第89話

 俺は「うわぁあ!」と頭を悩ませる。違う、別に小さい身体が好きなわけではなく、こう、純粋さとか優しさが好きなだけである。

 ……いや違う。そもそもの見た目の好みというものが俺にはなかった。


 シャルの心を好きになったから見た目も好きになったのだ。可愛い見た目に惹かれているのは、あくまでも心を好きになった後にだ。なのでセーフ。セーフ。


 初めて会ったときにシャルのおっぱいがぼいんぼいんだったら、俺も多分ぼいんぼいんを好きになっていたはずだ。


 むしろ胸の大きい女性は苦手だが……異性との関わりがあまり多くなく、勇者パーティにいたときのルーナとレイカの印象が強いせいであり、俺が小さいのが好きなわけではなく、たまたま小さい方にいい印象の人物が多く、たまたま大きい方に悪い印象の人物が偏ってしまったせいである。


 これは俺の問題ではなく、偶然の偏りの結果だ。


 むしろ絶望していたところを優しくされて生きる理由をくれた女の子を好きにならない方がおかしい。

 そして好きな女の子の体に興味を持たない男などいるだろうか。いや、いない。


 つまり、俺はロリコンだというわけではなく、俺の状況になったら誰もがそうなるというだけである。

 ギルドでもロリコン扱いされていてよくドン引きされているが、俺が悪いのではない。世界が悪いんだ。


 マスターに興奮したことについては……まぁ、うん、そういうときもある。人には色々と不思議なことはあるものなのだ。


 ……年齢の割に大きいカルアの胸にも興奮出来るので、全く持ってロリコンではない。


 そんな自己弁護を考えていると、扉の奥から「もう入っていいですよー」というカルアの声が聞こえて中に入る。


 子供っぽい寝巻き姿のふたりを見て鼻の下を伸ばしていると、カルアは「やっぱりこういうのが好きなんですね」とジトリとした目で俺を見る。


「あっ、ランドロスさんも身体を拭いたりしますよね。出て行った方がいいですか?」

「あー、まぁそうするか。別にいてもいいけど」

「えっ、そうですか、じゃあこのまま失礼しますね」


 水と桶と布を取り出して、床に座って上半身の服を脱ぐ。少し汗をかいていて気持ち悪いな。

 軽く布を水に浸してから絞り、身体を拭こうとすると……シャルがこちらを見ていることに気がついて手が止まる。


「……どうかしたか?」

「い、いえ、僕とは全然体つきが違うなって思いまして。そ、その……なんていうか、ゴツゴツしていて硬そうですね」

「そうか? 探索者というか、戦闘従事者の中だと細身の方だと思うが」

「あ、あの、触って見てもいいですか?」

「別にいいが……」


 シャルがモゾモゾと移動して、俺の腕を指先でツンと触る。


「わ、硬いです。大きいし、それに熱いです……あ、ピクッてしました。……あれなんで前屈みになってるんですか?」

「…….何でもない」

「……本当に僕とは違いますね。僕はふにふにしてて弱そうなのに、ランドロスさんはゴツゴツです」

「まぁ、剣を振るのに筋肉が必要だからな」


 ペタペタと小さな手が俺の身体を撫でていく。こそばゆさを感じながら汗を拭いていく。


「僕の三倍ぐらい食べるのも納得です。体重も三倍ぐらいありそうですもん。ギュッとされたら逃げられないですね」

「……そりゃ、それぐらいの力の差はあると思う。……だから、本当に気を付けろよ。捕まったらひとたまりもないんだからな」

「んぅ……そんなに心配しなくても大丈夫ですよ?」


 ……分かっていないな。俺の身体を撫でていたシャルの手首を掴み、身体を抱き寄せる。


「これだけで動けないだろ。それだけ力の差があるんだから他の男にも気をつけろ。……あまり無警戒なのは危ないぞ」


 俺の言葉を聞いているのかいないのか、シャルは顔を真っ赤にして、身体を硬直させてこくこくと頷く。

 俺達のやりとりを横目で見ていたカルアがポツリと呟く。


「……多少の気を使って欲しいです。好きな人が別の女の子とベタベタしてるのを近くで見せられるのは気分が良くないです」

「……えっ、あっ、カルアさんもしてほしかったんですね。すみません。独占してしまって」

「そういうわけじゃないですけど」


 カルアが拗ねたように目を逸らし、シャルがそれをなだめにいく。その間に手早く下半身を拭い終えて素早く着替える。


 いつものベッドに寝転びながらふたりを見ると、ほんの少し距離が近くなっていることに気がつく。


「……あの、カルアさんもさっきのしてほしいみたいです」

「……ええ……別にいいけど、なんでだよ」


 ベッドの上に座っているカルアの腕を引こうとすると、何故か抵抗される。赤い顔をしながら逃げようとしたカルアを捕まえてベッドの上に押し倒して組み伏せると、カルアはふぅふぅと息を荒くしながら抵抗するが、単純な力の差がありすぎて抵抗になっていない。


 カルアを無理矢理押さえつけているという状況に妙な高揚を覚えるが、あまり長い時間拘束しているわけにもいかないと思ってカルアの上から退く。


 ……なんか、小さい女の子を襲っているような背徳感があった。

 何故かカルアも俺も無言で、微妙な空気が流れていく。


「……ご、ごめん」

「う、ううん。大丈夫です」

「……嫌だったのか?」

「そういうわけじゃないです。……イチャイチャしてるのが羨ましかったのも本当なんですけど……そ、その……シャルさんの後追いみたいなのばかりだと思うと、ちょっと悔しくて拗ねてしまったと言いますか……」


 ああ、そういうことか……。


「いえ、別にいいんですけど。……シャルさんはシャルさんで不満に思っていることはあると思いますし……。その、元々横恋慕ですし」


 微妙な空気が三人の間に流れる。

 シャルが心配そうにカルアの方を見て、ポツリと言う。


「じゃ、じゃあ、僕とランドロスさんがまだやってないことを先にしますか?」

「……やってないことか。……何かあるか?」

「ちゅーはしてますし、添い寝もしてます。手も繋いでます」

「……一応、デートというか、一緒に出かけたりするのはカルアとしかしていないが……」

「……そういうんじゃないです。身体的な接触を求めています」


 シャルとしていないような身体的接触。……どうしよう。エロいことしか思いつかない。

 ……いや、これはまさか誘われているのか? ……シャルの目の前で……!?


 どんなプレイだ。初めてが他の女の子の……それも子供の前でというのは、特殊すぎやしないだろうか。

 そういうのが好きなのか!? カルアは。

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