第12話 こっちの世界で 

『はじめまして!私は矢野 陽子といいます。』

こっちの世界にも同じ人がいるんだ?

とてもびっくりした。

だって夢の中ででてきた人そのものだったから。

俺は多少びくびくしながらもその矢野陽子さんに頭をぺこりとさげた。

はじめてかもしれないこの世界にも夢の世界と同じ人がいて生活をしている。

そして矢野陽子は夢の世界でもこっちの世界でも俺にとってはやっかいな人だと思った。

しかしなぜ夢の人が現実にいるようになったのかはわからない。

答えをもとめようとして杏菜をちらりと見る。

杏菜は俺の視線に気が付いて説明してくれた。


まず夢の中の世界を形作るにもある程度モデルはいる

モデルの人たちは無作為に選ばれた人たちで

しかし普通に街で暮らしている人からは、選ばれないそうだ。

ということは・・・。

『そ!私はマークされている人間よ!』

やっぱりか・・・。

やっかいな人決定だな・・・。


『でもね・・・私はもともと街に住んでいた人間だったのよ』


え?

どういうことだ?


『他にも街に受け入れてもらえない人はたくさんいますよ・・・。けど受け入れてもらえないだけであって存在自体は拒否されてはないのよ・・・。街に住めないだけで』

それって実質存在できないのと一緒じゃないか!

杏菜はくすくすと笑いながらも

『竜馬は優しいね・・・。』と言った。

『なんで優しいってことになるんだよ』

『だって・・・。自分も人として認めてもらえないのに他人のことばかり心配してくれてる・・・。』

『だって同じことだろ?』

杏菜は急に黙り込むと

『同じなのかな…』とつぶやいた。

とにかく早く仲間のところにたどりつきたい俺としては目の前にいる陽子がなぜここにきたのかを聞いてみたかった。

『私はね・・・頼まれて迎えにきたの』

杏菜は急にしっと指を口にあてた。

『だれかが近づいてきてる!』

すると陽子が『あー一緒に来た人よ』といって中に招き入れた。


入ってきたのは中年の渋い男性と妖艶な雰囲気をまとった女性2人だった。


『自己紹介は済んだ?陽子ちゃん。』

渋い男性のほうがそう言って穏やかに微笑みながら近づいて陽子の肩に腕をわましながらこちらをちらりと見た。

『ちょっと!馴れ馴れしいわよ!文哉!私はまだ認めてないからね!』

男性はやれやれと肩をすくめるとこちらを今度は真正面から見て

『私は文哉だ、たぶん後でわかることになると思うので初めに言っておくが、弥勒の兄弟で陽子の婚約者だ。』そう言うと握手を求めてきた。

え?弥勒の兄弟?

『弥勒は俺の兄貴になるが実際のところDNAの上での兄弟と言ったところだな。』

『なんでそんな人がここに?』

俺の複雑な表情をみて文哉は

『聞いていない?その家庭で生まれていいのは男1人女1人だけって』そう言うと寂しそうに笑う。

『しかも俺は間違って生まれた腹違いの弟なんだ』

この人もか…。この世界はどうなっているんだ?

『俺たちの親父は下関係に緩くてね節操がないので有名な人なんだ。だから巻き込まれた俺の母は本当に事故見たいな出来事だったと言っていた。まぁ事故で俺が生まれちまったって聞かされて育てられたからこんな感じに育っちまったけどね。』

愛で生まれる人もいればそうじゃない人もいてその誰もが今は不幸、そう考えるとやはりこの世界は間違っている!こんな世界が

あっていいはずがないとこの時俺はそう思ってしまった。この世界になった原因が、あるということに気がつかされるまでは…。

『ねぇ話は終わった?』妖艶な女性の方が今度は近づいてきて手を差し伸べた。

『私は阿修羅よ凄い名前でしょ?神様の名前をつける変なやつなんてうちぐらいじゃないかしら?まぁわかると思うけど私も弥勒の兄妹よ。私は文哉と違って弥勒とは両親とも一緒なの。だけどね産めない身体にされて今ここにいるの。』

ええ!どういうこと?

