第90話
エロいことを誘われているのか、否か。
ここで判断を誤ると大変なことになる。真面目な話をしているのに、脳内下半身一色かと思われてしまう。
だが……! それでも、出来るなら、出来るというのなら……! もうロリコンでも異常性欲者でも変態でもなんでもいいからしたい。
カルアの胸を触ってみたい。
期待を込めてカルアを見ていると、カルアはもじもじとしながら「あの、その……」と照れたように口にする。
「は、はしたないんですけど……」
「あ、ああ、何でもする。何でもいいからな」
はしたないことをしたいのか。はしたないこと……。
俺が期待に満ちた目をカルアに向けると恥ずかしそうに言う。
「そ、その……恋人つなぎをしてみたいです。手」
「……恋人つなぎ?」
「こ、こう、指を絡ませて……」
「……ああ、いいぞ」
微妙にテンションが落ちながら頷く。いや、嬉しいけど……嬉しいんだけど……カルアの胸を触りたかった。
手を繋いで指を絡ませ合う。……これはこれでいいな。何となく幸せだ。
「えへへ。幸せです」
「なら、よかった」
エロいことではなかったが、とても良い。カルアの手はスベスベとしていて気持ちいい。
小さな手が必死に俺の手を握り返しているのが愛おしい。
「……明日もこうしていいですか?」
「ああいつでも」
それからカルアがベッドに横になり、手を繋いだまま丸まるようにして目を閉じる。手を繋いだまま寝るのか。
まぁいいか、と思ってカルアの頭を撫でると、シャルがツンツンと俺の方を突く。
「昨夜はカルアさんと一緒にいたんですけど。ランドロスさんのことを心配して夜遅くまで起きてたんですよ、カルアさん。だから、ちょっと疲れているみたいです」
「……ああ、無理をさせたな」
……昨日の夜か。ちょうど、俺がマスターのシャツの裾からチラチラ覗くピンクの下着に興奮しながらボードゲームで遊んでいた時間帯だな。
……ものすごい罪悪感が湧いてきた。
「……ん? なんでシャルはカルアが夜遅くまで起きていたことを知ってるんだ?」
「…………おやすみです」
「シャル? おーい」
シャルは俺の頰にちゅっとキスをしてからベッドの上に寝転ぶ。……こんなにくっついて寝るならカルアのベッドを持ってくる必要なかったな。
もう既に暗く、寝るにはいい時間だ。俺も横になって目を閉じるが……両側に可愛い女の子が寝ていることを意識すると眠れる気がしない。
……なんか甘い匂いがする気がするし、目が冴えてしまっている。
シャルとカルアはなんだかんだと疲れていたのかすぐに寝てしまっていて、手持ち無沙汰だ。いや、カルアの手は握っているが。
しばらく、目を瞑っていてもなかなか眠れず、夜が深くなってきた頃になって、やっと意識を落とすことが出来た。
目が覚めた時に二人は横におらず、ボリボリと頭を掻いて身体を起こす。
……もう昼か。窓の外を見ながら欠伸をして、それから周りを見回すと書き置きが残してあることに気がつく。
「えーっと、何々……『ギルドにいます』か。……俺もちゃんと文字を読めるようになってきたな」
書く方はまだ難しいが、これぐらいでも読めるのは便利だ。
さっさと着替えて二人の元にいこうかと考えていると、カルアの使っている枕が目に入る。
……ちょっと匂いを嗅いで見るだけ……そう思って枕を手に取ったとき、扉が開いてカルアがひょっこりと戻ってきた。
「ランドロスさん、遅いですけど体調が良くないんですか? …………」
「いや、待て、違うんだ。未遂だ。まだ何もしてない」
「……別にいいですよ。それぐらい。ランドロスさんが変態なのは分かっているので……。……私の髪を見つけて食べようとしていたんですよね」
「違う。そこまでのことはしてない。ちょっと匂いを嗅いで楽しもうとしていただけだ」
「はい。……まぁ、元気そうなので安心しました。……全く、心配して損しました」
「ああ、悪い」
枕を隣に置くと、カルアは俺の隣に来て、頭に手を乗せてわしゃわしゃと乱雑に撫でる。
「調子が悪いわけじゃないんですね」
「少し寝るのが遅くなっただけだ」
「寝るのが遅くなった、ですか? ずっと隣にいましたよね?」
カルアはキョトンとした表情を浮かべてから、ニンマリと意地悪そうな笑みを浮かべる。
「へー、昨日、眠れなかったんですか。へー、なんででしょうかねー?」
「……何でもいいだろ」
「別にいいですけどね? えへへ、ランドロスさんは恋人つなぎをしていただけでドキドキして眠れなくなってしまうウブな人というだけですし」
