【第2章】第8話 キス無しセックス

💎前回までのあらすじ💎

【20年近く、夫一筋に家庭円満のためだけに生きてきた大河瑠色おおかわ るい。しかし、ある日衝動的に "出会い系サイト" に登録し、そこで出逢った大学准教授の倉松力斗くらまつりきとに抱かれる。その余りのよろこびに、セックス嫌いだった瑠色のからだは急激に開き始める】



       【 本 文 】



 この日大河瑠色おおかわるいは、不思議なセックスを経験した。

 唇と秘部に、1度も口づけされなかったのだ。

 もちろん、なにかの罰ゲームではない。

 倉松力斗くらまつりきと口唇こうしんヘルペスにかかり、粘膜から感染してしまうからキスできないと、ホテルの部屋へ入ってソファに座ってから告げられたのだ。

「ひどぉい。あらかじめ言ってくれれば良かったのに」

瑠色は地団駄踏じだんだふみたい気持ちになって、ふくれっ面をした。

「だって、どうせ逢うんだから、こんなこと言わない方が良いでしょう?」

瑠色がその丸顔をさらに丸くするようにぷくっとふくらませている頬を指で突っつきながら、力斗は言った。

「キスできないなんて、耐えられない」

「キスできないと、逢っては駄目ですか?」

と力斗は笑った。

「……逢う」

瑠色はねるようにつぶやいた。

「じゃあ良いじゃない、言わなくても」

力斗はあやすように瑠色を抱き締めた。

(やっと逢えたと思ったのに、なによ、なによ、なによお)

瑠色は心の中でなおも文句を言いながら、丸い頬をますますふくらませた。


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 力斗と逢えたのは2週間以上ぶりなのだ。

 大学の専任研究者にとって、10月は「死の月間」と呼ばれる。

 科研費の申請や推薦入学者の面接、留学希望者の指導、ゼミの説明会等々に備えた準備に一気に追われ始める。

 しかしもちろん、本業の研究活動に手を抜く訳にはいかない。その上他の研究者から論文の共著も頼まれ、それにも容赦のない締切がある。

 力斗はまともに寝床で眠る暇もなく、免疫力が下がりがちな上、たくさんの学生に接するから、この多忙な時季にインフルエンザにかかりやすい。

 以前、まだ尚美なおみが生まれる前のこと。突然体が重くなり、めまいや吐き気をもよおしたことがあったが、論文の締切が迫っていて休むわけにはいかず、

「この体調の悪さは、気のせいだ!」

と自分に言い聞かせて論文を書き続け、仕上げた頃に体調が良くなったことがあった。

「一番辛い時に仕事をして、終わったら治るなんて、タイミング悪すぎですよね」

と、当時を思い出して呆れて苦笑しながら、力斗は瑠色に話したことがあった。

「まあ!そんなに無理をしたの?奥さんに『寝ていなさい』って、叱られなかった?」

「いや、奥さんは気が付かなかったと思いますよ」

「ええ!インフルエンザに罹っているのに、気が付かないなんてことはないでしょう?」

「いや、そもそも熱も測らず、病院へも行きませんから、インフルエンザだったのか判りませんよ。それに、私が体調が悪くても、うちの奥さんはたいてい気が付きません」

「どうして?」

「どうしてですかねぇ……私は研究室か書斎に閉じこもっていることが多いし、態度にも口にも出さないからかな」

「どうして言わないの?」

「別に、言う必要を感じないので」

「そういうもの?

でも、言わなくても、具合が悪そうなら判りそうなものじゃない?

力斗さん、睡眠不足で目が充血している時があるし、それだけでも、相当疲れているのだわって、すぐに判るわよ」 

「ああ、そうですね。貴女は判ってくれますね。『眠っていていいわよ』って言ってくれる。でも、貴女が隣で寝ていたら、私は眠っていられませんけれどね」

「そんなに疲れていても、必ず逢いに来てくるわね」

「逢わずにはいられないですからね……」


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 刻一刻を争うように仕事をしなければならないこの時季は、インフルエンザにだけは罹りたくない、と力斗は毎年思う。

 自分は無理できるが、講義する訳にいかなくなるのが困るのだ。

 インフルエンザに罹りながらも論文を仕上げた当時は、いつもの講義に加えて、休講した分の補講も重なり、その間に学会で海外にも行かねばならず、スケジュールをどうやりくりしたのか、あまりの忙しさで力斗は記憶が無い。

 最近徹夜が増えているが、娘の尚美の幼稚園行事で力仕事をした時に、腰を少々痛めてしまった。

 さすがに体が悲鳴を上げ、口にヘルペスができたのだ。それでも、瑠色とのデートをキャンセルする選択肢は、力斗にはなかった。

「唇と以外にはキスできますから、ね」

と力斗は瑠色のスカートの中に手を入れ、パンティの上から秘部をなぞった。


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 最も敏感な粘膜2ヶ所を避けつつ、力斗はいつもより狂おしく、瑠色の全身にキスの雨を降らせた。

 避けるほどに、そこは熱を帯びてくるように感じた。

 瑠色は、なにやら罰を受けるプレイでもしているようで、いつにも増して卑猥ひわいな気持ちになってくるのだった。

 力斗も、愛おしい女の最も触れたい部分を顔前がんぜんにしながら、すんでのところでこらえなければいけないもどかしさから、逆に興奮し、いつもより早く反応を起こしていた。

「ああ、辛いなぁ……貴女の唇にキスしたい。ここも食べたい」

力斗は、ソファに寝かせた瑠色の脚を肩に乗せ抱えると、膝から内腿、鼠径部そけいぶへと舌を這わせていき、腰の下までしたたる蜜に鼻先を付けた。

「いやっっっ……」

瑠色はビクリと腰を浮かせた。

「いい香り。貴女の匂いも大好き」

力斗が、高く尖った鼻先を、蜜の中に埋める。

「もう、そんなことされたら、かえって辛い」

瑠色はあえぐように言った。

「私も辛いです……」

「なら、ちょっとでいいから、食べて。お願い」

「それは駄目ですよ。本当に移っちゃいますから」

「そんな。苦しい!」

力斗は鼻先の代わりに、赤く膨らんだ太い棒を、蜜の膜を突き破って入れた。

 瑠色は力斗の首にしがみついた。

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