第219話

 俺の大好きな人であるシャルは寝ぼけながらギュッと俺を抱きしめる。


「……目、覚めるの早いな」

「えへへ、ランドロスさんが今日は随分と寝相が激しかったので……」

「……あ、そうか。……どこかぶつけたりしてないか?」

「大丈夫ですよ」


 ベッドの上に座っているとシャルによしよしと頭を撫でられる。


「まだ少し早そうなんで、もうちょっと寝ましょうか」

「……ああ」


 なんとなく異空間倉庫に意識を向けると、覚えのないものが入っていてそれを取り出す。

 見た目以上に重い……魔王の持っていた大剣だ。その重さにベッドが少し軋み、急いで異空間倉庫に戻す。


 ……夢の中だった……はずだよな。寝相が激しいと言っていたわけだし、別のところに移動していたわけがないし……。


 現実的に考えると、魔王との戦いの後に回収していたけど無意識的なもので俺自身が気がついていなかったということか。


「……いや、アイツが親切だったってだけのことでいいか」


 確かめようがあることじゃないし、さっきもらったと考えていいだろう。


「どうしたんです?」

「……いや、体は鍛えておこうと思ってな」


 種族的な差異があるので、同じように振り回すのは厳しいかもしれないが……。メレクに大剣の使い方を聞くか。

 ……魔族は瞬発力があり、人間は持久力があるのに対して、メレクみたいな獣人は両方とも持っているのが羨ましいな。

 まぁその分だけ魔法が苦手なようではあるが。


「むー、休むんじゃないんです?」

「それは空いてる時間だけな」

「空き時間はずっと一緒にいる予定ですから、あまり時間はないかと思いますよ?」

「……まぁそれならそれで」


 寝巻き姿のシャルに抱きついてベッドに寝転ぶ。

 小さくてふにゃふにゃしていて柔らかくて暖かい。女の子という感じの感触で、優しく抱き返してくれるのがとても心を暖めてくれる。


 守りたい。誰よりも優しいこの子を、あらゆる困難や苦難から守り、幸せにしてあげたい。


「ん、よしよし、です。……今日、デート行きますか?」

「……よければ」

「どこに行きたいです? 好きなものとかありますか?」

「……シャル」

「そ、それは知ってます。そんな話ではなくてですね……」


 シャルを抱きしめながら考えていると、俺達の声で目を覚ましたらしいクルルと目が合う。

 そのままクルルは起きなかったフリをして寝てくれる。


 俺としてはこうしてシャルと抱き合っているのが幸せだが……デートという名目で、こうやって抱き合うだけなのはダメだろう。


 俺が考えていると、シャルはポツリと言う。


「……あの、マスターさんがしていたみたいにランドロスさんに服を選んでもらったら……喜びますか?」

「えっ、い、いや……見ていたのか」


 許可は得ているといっても三股していることへの罪悪感がなくなるわけではなく、他の二人とイチャイチャしているところを見られると強い申し訳なさが出てきてしまう。


 特にシャルは……俺から求婚したことや、他の二人に比べて普通の少女であることなどから、特に強くそれを思っていた。


「あれは、結局俺は選んでないぞ」

「あ、そうなんですか。えっと、なんでですか?」

「いや……女の子の服を選ぶのって、単純に緊張するというか、気恥ずかしさが勝るというか……」


 俺には無理だ。そう言おうとしたところで、シャルが甘えるように俺の胸にすりすりと頰を擦り付ける。


「僕、ランドロスさんに選んでもらいたいです。その、えっと、ずっこいんですけど……。僕、お二人より可愛くないですから……せめてランドロスさんの好みの格好をして気を引きたいというか……だ、ダメ、ですか?」

「ずるくないし、シャルも同じぐらい可愛いからな」

「……そ、そんなことはないと思いますけど。……で、では、その……もっと、好かれたいので……ダメ、ですか?」

「いや、全然ダメなんてことはないし、むしろ嬉しいが……」


 そう言ってから後悔する。いや、無理だろ。

 こんな可愛い女の子の服を選ぶなんてことが俺に出来る訳がない。


 俺の好みの服ってなんだろう。クルルが着ているような丈の短いスカートにはどうしても心が惹かれるが、それはただふとももが見えることやパンツが見えそうなことに興奮しているだけで服の好みというわけではないしな。


「えへへ、楽しみです」

「……お、おう」


 ……まぁ、色々考えよう。

 正直なところシャルの落ち着いた服装は母を思い出して落ち着くので好きなのだが……。

 俺の気を引きたいということだからそういうのとは違うのだろう。


 シャルはギュッギュッと俺の方に抱きついて「えへへ」と笑う。


「……その、ランドロスさんへのアピールが激化しちゃうからダメって言ってたのに……やっぱり、僕は悪い子かもしれないです」

「……いや、元々は全部俺が悪いわけだしな。……よし、デートもしないとダメだから寝るか」

「……僕、緊張と楽しみで寝れそうにないです」

「デート中に寝たら勿体ないぞ?」

「……頑張って今から寝ます」


 俺も寝るか……。シャルに抱きついたまま目を閉じると、クルルが立ち上がって俺の背中側に回ってきて抱きついてくる。


 とても幸せな感覚のまま、もう一度俺は眠りに着いた。



 それからまた目を覚まして、四人でギルドで朝食を摂る。


「カルア、今日は前約束していたシャルとのデートに出かけるな」

「ん、んぅ……私の提案で休んだランドロスさんが持っていかれることに不満はありますけど、いいですよ。聖剣さんから集めた魔力のの調整もしたいですし」

「す、すみません」

「いえ、いいです。その分私とのデートも近くなるので。というか、明日でもいいですか?」


 カルアの提案に一瞬迷う。


「……連日違う幼い女の子とデートしているのを見られるのはまずいような気がするが……」


 カルアは呆れたような表情を俺に向けて「はぁー」と深くため息を吐く。


「元々ランドロスさんみたいな強くて有名な人が女の子と歩いていたらすぐに噂になって広まりますよ。四人でハーレム状態でデートしてることなんて、多少世の中のことや探索者について興味がある人なら、この辺りの人全員がランドロスさんの子供ハーレムという特殊性癖を知ってるので今更ですよ」

「…………いや、うん。まぁ……そうか。なんかごめん」

「いいです。そういう人を好きになったのは私ですから。今日は楽しんできて、明日は楽しみましょう」

「あ、ああ……」


 そう頷くとシャルに腕を持たれて引っ張られる。


「シャ、シャル……まだ店も空いていないと思うが……」

「ん、いいんです。早くランドロスさんを独り占めしたいのです」


 いいのか? ……何もすることがないと思うが、シャルに引っ張られてギルドから出て、シャルとのデートが始まった。

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