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作者 鏡りへい

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目次

連載中 全175話

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  1. フラットランド
  2. はじめに
  3. <ここはフラットランド。二次元の国。>
  4. <この国のみんなが実際にそう呼んでいるわけじゃない。>
  5. <大きな一枚の紙を想像してみよう。>
  6. <その紙の上で、直線、三角形、四角形、五角形、六角形といった図形が>
  7. <しかし、紙から浮きあがったり、紙の中に沈み込んだりはしないんだ。>
  8. <これで、わたしの国と住人たちがどんな感じか、はっきりイメージできたんじゃないかな。>
  9. <少し前だったら、「わたしの国」ではなく「わたしの宇宙」と言っていたはずだ。>
  10. <こんな国では、いわゆる「立体」が存在しないことには、すぐに気づくだろう。>
  11. <しかし、さっき言ったような、動き回る三角形や四角形やその他の図形を見分けることぐらいできるはず。そう思うだろう?>
  12. <三次元にあるテーブルの上にコインを置いて、上から見下ろしてみよう。>
  13. <次に、テーブルの端の方に立って、だんだん視線を下げていく。>
  14. <たとえば正三角形。>
  15. <目線がテーブルとちょうど同じ高さになったときが、フラットランドで彼を見るのと同じ状態で、まっすぐな線しか見えない。>
  16. <スペースランドにいるときに聞いたよ。>
  17. <三次元でも、航海中に、遠い水平線に島や海岸線を見つけた船乗りたちは、これと同じような経験をするってね。>
  18. <はるか彼方の陸地には、入江や岬といった、たくさんの凹凸が広がっているのに、太陽がさして光と影でその凹凸を照らし出さないかぎり、遠くからは、途切れることのない灰色の線にしか見えない。>
  19. <そう、これこそ、フラットランドで三角形やその他の形をした知り合いが、こちらに近づいてくるときに見える光景だ。>
  20. <三次元のスペースランドと違って、フラットランドには、影を作り出す太陽も光もない。>
  21. <友だちが近づいてくれば、線が大きくなり、離れていけば小さくなる。>
  22. <どちらにしても、彼は直線に見える。>
  23. <彼が三角形だろうと、四角形、五角形、六角形、円だろうと、まっすぐな線にしか見えないんだ。>
  24. <こんな不便な状況で、どうやって友だちを見分けるのかって?>
  25. <この話はひとまず措いておいて、わが国の気候や住まいについて、ちょっと話すことにしよう。>
  26. <君たちの世界と同じように、われわれの世界にも東西南北、四つの方位がある。>
  27. <この世界の自然法則では、南に向かってつねに一定の引力がはたらいている。>
  28. <この引力は、温帯気候では、元気な女性なら難なく北へ数百メートル移動できるほど弱いが、他の大部分の地域では、十分にコンパスの役割を果たしている。>
  29. <それから、雨は定期的に北から降るから、方角を知る助けになるし、街中の家も手がかりになる。>
  30. <屋根が北からの雨を防ぐように、家の側壁はおおかた南北に沿って作られているからね。>
  31. <家がない田舎では、木の幹が手がかりになる。>
  32. <要するに、方角を知るのは思ったより簡単なんだ。>
  33. <ただ、もっと北温暖な地域では、南向きの引力がほとんど感じられないから、方角の手がかりになる家も木もない寂しい平原を歩くときは、何時間も立ち止まって、雨が降るのを待たなければならないこともある。>
  34. <それから、身体が弱い人やご老人、特にかよわい女性は、たくましい男性より引力の影響を強く受けるから、道で女性に出会ったら、北側をゆずるのが礼儀だ。>
  35. <しかし、こちらが元気すぎたり、温暖な地域にいたりすると、引力を感じづらいから、いつもさっと北側をゆずるのは、けっこう難しいんだ。>
