No.42:パエリアとハンバーグ
俺はキッチン前のテーブルに案内され、そこに座った。
明日菜ちゃんが持ってきてくれたお茶を、一口飲む。
「立派なお宅ですね」
俺はアイランドキッチンの向こうの、晴香さんに声をかけた。
「まあ主人の仕事柄、変なものは置けないからね。仕事上のお客さんとかを呼ぶ時もあるんだけど、半分モデルルームみたいなもんだから」
なるほど、そういう側面もあるのか。
「瑛太君、今日はパエリアとハンバーグだからね。苦手な食べものとか、ある?」
「いえ、ありません。お昼間から豪勢ですね」
「そうなんです。お母さん、朝から張り切っちゃって」
「でもお母さんのパエリア、美味しいんだよ。お米から作るから」
娘2人からも絶賛の一品らしい。
これは楽しみだ。
「小春ちゃんは、中3だったよね? そのまま高等部へ進学するんだっけ?」
「はい、そうです。高校に入ったら、私もお姉ちゃんみたいにバイトしたいなって思ってるんですけど」
「それは成績次第ね」
キッチンの向こうから、声が聞こえた。
「って言われてるんですよ。小春、お姉ちゃんみたいに頭良くないし……」
「それじゃあ勉強が先でしょ。成績悪いと、大学推薦取れないわよ」
晴香さんが、手厳しい。
「明青大への推薦って、高等部からどれぐらい行けるの?」
俺は明日菜ちゃんに聞いてみた。
「よく言われているのが、学部がどこでもよかったら、上から4分の3に入っていれば大丈夫、っていわれてます」
つまり、下の4分の1に入ってしまうと推薦は受けられないということだ。
「でも学校の成績って、基本的には定期試験の結果ですからね。だから予習復習を普通にやってれば、そんなに悪い結果にはならないはずです」
「もう! それ、できる人の理屈だから」
小春ちゃんは、ふくれている。
「小春はいっつもテレビ見てるか、スマホ弄ってるか、どっちかじゃない。その時間を勉強に当てればいいだけよ」
「そうなんだけどさー……気がついたらYoutubeかTikTok見てるんだよね……」
「あはは、俺も人のこと言えないなぁ。受験の時も、気がついたらスマホゲームにハマってたりすることもあったからね」
「瑛太さん、外部受験ってやっぱり大変なんですか?」
明日菜ちゃんが聞いてくる。
「どうだろ、人にもよると思うけど……。俺の場合、東京に来たかったから何校か受験した訳だけどね。大変だったかって言われると……まあ普通じゃないのかな?」
俺の場合、東京の私学を4校受験、うち3校合格し一番偏差値の高かった明青大を選んだ。
「私も法学部卒なんだよ」
キッチンの向こうから、そう聞こえてきた。
「え? そうだったんですか?」
「そう、私が法学部で主人が政経。ねえ、中央広場の桜の木って、まだあるの?」
「はい、ありますよ。春はもの凄く綺麗です」
「その奥の方にあった花壇は?」
「花壇? そんなのありましたっけ……」
「政経学部の建物の向かい側あたりなんだけど」
「政経の建物の向かい側ですか? 国際教養学部がある辺りですかね……」
「あー、最近できた学部よね」
「はい、建物も新しいです」
「そっかぁ。そこの花壇のバラがすっごく好きだったんだけどね。夏前になるとバラの花が咲いて、いい匂いがしてね」
「そうだったんですね」
俺は晴香さんから、そんな大学での昔話を聞いていた。
旦那さんとの馴れ初めは、同じテニスサークルだったらしい。
きっと美男美女で、素敵なカップルだったんだろうな。
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