第112話 褒美

ダイスくんから恩賞と褒美の話をされた。


僕とラクネは準男爵になるようだ。


「準男爵ってどのくらい偉いの?」

僕はダイスくんに確認する。


「難しい質問だな。簡単に言うと平民以上貴族未満だ。貴族ではない。だけれど平民と同じってわけではない。そんな感じだ。領地は与えられないし、子供が出来てもその子供は普通の平民だ。準男爵の子供ってだけ。他の貴族なら親が亡くなれば、子の誰かが爵位を継ぐことが出来るが、準男爵は継がせる事が出来ない。名誉をもらったくらいに考えておくといいさ。同じようなことをすれば今度は男爵になれるって違いはあるけどな」

そっか。思ったよりも大事じゃないようで良かった。

貴族社会とか面倒なイメージしかない。


貧しい生活は嫌だけど、権力を得たいとは思わない。

権力に従いたくもないから、それはわがままなのかもしれないけど……。


「そっか……。ちなみに断ることって出来ないの?準男爵になんてなりたくないんだけど……」

準男爵になりたいかなりたくないか言えば、迷うことなくなりたくない。


「ちょ……エルクくん」

ラクネが慌てて僕の名を呼ぶ


「え、何?」


「何じゃないよ。いいから撤回して」

なぜだかラクネが焦って僕に撤回を求める


「もしかしてラクネは準男爵になりたかった?僕が断りたいだけだからラクネのことにまで口を出すつもりはないよ?」


「これはなりたいとかなりたくないかの話じゃないよ。ダイス君が聞こえてないフリをしてくれているうちに撤回して」

よく分からないけど、ラクネがここまで言うのだから撤回することにする。


「え、えっと……。さっきの発言を撤回します。これでいいのかな?」

僕は変な空気のまま2人を見る。


「俺は何も聞いていない」

ダイスくんは聞いていなかったと言う。明らかに聞いていたはずなのに


「ダイスくんが聞いてなかったみたいだから大丈夫だよ」

ラクネがそう言うけど意味がわからない


「えっと何かマズかったの?」


「俺は何も聞いていないから説明してやってくれ」

ダイスくんはラクネに説明を任せる


「エルクくん、ちゃんと聞いてね。叙勲っていうのは王様があなたの功績を認めますってことなの。それを拒否するってことは王様の目が曇っていると言っているのと一緒なんだよ。それか王様の下にはつけないと言っているかね。だから不敬罪になってもおかしくないことなんだよ。しかも王家であるダイス君の前で言うなんて……。ダイス君がたまたま聞いてなかったから何事もなく済んでいるけど、聞いていたらダイス君は友達だったとしても捕まえないといけないの。そうしないとダイス君はそれを受け入れた事になっちゃうから」

ヤバいことを言ったことはわかった。

そしてこう言うことが増えていくから爵位なんていらないと再認識した。


勝手に恩賞を与えようとして、拒否したら不敬罪で捕まえるって意味がわからない。


「わかったよ。もう言わない」

何が地雷か分からないから何を言わないようにすればいいのかよく分からないけど、とりあえず準男爵は断れないことはわかった。


「間違っても親父の前で言うなよ」


「うん」

地雷を踏んだら全力で逃げることにしよう。


「それで褒美を決めないといけないんだよね?」

僕は爵位の件は諦めて褒美の話をする。


「ああ。なんでもいいぞ。準男爵が嫌なら男爵でもいいぞ。流石にそれより上は厳しいと思うけどな」


「それなら褒美で準男爵の件を無し…………なんてことは考えてないよ。何がいいかなぁ」

最後まで言う前にダイスくんには呆れ顔で見られて、ラクネには信じられないものを見るような目で見られた。

その反応だけで出来ないことがわかってしまった。


「ダイスくんは何をもらうかもう決めてあるの?」


「ああ、決めてある。というよりももう話して動いてもらっている」


「何をもらったか聞いてもいい?」


「母上の罪を無くしてもらう。まあ元々濡れ衣だと俺は思ってるがな」

前に話してくれた軟禁されているお母さんのことだ。


「これで一緒に住めるようになるんだね?」


「ああ、これも2人のおかげだ」


「本当に良かったね」

お母さんが冤罪で軟禁されてるなんて辛すぎるからね……。


「ラクネはどうするの?」


「急に言われても難しいね。今決めないといけないの?」


「今じゃなくても大丈夫だ。だけどなるべく早い方がいい。そうだな……今週中には決めて欲しい」


「それなら帰ってお母さんとお姉ちゃんに何か欲しいものがないか聞いてくる」

ラクネは家族の為に褒美をもらうようだ。


僕はどうしようかな……。


「エルクも帰ってからゆっくり考えればいい。何も欲しいものがなければ金でも貰っておけ。金でなんでも買えるとは言わないが、金で買えるものなら、後から欲しいものが見つかっても買うことが出来るからな」


「うん。そうするよ」


「2人の欲しいものを聞いて、準備が出来次第恩賞を授与することになる。ちゃんと準備しておけよ」


「何を準備すればいいの?」


「作法なんかは後で教えるとして、揃えないといけないのは服だな。俺が贔屓にしている服飾屋に話を通しておくから、週末に採寸してもらいに行ってきてくれ」


「服がいるの?」


「親父に謁見するのに必要な服なんて持ってないだろ?」

ダイスくんの親父はもちろん国王だ。


「……国王に謁見しないといけないの?」


「爵位を得るんだから当然だろ?」


「……服は必要だね。そんなに高い服買えるかな……」

どのくらいかかるか予想もつかない


「代金は払っておくから気にするな。母上の罪が消えれば金に困ることなんてなくなるからな」


「ちゃんと自分で払うからいいよ」


「払えるのか?このくらいは掛かるぞ?」

ダイスくんに大体の代金を聞く。


「…………だ、大丈夫。払えるよ」

石鹸貯金を使えばなんとか足りそうだ。


「そうか。無理せず言ってくれていいからな。ラクネの分は俺が払っていいだろ?女性用だと男物とは比べ物にならないからな」


「で、でも……」

ラクネはもらっていいものか迷っている


「エルクが自分で払うとか言うからだぞ。俺の金と言っても国の金と同じようなものだ。国が呼びつけるのに必要な服なんだから気にするな。どうしても気になるなら褒美の一部とでも思っておけばいい」


「う、うん」

ラクネは迷いながらも払ってもらうことにしたようだ。


「それじゃあ、褒美だけ考えておいてくれよ。決まったら俺に教えてくれ」


「うん」

「わかった」


僕は帰ってベッドに寝っ転がって考える。

褒美何がいいかなぁ

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