『だから弥勒と親父には恨みしかないの』

阿修羅はそういうとふふっと笑った。

『心配しないで、今の状況は前と違ってだいぶいいから。』

そういうと寂しそうに阿修羅は外を見た。


だいぶ前に文哉という弟がいると聞かされた。

文哉の母は恨み辛みをかいた手紙を残して流行り病にかかり亡くなってしまい、文哉1人で生きてきたという。

阿修羅はそんな文哉と逢うために先に父親に話をした。父親は文哉という存在を知らないと冷たく言い。余計な情報を持ってきた阿修羅に対して酷い仕打ちをしたという。

『まだ何も知らない私の部屋に支援している政治家を入れて初めてを奪われたわ。そんなことを何度もあるうちにとうとう妊娠してしまったの…子供を降ろされそうになって逃げた先で事故に巻き込まれ、私は助かったけどお腹の子供は死んでしまった。そんな事があって私は普通に子供を産むことが出来なくなったの。今はあの家から出て文哉と陽子を連れてレジスタンスに入って活動しているけどね〜。』そういうとふふっと笑った。

文哉はまた陽子の肩に腕をまわすと

『陽子ちゃんは本来なら弥勒と一緒になるはずだったんだが俺が奪ったんだ』とまた言った。

ええ?!

『私はあんたのもんじゃないって!』陽子は口を尖らせてそう言うと部屋の隅にある戸棚からなにやら袋を取り出し俺に渡した。

『これ必要になるから持っていて。』

なんだ?

訝しげに袋を受け取る俺をみて陽子は

『変なもんじゃないよ』と言った。


若く見えるけどそうとう歳いってる?

俺のそんな気持ちを表情で読み取ったんだろう顔を真っ赤にして

『言っとくけど私まだ20代だからね!』

へえー💦


『そんなことよりもこの人は?』

阿修羅と文哉の視線が省吾に注がれている。

『あ~ついてきたみたいだ・・・。省吾は弥勒とその・・・』

すかさず阿修羅が答える

『知ってる・・・なんでここにいるの?』

険悪な雰囲気が流れた。

省吾はたじたじしながらもここに来た経緯と理由を阿修羅と文哉に話した。

『信用できない・・・。無理だからここから帰って。』

阿修羅はそういうと省吾をにらんで荷物を抱えながら外へ出ようとした。

『お願いします!なんでも言うこときくので連れて行ってください!』

『てかなんで竜馬に似ているからって自分も処分の対象とか思っちゃうわけ?』

省吾は涙目で

『母のお腹の子供は女の子ではありません』とつぶやいた。

一同驚愕のあまりえ!っとなるが次の瞬間

『あ!もしかしてやり直しさせられているってやつ?』と陽子が言った。

やりなおしとは途中で不義の子供ができた場合、安全策をとって前の子供も処分対象としてやり直しをさせられるという。

処分対象って・・・。複雑だ・・・。


小屋からでて杏菜と俺と省吾そして阿修羅と文哉そして陽子の6人でさらに森の奥へ一緒に行くことになったのだが、森の奥を目指して歩いていくと、目の前にでかい河川敷が見えてきた。

『さっきの袋貸して』

渡すと中から萎んだゴムボートみたいな塊が出てきた。

栓を抜くと大きく膨らんでボートになる。

そのボートに5人で乗り河川敷の向こう側へ渡る。

『ここでは川を渡る手段はボートしかないのちょっと狭いけど我慢してね』

なるほど…。


向こう岸へ渡るとボートを萎ませ畳みまた袋に入れた。

『ここまできたらあともう少しだから』そういうと先頭を黙々と歩いていく陽子にそれに続く俺ら…。

『ここからはそれぞれこれを持っていくよ』

渡されたものは刀だった。

どういうこと?

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