高木 瀾(らん) (8)

「ところで、疑問なんだが……『式神』なんかの姿は、この動画の通りなのか?」

 ランはそう聞いてきたが……。

「実体が無いモノだから『姿』なんて無い。どう見えるかは人によって違うけど……」

「まぁ、こう見えるヤツが居ても不思議じゃない、って所かな?」

 試合相手が補足。

「あれ……これ……おい?」

 何故か突然「式」らしきモノが、何体か、苦しみ出し……いや、本当に苦しんでるのかは不明だけど、とりあえずは苦しんでるように見える映像。

 それに加えて、車の窓の外の様子は……。

「この車……かなりのスピード出してないか……?」

「運転も無茶苦茶乱暴そうだな……」

「あ……信号無視しやがっ……おい……今……他の車を……」

「待て……これ……」

 何故かカメラの向きが大きく変った。

 車の進行方向を軸に約九〇度回転。

 いや……窓の外の光景が約九〇度回転したと言うべきか……。

 そして、次の瞬間……中継が切れる。

「上空からドローンで追ってる映像があれだ……」

 ランがそう言って別のPCのモニタを指差す。

 無茶苦茶だ……。

 横転して歩道のガードレールをブチ破り、近くの建物の外壁と激突したトラック。

 そのトラックに交差点で横から激突され、跳ね飛ばされたらしい軽自動車。

 更に、そのせいで周囲で次々と起きてる多重衝突。

 その時、ランの表情が変る。……どうやら、何か、妙な事に気付いたようだ。

「すいません、あのトラックのタイヤを映してもらえます?」

「えっ? ああ、いいけど……」

「どうした……?」

「イン・ホイール・モータだ……これ……」

「イン・ホ……何?」

「だから……タイヤ自体に電動モータが内蔵されてんの……。このトラック……EV電動車だ」

「いや、最近、そんなの珍しくないだろ」

「ところが、EVだと、ガソリン車やディーゼル車でエンジンが入ってる所にバッテリーを入れとくんだけど……一〇〇㎞や二〇〇㎞走行出来る容量のバッテリーでも、内燃機関式のエンジンほどのスペースは取らない」

「なるほど、何となく判った……。ただ、ちょっと疑問が有るんだが……」

「何だ?」

「『ないねんきかん』って……どう云う意味?」

「……」

「……」

 ランと試合相手は……「やれやれ」と言った顔になった。

「早い話が、EVだと、ガソリン車やディーゼル車でエンジンが入ってる箇所が、バッテリー格納部と荷物入れを兼ねてる。そして、その部分は大概は前面」

「……ごめん、もっと手っ取り早く説明して……。ん?……前面?」

「そう。EVだと……前面にデカい荷物入れ兼用のスペースが有って、正面衝突した時は、そこが変形して衝撃を弱めるような仕組みになってるの」

「えっ? でも、このトラック、他の車にブツかった筈なのに……前の方が変形してないじゃん」

「……だから、そこが、おかしいと言いたい……えっ?」

 その時、ドローンのカメラが閃光を映した。

「待て……何で……

 だが、私がそう言った途端……。

「い……いや……それどころじゃないぞ……どうなってんだ、これ?」

 突如としてトラックの中から放出された泡が炎を消し止めた。

「スペースが有る筈の所が建物に激突しても変形してない。そして、が組込まれてる。なら、考えらえるのは1つだ……」

「何?」

「このトラック……とんでもない量のバッテリーが積まれてる。……つまり……かなりの電力を喰うモノが積まれてて、それを起動したまま走ってた」

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