第149話 side俺⑥

体の制御はエルクに戻り、俺はまた閉塞された空間に閉じ込められる。


逆戻りしたわけだが、収穫は十分過ぎるほどにあった。


俺が優位な位置で学院長と協力関係になれたのはデカい。

王子にも忠告したことだし、この国も落ち着いていくだろう。


話通り、学院長はエルクと姉を会わせた。

エルクがやっと自身の力を自覚する。


何か変化があるかと少し警戒したが、エルクはエルクのままだった。


冬前の長期休暇が近くなってくる。


早く王位を決めろと言ったのに、王子のやつ手こずってるな。


さて、どうするか。

俺としてはどっちが王になろうとも正直どうでもいい。

王の素質として、操り人形である第二王子は論外だが、本人が愚王だとしても、周りが何とかするだろうから、流石に一代で国が滅びることにはならないだろう。

それに、ダイスが王になったところでうまくいくとは限らない。

そもそも、この国がどうなろうと俺の知ったことでは無い。


ただ、こう周りでイザコザを続けられるのはそろそろ鬱陶しい。


もうこのまま無視してやろうかと思ったが、ダイスも早急に王位を決めようと動いてはいるようだし、今回は力を貸してやるか。


このままだと、エルクの友達が結構死ぬことになるからな。


エルクは長期休暇に村に帰る予定をしている。

ローザに誘われた時に、どちらも行けるルートがあると念を送り、旅行にも行かせる。


今回は必ず村に行かないといけない理由もあるので、帰郷を遅らせるわけにもいかない。


学院祭が始まる前にエルクが俺の存在に気付きそうになったが、学院長がちゃんと対応してくれたな。

学院長が俺に利益をもたらす限りは俺も協力は惜しまないようにしよう。


長期休暇になり、フランベルグ領へエルクは向かう。


王都を出て2日目、予定が変わったのかフランベルグ領を賊が襲い始めたのを千里眼で確認した。


城でたまたま盗み聞きした話だと、ローザが屋敷に戻ってから襲う予定のはずだった筈だが……。


俺が知ったところでやれる事はない。

外の世界に干渉出来ないのがもどかしい。


逃げてきた男からエルク達はフランベルグ領が襲われていることを知り、姉とローザと3人でフランベルグ領へと向かうことになる。


遠くからこちらを見ている男がいるので、ラクネ達が襲われる可能性がある。

補助系の魔法を色々と掛けておくように念を飛ばしておく。


何もないならないで困る事はないだろう。


フランベルグ領に着き、領主の館に向かうが、既にローザの両親は死んでいた。


エルクは姉を自分が治したと勘違いしており、ローザの両親を治すためにまた魔力を暴走させた。


あの時と同じく俺が表に出て、体の制御が出来るようになる。

やはり、エルクが魔力を暴走させることが、俺が表意識に出てくるトリガーのようだ。


目の前にはローザの両親が死んでいる。

俺には助けるメリットは何も無いが、エルクが魔力を暴走させてまで助けようとしたのだ。

蘇生のスキルを試してやるか。


「お父様!お母様!」

まだ魂が体から抜けていなかったのか、2人は目を覚ました。

ローザが2人に抱きつく。


「うぅ……。私は助かったのか……」


「ギリギリ間に合ったね。賊の狙いはフランベルグ家みたいだし、ローザはここに隠れてて」

俺はエルクの口調を真似して話す。


「ありがとう。本当に……ありがとう」


「僕は援護してくるね」


「あ、エルク……」

エレナが呼び止めようとするが、俺は地下室を結界で囲ってから外に出る。


あまり接触が長いと俺がエルクではないと気付かれるかもしれない。


地下室を出た俺は、隠密で姿を隠してから賊の対処をする。

意識が俺だとしてもエルクの体で人を殺すのは抵抗があるので、賊と戦っている人には防護魔法と身体強化を掛け、賊には重力魔法で負荷を強くして動きを鈍くさせ弱体化させておく。


騒ぎになりすぎるのは好ましくないので、明らかに死んでいる人はそのままにして、まだ息のある人には回復魔法を掛けて治していく。


しばらくして街の中から戦いの音が消える。

動けない程の重傷者もあらかた治し終わったので、千里眼で確認して教会にいるエレナと合流する。


「戦いは終わったみたいだよ」

俺はエレナの肩に手を置いて、認識させてから話をする。


「どこに行ってたのよ!心配したんだから」


「……ごめん。外で街の人の手助けをしてたよ。お姉ちゃんはここでずっと治療をしてたの?」


「そうよ。でも流石に魔力が無くなってきてきたわ」


「それなら僕の魔力を分けるね」

魔力譲渡のスキルでエレナに魔力を分ける。


「ありがとう。こんなことも出来たのね。エルクはまだ魔力に余裕があるの?」


「残ってた魔力はお姉ちゃんにほとんど渡しちゃったから、もうあんまりないよ」

実際にはまだまだ余裕だが、教会にいる患者はエレナが治していたこともあり、他の治癒師でも何とか出来るレベルが殆どなので、もう余力がないことにする。


「領主様がお礼をしたいって言ってたわ」


「わかった。お礼を期待して助けたわけじゃないから、お礼なんていらないけど、村には帰りたいから馬車だけは元々の予定通り借りたいね」


「こんなことになっちゃったし、村には帰れないかなって思ってたけど、エルクは帰るつもりなの?」


「うん。食べ物があるかどうかもわからないし、心配だから帰りたいよ」


「……そうね。領主様の所に行って馬車を貸してもらえるか確認しようか。今いる人だけは治すから少し待ってて」


「とりあえずこの辺りの人は治したよ」

自分を中心に500mくらいの範囲に回復魔法を掛ける。


「エリアヒールも使えるようになったの?」

エレナが驚きながら聞く。


「うん。周りがザワザワしているし、行こう」

俺の姿は隠密で見えていないので、エレナがやったと周りには見えているだろう。

一度に治療が終わったことで、教会にいる人は驚き戸惑っている。


「戦いは終わったみたいなので、もう外に出ても大丈夫だよ」

地下室に戻り、ローザ達に教える。


「娘から聞きました。私達を死の淵から救って頂きありがとうございます」

領主が頭を下げる。

伯爵が準男爵とはいえ、平民のような子供にそんなに深々と頭を下げていいのだろうか……。


「友達の為にやっただけなので、気にしないで下さい」

エルクならなんて答えるか考えて返事をする。


「そうは言っても、何か礼はさせて欲しい。私に出来ることならなんでもしよう」


「それなら、予定通り明日村に帰るので馬車を貸して下さい」


「……それは今回の礼とは関係なく用意するつもりでいる」


「何か欲しいものある?」

俺はエレナに聞く。


「すぐには思いつかないかな」


「宿を用意させるから、何かあれば遠慮なく言って欲しい」


「わかりました」


「私は今回のことを説明する為に先に王都に戻るわ。エルク、エレナちゃん。本当にありがとう」


「また学院でね」

王都に戻るというローザに防護魔法を掛けておく。

千里眼で見ても悪巧みしてそうな人は見えないが一応だ。


紹介された宿屋に行き、寝る前、閉塞された空間に呼び戻される感覚を頼りに、エルクの乱れた魔力を魔力制御のスキルで微調整する。


これで朝になる頃には、この体の主導権がエルクに戻るだろう。

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