「……別に、そうとは言ってないだろ」
何故か満足げで嬉しそうなカルアにわしゃわしゃと頭を撫でられる。カルアの手を払い退けながら、あぐらをかいてカルアの方を睨む。
「ふふ、ちょっと手を握っていただけで……ふふ、ウブですね」
「……カルアよりかは、経験もある」
「十三歳の女の子相手にそんな張り合い方をするんですか?」
「……後でギルドの方に行くから、先に行けよ」
「冗談ですよ。嬉しかったからちょっとからかっただけです。そんなに私のことが好きなんですね」
カルアによしよしと撫でられる。手玉に取られている気はするが、こう優しく撫でられるとどうしても怒る気が失せてしまう。
心地よさに再び眠気が襲ってくるが、欠伸を噛み殺してカルアの方を見る。
「そういえば、ちょっとそれとなく、イユリちゃんに例の爆弾について尋ねたんです」
「……ああ、イユリの技術を流用したものだったな」
「はい。それでなんですけど、もうそれは作れないとのことです」
「作れない? 材料が足りないということか?」
「いえ、イユリちゃんが弄りまくっていたら迷宮の方が対策したとかで、外に魔力を引っ張るのが難しいそうです。まだ出来なくはないそうですけど、別の技術も必要になるのでイユリちゃんの新技術を持っていないシルガさんだと出来ないかと」
迷宮が対策したって……。やはり、アレを管理している存在がいるのだろうか。
……いや、違うな。イユリやカルアはいることを前提として話している。
存在しているのかもしれない。ではなく、存在しているのは確定事項と思っていいだろう。
……それだけめちゃくちゃをしていて、イユリが裁く者に襲われていないのは何故だろうか。俺が管理者なら、イユリが迷宮に侵入してきた瞬間に対応する。
別の技術を用意して対抗するなどという回りくどい方法は取らないだろう。
……イユリが迷宮に贔屓をされている?
などと馬鹿なことを考えていると、ツンツンとカルアに突かれる。
「とりあえず、突然どーんって吹っ飛ぶことはなさそうだから安心じゃないですか?」
「……いや、別の手段を用いる可能性があるからな。全く油断は出来ない」
「……ランドロスさんは……その、シルガさんという方がやったと、確信してるんですか?」
「……いや、昨日も言ったが……可能性があるだけで」
真っ直ぐと俺を見るカルアの瞳に言葉が途切れる。……カルアは、誤魔化せる相手ではないか。
「……シルガの仕業だと思っている」
「何でですか?」
「……論理的な話じゃないぞ。無茶苦茶な理屈を話すからな」
そんな俺の言葉を聞いても、カルアは一切俺を疑うような視線を向けず、ただひたすらに俺の言葉を信じるような目をしていた。
「……マスターが後悔していたんだ。俺がシャルに優しくされて救われたように、マスターがシルガを優しくしていたら、シルガを救えただろうと」
カルアはコクリと頷く。
「……初めはただ、その可能性に縋って後悔しているだけかと思った。だが……本当にそうだったのかもしれない。マスターがシルガに優しくしていたら、救われていたというのが、純然たる事実だったとしたら」
「それは、どういうことですか?」
「マスターは人を見る目がある。……俺とシルガを重ねたのは、本当に人格が似ていて、救ってくれる人がいたか否かだったから、マスターが心底後悔しているのだとしたら……。俺とシルガの考え方はほとんど一致している」
一呼吸おいて、カルアの目を見る。
「俺は、絶対に欲しいと思ったものは逃さないし、諦めるフリをしながらも求め続けるぞ。執着心だけで、どこまでも追いかけるだろう。……だから、シルガも同じだろう。絶対に諦めない。同じ場所を破壊しようとする。……俺が、シャルと出会っていなかったら、そうしている」
理屈になっていない。
マスターの言葉が全て真実だという無理な仮定をして、自分とシルガを重ねての理屈だ。
こんな言葉、普通ならば一考にも値しないだろう。
なのに、カルアはコクリと頷いた。
「……じゃあ、止めましょう」
「……信じるのか?」
「もちろんですよ。マスターの人を見る力も、ランドロスさんの異様な執着心も両方知っていますから。最近、私も人を頼ることを覚えたんです」
……ありがたいな。こんな妄想とすら呼べる言葉で信じてくれるのは。
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