  36. <われわれの家には窓がない。>
  37. <ああ、わたしは、このフラットランドでただ一人、この謎の答えを知りすぎるほど知っているのに、ここの愚か者たちは、誰一人わかっちゃくれない。>
  38. <つらい余談はこのくらいにして、家の話に戻ろう。>
  39. <一般的な家の形は、図のように壁が五つある。つまり五角形だ。>
  40. <東の側壁に女性用の小さなドアがあって、西の側壁に男性用の大きなドアがある。>
  41. <南側の壁は床でもあり、ふつうドアはない。>
  42. <四角や三角の家は許可されていない。>
  43. <家みたいな無生物の線は、男性や女性の線よりぼんやりしているから、上の空でやってきた軽率な旅人が、うっかり三角形や四角形の家の角にぶつかって大ケガをしかねないからね。>
  44. <そこで、われわれの世界でいう一一世紀には、三角形の家は法律によって全面的に禁止された。>
  45. <ただし、一般市民は不用意に近づかないような、要塞や火薬庫、兵舎、その他の国の建物は除外されている。>
  46. <当時、四角形の家は許可されていたけど、特別税をかけて数を抑制していたんだ。>
  47. <それから三世紀ほどあとに、人口が一万人を超える町では、公共の安全のため、家の角の数を最低でも五つにすることが決まった。>
  48. <こうした議会の取り組みを人々の良識があとおししたこともあって、田舎でも、ほとんどが五角形の家になった。>
  49. <現在では、人里離れた時代遅れの農村に出かけていった古物商が、ときどき四角い家を見つけるくらいだ。>
  50. <成長しきったフラットランドの住人のいちばん長い長さ、つまり幅は、君たちの世界の単位で二八センチほど。>
  51. <最大級で三〇センチくらいだ。>
  52. <そしてフラットランドでは女性は直線なんだ。>
  53. <兵士や下層階級の労働者は二辺の長さが等しい三角形だ。>
  54. <二辺が二八センチで、三つめの底辺は一、二センチと短くて、頂点は恐怖心を起こさせるほど鋭く尖っている。>
  55. <われわれも君たちと同じで、こうした三角形のことを特別に二等辺三角形と呼んでいる。>
  56. <中産階級は正三角形だ。>
  57. <知識階級と有閑階級は正方形か五角形。>
  58. <ちなみにわたしは正方形だ。>
  59. <さらに上には貴族階級がいて、そのなかもいくつかの階級に分かれている。>
  60. <自然法則によって、息子は父親よりも辺が一つ増えるから、世代を重ねるごとに進化して階級も上がってゆく。>
  61. <でも、この法則は、商人にはつねに当てはまるわけではないし、兵士や労働者にはさらに当てはまらないことが多い。>
  62. <彼らは、すべての辺が同じ長さというわけでもなく、人間らしい図形じゃないから、自然法則が適用されないんだ。>
  63. <それで、二等辺三角形の息子は二等辺三角形のままだったりする。>
  64. <ただし、希望がまったくないわけではない。>
  65. <職人や兵士の中でも知的な者は、軍事的な戦果をあげたり、まじめによく働くと、底辺がちょっと伸びて他の二辺が縮むんだ。>
  66. <それから、下層階級の知的な男女が(聖職者の仲介で)結婚すると、さらに正三角形に近い子どもが生まれる。>
  67. <わらわらと生まれる二等辺三角形の数からすると、ごく稀にだが、二等辺三角形の両親から正真正銘の正三角形が生まれることだってある。>
  68. <そこまでたどり着くには、代々、慎重に結婚相手を選び、生まれてくる子どもの辺が等しくなるよう、長いことつましく自制を続け、忍耐強く、計画的に二等辺三角形の知性を伸ばし続けなければならない。>
  69. <二等辺三角形の親から本物の正三角形が生まれると、まわりは大喜び。>
  70. <衛生社会局の厳正な審査を経て、その子が正三角形だと認められると、厳かな儀式をして、正三角形の階級に加えられる。>
  71. <それからすぐに、誇らしくもありながら悲しみにくれる両親から引き離され、子どものいない正三角形の養子になるのだ。>
