第172話

 クルルの部屋の前で手が止まる。

 いや、別にエロいことをすると決まったわけではないし……。むしろ、もう寝ているかもしれない。


 部屋に入って鍵を締める。先に寝ているという考えは寝室の方が明るいことで否定される。

 先程まで風呂に入っていたのか空気に湿気としゃぼんの匂いが混じっていて、連れ込み宿での一件を思い出して心臓が鳴る。


 酒気の混じった息を吐きながら寝室に入ると、ベッドの上に座っていたクルルがパッと顔を上げる。

 濡れ髪の色っぽさに目を奪われながら、クルルと話す。


「あー、メナが俺の部屋にいるらしいから、そっちで寝るのはまずいかと思って……ここで寝ていいか?」

「……いいよ、もちろん」


 クルルの服装は、質の良さそうなワンピース型のパジャマだが、いつも以上に丈が短い……というか、全体的に小さい。


 もしかして、昔着ていたものだろうかというぐらい丈が短くて、ちょっとした身動ぎでパンツが見えてしまいそうなぐらいだ。


 クルルは俺の視線に気がついたのか、恥ずかしそうにもじもじと動きつつ、俺の言葉を誤魔化すように口を開く。


「あ、そういえば、ネネとは反対側の隣の部屋、使えるようにしておいたよ。時間があるときに荷物とか移してね」

「あ、ああ、すぐに引っ越すか」


 そんな日常会話をするが、俺の目線も意識も見えてしまいそうなクルルの脚に向かっていて、クルルはそれが狙い通りだっただろうくせに恥ずかしそうに顔を赤らめながら、手で足の間を隠す。


「……三人で飲みに行って楽しかった?」

「いや、あんまり。やっぱりギルドの方が落ち着けていいな」


 ふとももを全て見せている羞恥に赤らんだ表情や、小さな服ゆえにしっかりと見える体の線や、そのままみえているふとももに、体の一部が盛り上がり、クルルは俺のそれの様子を見て、余計に顔を赤くする。


 クルルはベッドをポンポンとたたいて、ベッドに座るように頷く。


 ……どのように座るべきだろうか。胡座をかいたら大きくなっているのがバレる。正座をしても同様。

 片膝を立てたり、クルルが俺に見えるときのような三角座りなら形を隠せるが不自然極まりない。


 ……いや、まぁもうバレているので、と思って胡座をかく。

 クルルと二人で互いの足の間を見つめ合いながら話すという状況。二人して視線が性欲に負けていて、側から見れば間抜けな絵面だろう。


 日常会話をしているのに視線はお互いの顔ではなく脚の付け根に寄っていて、会話は徐々に雑なものになっていく。


 お互いのそこを見るためにだけ会話を続けている。会話の内容には意味はなく「会話しているからまだ寝ない」という言い訳のために意味のない話を続けているだけだ。


「あ、そ、それでね。えっと……」


 クルルは身動ぎをして、わざとスカートをめくれあげさせてピンク色の下着を俺に見せる。だが、名目としてはたまたま見えてしまっただけで、わざと見せているわけではないのだ。


 わざと見せるのはシャルに禁止されているので、あくまでもこれはたまたま、偶然、スカートがめくれてしまって、そのことにクルルが気がついていないだけなのである。


 クルルは顔を羞恥に赤らめて、ふぅふぅと息を荒くする。

 シャルに怒られてから一応は控えていたせいか、こういうことをするのは昼の本当に偶然の時を除けば数日ぶりだ。


「……シャルに叱られないか? こういうことをすると」


 なんだかんだと、クルルも俺もシャルには弱く叱られることはしないようにしていた。だから、多分止まるだろうと思いながらそう言う。

 クルルはスカートの裾をちょこんとつまんで、首を小さく傾げて、誘うような小声を出す。


「……叱られるようなこと、しよ?」

「…………はい」


 俺は一瞬で負けた。


 クルルのスカートがゆっくりとまくり上げられ、スカートの中を俺に晒す。

 細く白い脚が惜しげもなく晒されて、それがゆっくりと赤く色づいていく。


 俺に肌を見られることで息を荒くしているクルルは俺の方をチラチラと見ながら下着に手をかけて……。隣の部屋からドンッと壁を叩かれる音が聞こえて、パサリとスカートが戻る。


「……ネネかな」

「……ネネしかいないよな」

「……怒られたね」

「……怒られたな」


 俺としてはまだまだ見たりないというか、もっと色々としたかったが……無視をして続けていたらまた怒られるかもしれないし、最悪乗り込んでこられる。

 ……流石にスカートをたくし上げて見せてもらっているときに入ってこられたら気まずいどころの話ではない。


「……寝よっか」

「……寝るか」


 盛り上がった空気のまま、明かりを消してふたりでベッドの上に転がる。

 真っ暗な部屋の中、クルルの吐息が首筋にかかる。


 俺の脚を挟むようにクルルの足がくっつき、腕がギュッと回された。

 クルルの興奮も冷めやまないまま、ぴったりと身体をくっつける。脚の間をすりすりと擦り付けられてクルルの声が漏れる。


「……ん、お、おやすみ」

「おやすみ」


 クルルは俺の体を隅々まで探るように、あるいは自分の身体の感触を俺に教え込むように体を引っ付けられる。


 薄い布越しのクルルの肌の感触に興奮して触り返そうとした瞬間、もう一度、ドンッと壁が叩かれた。


 ……厳しい。ちょっと体を弄り合うのぐらい許してくれたらいいのに。

 クルルはそれでもまだ諦めないのか、擦り合わせるのではなく肌と肌をピッタリとくっつける作戦に移行する。


 俺の服の中に腕を入れて、夏の暑さに汗ばむ中、身体をくっつける。

 少女の柔肌とくっついているとそれだけで気持ちよく、息が荒くなってしまう。


 クルルに釣られて向き合いながら抱き合うと、俺の物がクルルの小さな柔らかいお腹にべったりと触れる。筋肉や脂肪の感触は薄く、けれど柔らかな感触の腹部。クルルは気がついたのか顔を上げて真っ赤な顔のまま潤んだ瞳を俺に向ける。


 が、我慢だ。我慢。クルルも興奮を覚えているようだが物音を立てないようにただ抱きしめ合う。

 興奮が盛り上がるには動きはなく、けれども冷めるにはひっつきすぎている。


 身体をもっと弄り合うようなことが出来るか、離れたところで寝ることが出来れば興奮が冷めるか、満足するか出来そうなのに、どちらも出来ないせいでただひたすらに体が熱っていくばかりだ。


 明日は迷宮の攻略のつもりだというのに……あまりにも、ただくっつくだけだった。

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