Extra edition ー その行方 〜 4  時の忘れもの(2)

どうだった? ゆかりいた?」

「いないんだ、さっきまで駅にいたんだけどさ、もう始まっちゃうだろ? だからもう諦めて、そっちに向かってるから」

「そうなの!? もう〜あの人、どうしちゃったのかしら! でも、うん、分かったわ、ありがとうね!」

 そんなやりとりをさっさと済ませ、列に戻ろうと振り向いたのだ。

 その瞬間、何かが視界の中に映り込んだ。なぜだか無性に違和感を覚え、美津子は列の方から視線をグルッと後ろに向ける。

 するとその途中、庭園入り口そばに女性が立って、下を向き、本か何かを読んでいるように見えた。

 キャスケットのような赤い帽子に、イタリアングリーン色のワンピース姿。その下には真っ赤なハイヒールを履いている。

 ――どちらかの、親族かしら?

 顔は見えなかったが同年代ではきっとない。

 となれば、そうなんだろうと美津子は思い、声を掛けようと足を一歩踏み出した。

 ――どうぞ、新郎新婦の方へいらしてください。

 そんな感じを声にしようとしたのだが、その時ちょうど新郎新婦が席に付き、ドッと歓声が湧き上がる。

 それでも女性は顔を上げず、相変わらず下を向いたままだ。

 美津子はチラッと人だかりの方を見やってから、

 ――あそこにいるのは、きっと何か、理由があるんでしょうね……。

 そんなことを心に思い、美津子はそのまま踵を返して歩き出すのだ。

 そして同じ頃、原裕治がやっとのことで庭園入り口に差し掛かる。ちょうど塀の外まで歓声が聞こえ、彼はヘトヘトになりながらも必死に中に入っていった。

 すると前方に人だかりが見えて、そのちょっと手前には美津子の姿も目に入る。

 そこで「美津子!」と大きく叫んで、彼女を振り向かせようと思うのだ。

 ところがその寸前、目の前に何かがフッと現れた。

「あっ」と思った時にはドシンと衝撃。顎の辺りに痛みが走って、彼は慌ててぶつかった何かに目を向けた。

 そこにいたのは〝か細い〟老婆。地面に尻餅をついている。

「あ、すみません! 大丈夫ですか!?」

 彼はそう言って、抱き起こそうと老婆に慌てて駆け寄った。

 その瞬間、老婆が顔をパッと上げ、しゃがれた声を上げたのだった。

「邪魔をするなあ!」

 声に驚き、彼はほんの少しだけ反りかえる。

 これが彼にとっての幸いで、次の瞬間、老婆の右手が鼻先をかすった。

 チクッと微かな痛みを感じ、慌てて裕治は己の鼻に手を当てる。すぐに手のひらに目をやれば、すでにそこそこ血だらけなのだ。

 なんなんだよ!

 驚きと恐怖で身体が固まり、目だけをキョロキョロと動かした。

 老婆の手にはナイフが握られ、すでに視線は彼の方を見ていなかった。


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