  72. <養親は、今後一切、子どもを元の家に行かせず、親戚との行き来もさせないという誓いを立てる。>
  73. <若い成長過程の子どもが、無意識に親のまねをして、先天的なレベルに逆戻りしてしまわないようにだ。>
  74. <こうやって、たまに奴隷のような身分から正三角形が生まれることは、ひたすら惨めな存在である、その階級の者たちへの希望の光となるだけでなく、上流階級にとっても喜ばしいことなのだ。>
  75. <彼らはこうした珍しい現象が、自分たちの特権を損なうことなく、下層階級から革命が勃発するのを防ぐ絶好の障壁になることをよく知っているんだ。>
  76. <尖った角を持つ大衆は、希望や野心をまったく持っていないとしても、たくさんの扇動的な反逆者の中から指導者を見つけ、その数と力にまかせて円階級を打ち負かすかもしれない。>
  77. <でも、賢明な自然の法則によって、労働者階級が知性と知識と美徳を増やしていくことで、鋭角の角度も大きくなって、無害な正三角形の角度に近づいていく。>
  78. <もっとも野蛮で恐ろしい兵士階級も、闘う力をつけるために知性を磨くことで、戦闘能力が弱まっていくのだ。>
  79. <素晴らしきかな、代償の法則!>
  80. <自然の適応性を証明し、フラットランドの貴族制度を盤石にしているのだ!>
  81. <円や多角形は、この自然法則を巧みに利用して、抑えがたい希望につけこむことで反乱の芽をつむことができる。>
  82. <技術も法と秩序のために役立っている。>
  83. <基準に満たない大多数には、自分も貴族になれるかもしれないと思わせて国立病院に入院させ、そこで一生、名誉ある監禁生活を送らせればいい。>
  84. <最後に残った一、二名の、頑固で愚かで望みのない無法者は、処刑。>
  85. <ここまでくれば、計画もリーダーも失った惨めな二等辺三角形たちは、……>
  86. <われわれの歴史には一二〇件以上の反乱が記録されていて、小さな騒乱も二三五件あるが、すべて、こうした結末をむかえている。>
  87. <兵士階級のとんがり切った三角形が怖いのだとしたら、女性はさらに怖いことくらい、容易に想像できるだろう?>
  88. <なにしろ、兵士がくさびなら女性は針。>
  89. <いわば全身が点、少なくとも両端が点なんだから。>
  90. <さらには、思うままにほとんど透明になれるときた。>
  91. <フラットランドの女性は、軽んじちゃいけない存在なんだ。>
  92. <ここで、フラットランドの女性がどうやって姿を消すんだろうと思った読者もいるだろう。>
  93. <これは自明のことなんだけど、ちょっとだけ説明しておこう。>
  94. <針をテーブルの上に置く。>
  95. <彼女が横を向いていれば、わたしたちからは直線に見える。>
  96. <まさに無生物みたいに暗い。>
  97. <彼女にとって背中側の端は姿を見えなくする、隠れ蓑のような役割を果たすんだ。>
  98. <この世界の女性が、どれほど危険な存在か、三次元のスペースランドにいたってわかるはずだ。>
  99. <中産階級の立派な三角形の角も危険といえば危険だ。>
  100. <労働者とぶつかったら深手を負うし、兵士階級の将校と衝突したら重傷は免れず、兵卒の頂点に触れただけで死ぬ危険がある。>
  101. <でもこれが女性だったら、即死しかないんじゃないかな?>
  102. <そのうえ、女性は姿が見えないというか、薄暗い点しか見えないから、どんなに注意を払っても、ぶつかるのを避けるのは難しいよね。>
  103. <そこで、この危険を最小限にするために、フラットランドの国々ではさまざまな時代に、多くの法律がつくられてきた。>
  104. <特に、気候が温暖でなく、引力の強い南方では、人が不意な動きをしがちなため、女性に関する法律は自然と厳しくなる。>
  105. <一般的な規定はこんなふうになる。>
  106. < 1.すべての家の東の側壁に女性専用の入り口をもうけ、女性は「気品ある礼儀正しい作法で」その入り口から入ること。男性用の西の側壁の入り口は使用しないこと。>
  107. <2.女性は公共の場所を歩く際には、平和の叫びをあげ続けること。違反したものは死刑。>
