第190話

 商人と別れてから商人の言っていた家具を売っている店の方に向かう。


「んー、三人は一緒の部屋に住むんだよね。羨ましいなぁ」

「えっ、毎日夜に来てるじゃないですか」

「いや、それはそうなんだけど、そうじゃないというか……。ん、あれだよ。隠れてじゃなくて、堂々とイチャイチャしたいの」


 ああ、そういうことか。……一番の障害だったミエナは他のロリに夢中になっているし、イユリも結婚願望が出てきて少しマスター離れしてきている。

 あとは……案外常識のある奴が多いので、大丈夫か迷うな。


 ……正直なところ、ほんの少しでも反対はされたくないんだよな。

 無理矢理にでももらっていくつもりだが、仲間とは揉めたくない。


「んぅ……イチャイチャなんて、僕もあまり出来てないです。まぁ今日いっぱいするつもりですけど……」


 と言いながらシャルは俺の手を握る。白い指先が俺の手の甲をくすぐるように撫でていく。

 わざとか、偶然か、誘惑するようなその仕草にドキドキと緊張していると、空いていたもう片方の手をクルルに握られる。


「手を繋ぐにしてももうちょっとギルドから離れたところの方が……」

「子供なんだから、仲良く手を繋いでいるようにしか見えないよ。ね?」


 クルルはこてりと首を傾げて俺に言うが、その表情には赤みがさしていて手を繋いでいることへの緊張が見て取れた。

 仲良く手を繋いでいる……という風には見えないだろう。


 俺にしても恋慕の情を隠せているとも思えないし……。


「……カルア、子供と仲良く手を繋いでいるように見えるか?」

「いえ……二人して顔を赤くしていて、どう見ても意識してますし……それに、マスターの年齢だともう手を繋いだりはしないと思います。あと、三人で横に並ぶのは道幅を取るので、手を繋ぐのは順番の方がいいかと。シャルさん、私、マスター、私、シャルさん、という感じにしましょう」


 カルア率が高い。

 順番はまた別として、横並びになると邪魔になるので二人同時に手を繋ぐのはやめておいた方がいいか。


 名残惜しいがクルルの手を離す。


「んぅ……あ、あの、代わりましょうか?」

「いや、いいよ。後で」


 なんか申し訳ないな……。やっぱり三人同時にデートというのは無理な気がしてしまう。

 どうしたものか考えていると、カルアがパタパタと小足で駆けて俺の前に来る。


「そういえば、なんですけど。エルフの村を見つけられたんですね」

「……なんでだ?」

「えっ、いや、昨日ミエナさんが一目惚れしたんですよね?」

「いや、普通に街の中で見かけた少女に……」

「いえ、それはおかしいですよ。あんな人間以外の種族三人組を初対面で家にあげてくれる人間なんてそうそういませんよ、特にランドロスさんとメレクさんはゴツいですし、この街にそういういるとしたら人間以外の種族でしょうけど、人間以外の種族が普通に窓から見えるような位置に位置取ることはないでしょうし」


 ……カルアのことをなめていた。隠すつもりだったのに、一瞬でバレた。どうしようと考えていると、カルアは可愛らしい顔をこてりと傾げさせて、不思議そうに俺を見る。


「……もしかして、私に隠そうとしてました? ……なんで……ああ、なるほどです」


 カルアはクルルの方を見て得心がいったように頷く。


「迷宮内の村というのは、特殊な環境ですし、メナちゃんのことからも分かるように問題を抱えているから……私が背負い込まないように、隠していた、というところでしょうか」


 一瞬で全部バレた。……ええ……なんでミエナが窓の外から見た所に一目惚れをしたという情報だけでこんな正確に俺の内情まで把握出来るんだ。


 俺が戸惑いながら言い訳を考えていると、カルアは仕方なさそうに「はぁ……まったく、ランドロスさんは私のことが大好きなんですから。まったく仕方ない人です。まったく……」と、笑みを隠そうとしながらも隠しきれないといった様子で俺の腹をツンツンと突く。


 案外怒らないんだな。……クルルにも似たようなことをしてめちゃくちゃ怒られたが……まぁ人によって反応が違うのは当然か。


「大丈夫ですよ。割り切ることは出来ます」

「……そうは思えないけどな。カルアは……優しいだろ」

「そうです? そんなに優しい方ではないと思いますけど」


 不思議そうに俺を見る。

 優しくない奴が世界を救おうとなんてしないだろう。それに……俺がゴロツキを殺そうとしたとき必死に止めてくれたのは、忘れられない。


「とりあえず、次、迷宮内の村に行くときは連れていってくださいね。無理はしませんから」

「……カルア、別に対人の交渉は得意じゃないだろ」

「まぁそうですけど、ランドロスさんや、ミエナさんやメレクさんよりかはマシです」

「いや、商人に頼もうかと思っている」

「ああ……ん、んんぅ? それは、適任……適任、なんですかね?」

「次の階層に行く階段を神殿という組織が管理しているらしくてな」

「ああ……そういうのは苦手かもです。まぁ気になるのでついていきますけど」


 危ないから連れて行きたくはないんだが……。商人は危ない目に遭わせてもいいが、カルアはダメだ。

 まぁでもバレたので仕方ないか……?


 そう頭を悩ませていると、シャルに手を引かれて商人から聞いた家具などを置いている店に入る。


「まぁ、その話はまた後として……。今は家具を見るか。安いのがいいんだったか?」


 俺がシャルに尋ねると首を横に振る。


「いえ、多少高くても丈夫で大きいものにしようと考えています。僕たちも大きくなるでしょうし、いつかは子供も生まれることを考えると、度々買い直したりするのは経済的ではないので」

「まぁ、そうだな」


 ……子供か……とシャルのお腹の方に目を向ける……可愛い。……ではなく、まだまだ体が小さいので十年後とかの話だろうが、それぐらいを見据えて買った方がいいか。


 いや、それだけの時間があれば、カルアの研究も落ち着いているだろうから金には困っていない気がするが……。


 まぁ、なんというか、十年後とかのことを考えるのはいいな。それまで、俺から離れるつもりはないということなのだから。


「ああ、じゃあ、そういうのを買うか」

「ん……あ、そもそも何人子供作ります? 僕は三人は欲しいです」

「……多くないか?」

「多くないですよ? 普通だと思いますけど……。あっ、そう言えばギルドの方は一人っ子が多いですよね」


 三人……シャルに三人も俺の子供を……とお腹の膨らんだシャル妄想しながら首を横に振る。


「まぁ、俺を含めて、多少家庭環境に問題があるからな。俺のような片親も珍しくないし。普通何人ぐらいなんだ?」

「農家なら4〜6人ぐらいですね」

「多くないか?」

「私の兄弟姉妹は12人ほどいましたね。多分今も増えているでしょうけど」

「……多くないか?」


 流石にそんなに育てられる気がしない。……いや、無理だろ。普通。

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