第174話

 シャル達がいる方と合流すると、そこそこの大所帯である。

 シャル、カルア、ミエナ、メナの四人に加えて俺達三人の七人と当然同じ机を囲むことは出来ないので隣の席に座る。


「……私には居心地悪いな」

「いや、ネネは女性なだけマシだろ……。俺とか男だぞ。いい年した」


 ミエナを見ると130歳を超えているのにはしゃいでいた。

 ……いや、まぁ、うん。別にいいと思う。見た目としてもこの中で一番年上だが、楽しいならそれに越したことはないだろう。


「……ランドロスは羞恥心とかないから別にいいじゃんか」

「いや、あるが」

「子供相手にあんなだらしない顔をしていて?」

「……それはそれとしてだな」


 メナに目を向けると沢山の菓子を前に目を輝かせながら、手元にある菓子を幸せそうにもぐもぐと食べている。

 服は普通の町娘らしい格好で、昨日のような露出度の高いエルフの民族衣装ではなかった。


 見覚えのある服だ、おそらく背丈の近いシャルに借りたのだろう。


「ランドロスさん、こっちの席どうぞ」

「えっ、ああ」


 シャルに言われたので立ち上がって席を移動しようとすると、クルルに服の裾を摘まれて止められる。


「……マスターさん。メナさんのことで話があるだけですよ。……昨夜独り占めしてたのに、欲張りすぎです」

「欲張りじゃないもん。いつもお昼は一緒にいないんだからちょっとぐらいいいじゃんか」

「僕もだいたい一緒にいれてないです。時々ギルドにいても、カルアさんやメレクさんが取っていってしまいますし」


 シャルは不満そうにそう言ってから「おほん」と咳き込んで瞬きをする。


「ともあれ、真面目に話をしようと思うので一度こちらに譲ってください。後で戻っていいですから」

「ん……分かったよ」


 仕方なさそうに手を離されて、後ろ髪を引かれる気分のままシャルの隣に移動すると、シャルはメニュー表を持ってススッと俺の方に身を寄せる。


「ランドロスさんは何を食べます?」

「……シャルのオススメで」

「僕もお菓子には詳しくないので……一緒のでいいですか?」

「ああ」

「えへへ、お揃いですね。んっ、それで、じゃあ話しましょうか。ええっと、メナさんのことなんですけど……ギルドの中で引き取ってもいいというご家庭がふたつありまして」


 ああ、そうなのか。それなら良かった。

 ……俺のところは少し問題がありすぎるからな。同じぐらいの背丈のシャルやクルルが嫁なわけで、引き取るのは流石にまずい。


 シャルは少し安心したように頷きながら言う。


「どちらのご家庭も普段のギルドでの様子を見ると問題はなさそうです」

「どうするんだ?」

「両方に数日預かっていただいてから判断しようかと。……子供とは言えど合う合わないはあるでしょうから」


 子供はシャルもではなかろうか。シャルはメナの頰に付いたクリームを拭ってやってから俺の方を見る。


「ランドロスさんもそれでいいですか?」

「なんで俺に聞くんだ? それでいいと思うが」

「いえ、連れてきた本人ですし……。ネネさんは大丈夫ですか?」

「先生に任せる」


 メナの方はどう思っているのかと見てみるとお菓子に夢中になっていてこちらの話を聞いていなかった。

 カルアに目を向けると彼女は可愛らしい顔を俺の方に向けてニコリと笑う。可愛い。

 よく分からないが笑みを返すと満足そうに頷く。


「とりあえず、預ける前に日用品などは買いたいですから。お金ください」


 ああ、その笑みか……。まぁ、うん、元々その予定だったし……と思ってカルアに金の入った袋を渡す。


「じゃあ、ここは私がおごりますよっ!」

「……いや、それ、俺の金では……?」

「……ヒモ、品性って物を知っているか?」


 ネネがドン引きした表情でカルアに尋ねると、カルアはやれやれといった表情でネネの方を見る。


「ただの冗談ですよ。ヒモジョークです」

「……このヒモ、開き直ってるぞ。ランドロス」

「ヒモでもなんでも、愛してもらえますからね。私の勝ちです」

「……このヒモ……だいぶヤバいやつだぞ」


 まぁカルアは元々そういうところがある。


「カルア、他の人も連れていって自分達の分も含めて日用品とか服とか必要な物を買ってきてくれ」

「ん、了解です。シャルさんと三人で……は危ないですよね」

「ネネが行ってくれるらしい。クルルはどうする?」

「今日とか明日の話だよね。ん……明日なら行けるけど……」

「メナさんの分が必要なので……。まぁランドロスさんみたいに、ギルドの中で売っている分で済ませることも出来ますけど」


 クルルは小さく頷く。


「じゃあ私は今回はいいよ。……ランドロスとデートの約束もしたからね」

「……えっ、ランドロスさん。前に私とした約束、まだしてもらってないんですけど」

「……いや、予定が合わないからな。……迷宮の攻略を進めてるのはカルアの頼みだし、カルアも忙しくしているから仕方ないだろ」

「……う、それを言われると弱いですけど」


 カルアは口をモゴモゴとさせて言い訳を考え、そんなカルアの様子を見てシャルが口を開く。


「あの、それを言うなら僕が一番、構ってもらえてないです。忙しいので仕方ないとは分かってますけど」

「うう……それを言われると弱いですけど」

「……私はまだ結婚も出来てないよ」

「…….そ、それを言われると弱いですけど」


 ずっと弱いな、カルア。


「そもそも、カルアさんは研究費や土地代とか、めちゃくちゃランドロスさんにおねだりしてるんですから、少しは我慢しないとですよ。お金は欲しい、迷宮も攻略してほしい、研究のお手伝いもしてほしい、デートもしたい。だなんて、ランドロスさんがいくら頑張っても時間が足りないですよ」

「……ここぞとばかりに責めてるな。先生」

「そりゃあそうです。僕だって色々ワガママ言いたいのに、カルアさんばかりワガママを言ってます」

「……先生もワガママ言えばいいんじゃないか?」


 ネネはそう言ってから店員に大量の菓子を注文していく。……ああ、本当に入ってみたかったけど、店構えのせいで入れなかったんだな。

 表情には出ていないけどはしゃいでいるな。


 シャルはネネの言葉を聞いて困ったような表情を浮かべる。


「んぅ……いえ、僕も色々とワガママは言っていますし、これ以上はご迷惑をおかけしたくないので、ただでさえ、忙しそうにしていますから」

「俺は迷惑だなんて思っていないぞ。……家族なんだし、幾らでもワガママを言ってもいいだろ」


 シャルは迷ったように俺の方を見て「嫌なら嫌、無理なら無理で構わないんですけど」と、前置きしてから口を開く。


「……その、カルアさんやマスターさんにしているみたいなことをしてほしいです」


 …………それは、エロいことをしてもいいということだろうか。

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