  108. <3.小舞踏病、ひきつけ、激しいくしゃみを伴う風邪など、不随意の動きをする病気にかかっていると診断された女性は、即刻、破壊される。>
  109. <いくつかの国では、さらに法律がある。>
  110. <女性は公共の場所では、尻を左右に振って、後ろにいる人たちに自分の存在を知らせながら歩かなければならない。>
  111. <違反するとこれまた死刑。>
  112. <女性が旅行をするときには、息子か召使いか夫が後ろに続かなければいけない。>
  113. <宗教的な行事のとき以外は家に閉じこもっていることを義務づけている国もある。>
  114. <しかし、円や政治家の賢い連中は気づいたんだ。>
  115. <女性の行動を制約しすぎると、種の衰退ばかりか、家庭内での殺人を増加させるため、規範が多すぎると、国家にとって得るものより失うものの方が多くなるということに。>
  116. <家に閉じ込められたり、外で規則に縛られた女性は、イライラして夫や子どもに怒りを向けやすいんだ。>
  117. <あまり温暖でない地域では、女性たちが一斉に反乱を起こし、ほんの一、二時間で村の男性たちを一人残らず破壊してしまったこともある。>
  118. <したがって、さっきあげた三つの法律だけで、国の治安向上には十分ということになる。>
  119. <けっきょく、こういった法律は、われわれだけでなく、女性たちを守るためでもあるんだ。>
  120. <流行の力も大事だね。>
  121. <さっき言ったように、なかには、尻を左右に振らなければ、女性が公共の場に立っていられない未開の国もあるけど、よく統治された国では、女性であるなら地位にかかわらず、この習慣は身につけているものだ。>
  122. <立派な女性なら当然のふるまいを、法律で強制しなくてはならないなんて恥ずべきことだよ。>
  123. <円階級の女性の、言うなれば調子よくうねるような、リズミカルな尻の振り方は、正三角形の妻たちの羨望の的だ。>
  124. <正三角形の妻がまねしても、せいぜい振り子みたいに単調に揺れることしかできないんだが、その姿も、進歩的で野心的な二等辺三角形の妻たちにとっては憧れの的で、またこれをまねするんだ。>
  125. <本来は尻振りが必要ない生活のはずなのにね。>
  126. <こうして、時とともに、あらゆる地位にある、すべての家庭に尻振りが浸透し、家族を目に見えない攻撃から守ってくれている。>
  127. <女性は愛情に欠けているというわけではないけど、残念ながら、華奢な女性たちは、一時の感情がすべてに勝ってしまうんだ。>
  128. <これは女性が不幸な形をしているからだね。>
  129. <角らしい角がないんだから。>
  130. <最下層の二等辺三角形にも劣っていて、知性もないし、思慮も判断力も先見性もなくて、記憶することもほとんどできない。>
  131. <だから怒りの発作が起きると、分別を失ってしまうんだよ。>
  132. <実際に、家族を皆殺しにしておいて、三〇分後に怒りが収まって残骸を掃除してしまってから、夫や子どもたちはどこにいったのかしら、と尋ねた女性もいたからね。>
  133. <つまりだ、身体の向きを変えられる状態の女性を、絶対に怒らせちゃダメ。>
  134. <女性が部屋にいるときだけ、こちらの言いたいことを言って、やりたいことをするんだ。>
  135. <部屋は女性が自由に動くのを妨げるように設計されているから、こちらに害を及ぼせないし、たとえ殺してやると脅してきたって、数分もすれば忘れちゃうからね。>
  136. <なだめるためにした約束だって覚えちゃいないって。>
  137. <みんな家庭内の夫婦関係はうまくいっているようだけど、軍人階級の最下層だけは違うようだね。>
  138. <この階層の夫は、機転と思慮が足りないから、時として言語に絶する惨事が起きたりする。>
  139. <向こう見ずなこの輩は、良識やごまかしといった防具はもたず、鋭角という武器に頼りすぎるんだ。>
  140. <女性の部屋を作る際の規定をないがしろにしたり、家の外でも不適切な物言いで妻を怒らせ、そのうえ、発言をすぐに撤回しない。>
