには体に勢いがつき過ぎていて、仕方ないからこのまま挑むしかない。


 脚で地面を蹴るのと同時に地面に雷を流して地面の下にある植物の根っこを全て焼き払い、ネネが投げた短刀に雷を纏わせる。


「街中でよく、そんな派手なことが出来るね」


 管理者はより強い雷で短刀を焼き払う。

 ……高威力の雷も回復薬を即座に飲める俺ならば防げなくはない。そう考えてネネよりも一歩前に出て、足の爪先に槍を取り出して蹴り抜く要領でそれを飛ばす。


「別に戦いにきたわけじゃないんだけどなぁ。世界を救う手伝いをしてほしいだけで」

「勝手にやってろ!」


 ふたつ、気がついたことがある。

 ひとつは、管理者は戦士ではない。身のこなしは雑で、攻撃の狙いも適当。全体的に弱そうな立ち振る舞いだ。

 もうひとつは……おそらくは俺はコイツに勝てない。ということだろう。


 フッと息を吐き出しながら多くの武器を管理者へと飛ばすが、それは暴風によって弾き飛ばされる。


 ……ネネとカルアを逃すための算段を立てるか。

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