No.78:高校時代
それから数日後、時刻は18時。
俺は長野市内の繁華街に来ていた。
指定された、しゃぶしゃぶ食べ放題の店だ。
店に入って予約の名前を伝えると、店員さんが案内してくれた。
そこには先客が3人いた。
「瑛太君」
「おっ、仲代」
「仲代くん、こんばんはー」
美桜と吉川と星野の3人。
先日ヴィチーノに来てくれた面々だ。
「悪い。待たせた」
「ううん、わたし達も今来たとこ」
俺は美桜の隣に座る。
何気なく美桜を見てみると、首元にはシルバーの四葉のクローバー。
俺の心臓は、また少し落ち着きをなくした。
俺たちはドリンクバー付きで、2,980円のコースを注文した。
2時間で食べ放題だ。
先ずはドリンクバーの飲み物で乾杯だ。
「やっぱりさ、実家って落ち着くよね」
星野が切り出した。
「そうだよね。座ってるだけで、お母さん食べ物出してくれるし」
「確かにな。俺、既に体重増えてると思うぞ」
「僕は逆に『何か作ってみて』って、母親に言われてる。ちゃんと自炊をしているかどうか、テストされてるんだよ」
吉川の話に、3人が笑った。
俺は車の免許の話をして、皆の意見を聞いてみた。
他の3人は俺と同じで、まだ免許を取ってない。
それどころか、金銭的にとてもそんな余裕なんて無い、という共通認識だった。
俺の周りの友達が3人、この春に免許を取るという話をすると、びっくりしていた。
「でも僕も取るんだったら、在学中に取りたいとは思ってはいるんだよ。社会人になったら、とてもそんな時間なんかないんじゃないかな」
「そーだよね。私も取りたいけど、先立つものがなぁ……」
「わたしは当面無くてもいいかな……事故とか起こしそうで怖いし」
確かに美桜は、あまり運動神経がいい方ではない。
それに都内だったら、そもそも車は不要だろう。
学生であれば、尚更だ。
「ところで吉川と星野は、どういうところに遊びに行ったりするんだ?」
俺は話題を変える。
「うーん、最初のうちは新宿とかで会ってたんだけどね。僕の大学から近いし。でもやっぱり人が多すぎるしお金もかかるから、最近はお互いのアパートに行き来することが多いかな」
「そうだね。でもたっくんのアパート狭いから、私のアパートに来ることが多いよね」
吉川竜彦で、たっくんらしい。
いろいろ話を聞くと、お互いよくお泊まりをするらしい。
まあお互い大学生だから問題ないわけだけど……彼女・彼氏ナシの俺と美桜にとっては、いささか刺激が強い内容ではあった。
「わたしは国分寺近辺から、あまり出ないかな。塾も家庭教師もアパートから近いし。あ、でも外食のバイトを始めようかと考えてる」
「俺もそうだな。学校以外は、吉祥寺周辺だ。新宿とか行くと、人に酔う」
まあ学生なんて、そんなもんだろう。
車の免許でも取れば、遠乗りとかするようになるのだろうか。
「でもさぁ、こんな風に4人でごはん食べるようになるなんて、本当面白いよね」
星野が悪戯っぽく笑う。
「たっくんさぁ、高校の時、好きだったんだよね? 美桜のこと」
「ちょ、ちょっと、恵ちゃん!」
吉川があからさまにたじろぐ。
「今話すようなことじゃないでしょ?」
「いいじゃん、もう時効だし。でも修学旅行のあとさぁ、美桜が仲代君と付き合いだして……たっくん、あからさまに落ち込んでたじゃん」
「恵ちゃん、勘弁してよ。本人の目の前で……」
たじろぐ吉川と、「えっ」と言ったっきり下を向いた美桜のコントラストが面白い。
といっても、俺も関係者なんだが。
「てことは、その頃から星野は吉川に気があったってことか?」
俺は話の方向を変える。
「そりゃそうだよ。吉川くん、モテてたからね。競争率高かったし」
「うん、それはそうだったね。『吉川くん、いいよね』って言ってた子、わたしも何人か覚えてる」
確かに吉川は優しげなルックスで、当時のクラス委員長。
さらに人当たりが良くて頭の回転が早ければ、モテない理由はない。
「暗に俺はモテなかったって言われてるのか?」
「そんなことないよ! 隠れファンもいたんだよ。わたし知ってる」
「そうだね、仲代くんも、そこそこ人気あったよ。たっくんの次の次の次ぐらい」
「嬉しくねぇ」
結局は星野の彼氏自慢だった。
「でも仲代はあのとき、結局徳永さんを射止めたわけだろ? 徳永さん、ウチのクラスで1番人気だったからね。ガッカリさせられたのは僕だけじゃないと思うな」
「そ、そんなことない……」
美桜が照れている。
確かに……あの頃の美桜、モテてたからな。
綺麗だったし性格も穏やかだし。
それが……今薄く化粧を施した隣の美桜は、さらに綺麗になっている。
俺たちは高校時代の話題に話をさかせた。
今誰がどこにいるのか。
そんな他人の近況で盛り上がった。
俺たちは制限時間ギリギリまでしゃぶしゃぶを堪能した。
そして次回東京での再会を約束した。
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