  141. <もっと言えば、彼らは無神経で鈍感だから、賢明な円ならすぐに気前の良い約束をして妻をなだめるのに、それさえしない。>
  142. <結果、大虐殺だ。>
  143. <まあ、悪いことばかりじゃないよ、二等辺三角形の中でも乱暴な奴らが消えてくれるわけだから。>
  144. <円階級の多くは、か細き女性の破壊力もまた天の配剤の一つであって、余剰人口を抑えて、革命の芽をつむためには必要なものだと考えているよ。>
  145. <とはいえ、もっとも規律正しい、ほぼ円に近い理想的な家族の生活ですら、三次元のスペースランドにいる君たちの水準には及ばない。>
  146. <虐殺がないという意味では平和だとは言えるけど、何かを探究したり味わったりすることが欠けている。>
  147. <注意深くて賢明な円階級は、安全とひき替えに家庭的な安らぎを捨てたんだ。>
  148. <円や多角形の家庭では、古くから、妻や娘は、夫や男性陣につねに目と口を向けていなければいけないという習慣がある。>
  149. <上流階級の女性にとっては、もはや本能の一種になっている。>
  150. <名家のレディーが夫に尻を向けることは、地位を失うなどの不吉な前兆とみなされてさえいるんだ。>
  151. <この習慣には安全という長所がある反面、欠点もある。>
  152. <たとえば、労働者や堅実な商人の家では、妻は家事をするときに夫に尻を向けることが許されているから、ハミングのような絶え間ない平和の叫び以外は、妻の姿が見えず、声も聞こえない静かな時間ができる。>
  153. <上流階級の家ではこういう静かな時間はない。>
  154. <よくしゃべる口や、射るように輝く目が、絶えず家の主人に向けられているからね。>
  155. <そのおしゃべりのしつこいこと。>
  156. <女性の攻撃をそらす術は心得ていても、その口をふさぐことは実に難しい。>
  157. <だから、安全だけれど騒がしい女性のおしゃべりより、致命的だが静かな一刺しの方がましだ、と断言する皮肉屋も少なくない。>
  158. <スペースランドの君からしたら、この世界で女性が置かれている状況は嘆かわしいだろうね。>
  159. <たとえ最下層の二等辺三角形でも、男性ならば、角度を大きくして、卑しい身分から這い上がる希望はある。でも、女性にはそんな望みはない。>
  160. <「女性に生まれたら、死ぬまで女性」が自然の定め。>
  161. <進化の法則は、女性に不利に働いているようだ。>
  162. <女性に希望はないけれど、彼女たちの存在と不可分であると同時に、二次元のフラットランドの基盤にもなっている苦悩や屈辱を、思い出す能力も予測する能力もないんだからね。>
  163. <君たちは、光と影に恵まれ、二つの目があるから、遠近法を知っている。>
  164. <さまざまな色彩を楽しんだり、実際に角を見ることもできるし、素晴らしい三次元の世界で円周をぐるりと見渡すことだってできる。>
  165. <そんな君たちに、フラットランドでお互いの形を認識する難しさを、どうやったらわかってもらえるんだろう?>
  166. <前に言ったように、生物、無生物を問わず、フラットランドでは、すべてのものがまったく同じか、ほとんど同じ形、つまり直線に見えるんだ。
  167. <すべて同じに見えるのに、どうやって区別していると思う?>
  168. <答えは三つある。>
  169. <一つ目は、聴覚で認識する方法。>
  170. <わたしたちの耳は、君たちよりはるかに高度に発達しているんだ。>
  171. <友人の声だけでなく、階級の違いまでも聞き分けることができる。>
  172. <少なくとも――二等辺三角形は除いて――下の三つの階級である、正三角形、正方形、五角形については可能だ。>
  173. <社会的階級が上がるにつれ、識別は難しくなる。>
  174. <最下層の者は発声器官が聴覚以上に発達しているため、二等辺三角形は多角形の声を簡単にまねすることができ、訓練を積めば、円の声だってまねすることができる。>
  175. <そうやってだまされる危険もあるから、一般的には次の識別方法がとられている。>
  176. <それは触覚だ。>