【第2章】第9話 不埒な恋の味
💎前回までのあらすじ💎
【恋愛経験もほとんど無いまま見合結婚した
【 本 文 】
(好いた
と鼻白み、手に取ってみたことはあるものの、読み始めて早々に馬鹿らしくなって、たいてい途中で投げ出したものだった。
ところが最近、名作と言われる恋物語を片っ端から読み直し、思わず胸が苦しくなって、涙している自分がいることに呆れるやら、驚くやらだ。
登場人物たちの想いが胸の内に流れ込んできて、瑠色の感情に同化してしまうのだ。つい最近までは、
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「なんだお前、“不倫モノ”なんか読んでるのか?珍しいじゃないか」
日曜の午後、瑠色がダイニングテーブルで一心に本を読んでいると、
本のタイトルを確認してくるとは思っていなかった瑠色は、
(油断した)
と、内心慌てた。
これまで恋愛小説の「れ」の字も口に出したことがない妻が、よりによって道ならぬ恋の話を読み出すなんて、怪しまれても不思議ではない。
思わず口ごもる瑠色に憲介が言った。
「お前がそんなの読んだって、どうせ解らねぇぞ」
「……そう、かな?」
瑠色は平静を装って顔を上げ、憲介を見た。
「そうだよ、解るわけないじゃん、お前に男と女の機微なんて。
俺は解るよ、さんざん不貞事件や離婚事件を扱ってきたんだから。
お前みたいに、『不倫は絶対駄目!』とか、『浮気する奴は許せない!』とか、ぜんっぜん思わねぇもん」
「そうなの?」
「そうだよ。こういうことはさ、善い悪いの問題じゃあないんだよ。こんな女なら俺だって浮気したくなるわっ、て思う事例が、いくらでもあるんだから」
と、憲介は訳知り顔で言う。
「ふーん……」
瑠色は、ここは余計なことは言わないに限るとばかりに、相づちだけを打って黙っていた。
「まあ、読んだって無駄だろうけど、お前もこういうことを、少しは勉強しておいても良いかもな」
「え、どうして?」
「少しは人の気持ちが解るようになるかも知れないからさ」
「そう……」
憲介は、小馬鹿にしたようにフフンと鼻で
自営業者の典型で、休日はあって無いようなもので、憲介が丸1日休みを取るのは、月に1~2度程度だ。
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瑠色は玄関の鍵を閉めると、ホッと胸を撫で下ろした。あの調子では、怪しまれなかったようだ。
疑り深い性格のくせに、女房に男がいるのではないかという疑いは、頭に浮かばないようだ。
(確かに、人の気持ちは解るようになったわ)
と瑠色は苦笑した。
彼女はこれまで常に、“ 正統派の立場 ” 、 つまり、妻の立場から不倫を
彼女の頭の中では、不倫の “ 被害者 ” は常に妻であって、夫ではなかった。
不倫は、“ 不良な男 ” と “ あばずれな若い独身女 ” が、肉欲と金で結び付いてするものであって、裏切られるのは常に、真面目に家庭を守る妻であり、それは100%同情に値するものだと、瑠色は信じてきた。
だから、
ところが、まさか自分がその立場に身を置くことになろうとは……。
自分も力斗も、実際、家族と過ごす休日にはメールさえままならない。それが、身を切られるように辛いことだとは、想像できなかった。
お互いに気持ちが通じ合っていながら、痛いほど辛い状況があることを、知らなかった。
結婚後間もなくから、憲介がキャバクラなどで深夜まで飲み歩いてくることが週に何度もあることを知ったとき、
(裏切られることがあるとしたら、私であって、憲介ではない)
と、当然にそう考えていた。いや、当然すぎて、考える余地さえないことだった。
しかし、裏切ったのは、自分の方だった。
そして、浮気とか不倫というものが、気晴らしやストレス解消といった、そんな軽いものでは必ずしもないことを知った。
瑠色にとって、「恋」であることに変わりなかったから。
彼女は、甘やかなのに
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