モロク

平 一

モロク

様々な悪事を重ねた私はだんだんと行き詰まり、

とうとう魔術にでも頼るしかなくなった。

幸い、その方面に詳しい仲間がいたので、

何とか魔王を呼び出すことに成功した。


モロクはとても悪魔とは思えない、

優しそうな少女の姿で現れた。


母性的な微笑みを浮かべてたたずむ彼女に、

私はさっそく依頼を切り出した。

『絶対にアシがつかない毒薬を頼む!

人身売買がバレそうなので、証人を消したい』


しかし彼女は、つれない態度だった。

『残念ながら貴方は不勉強のようね。

薬品に詳しいのは、従妹いとこのモラクスの方よ。

あの子は白魔術系だから、お話を受けないと思うけど』


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330655884084892


私は苛立いらだち、要求を言いつのった。

『おいおい、苦労して呼び出したんだ!

お前だって悪魔には違いないんだろう!?

そうだ、商品には子供もいるから生贄いけにえも出せるぞ!』


彼女は初めて、悪魔らしい凄みのある笑みを浮かべた。

『まあ、人間は皆そうなんだけど。

本当はね……私のかてになったのは、

子供達をしいたげる大人の方だったのよ』


愛らしかった彼女の姿は、

見るに恐ろしく変貌へんぼうを遂げてゆき、

私が最期さいごの時に聞いたのは、

血も凍るような自分自身の悲鳴だった。



モラクス:

ソロモン王が使役した、72大悪魔の中の一柱ひとはしら

天文学や薬草学、鉱物学についての知識を与える。


モロク:

古代中東の神で、後に子供の生贄を求める悪魔とされた。

悪魔モラクスの原型になったといわれる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

モロク 平 一 @tairahajime

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説