第111話 階級

ある日の朝、ダイス君から大事な話があるから放課後に時間が欲しいと真剣な顔で言われた。


なんだろう?と思いながらも特に予定はないので了承する。


放課後、帰らずに待っているとダイス君から場所を変えようと言われる。教室にはまだ残っている人もいるおり、聞かれたくない話のようだ。


ラクネにも関係ある話のようで、3人で応接室に移動した。チームの話だろうか……?

内緒話が出来れば部屋自体はどこでもよかったようで、ダイス君が前もって学院長に部屋を貸して欲しいと頼んだところ、応接室を使っていいと言われたようだ。


「時間をとらせて悪いな」


「大丈夫だよ。それで大事な話って何?」


「前に訓練でダンジョンに潜った時に宝箱を見つけたのは覚えているか?3つあって2人が俺に中身を譲ってくれたやつだ」


「あの騎士セットね」

剣と鎧と兜の3点セットのことだね


「騎士セット……?それのことだと思うが、あれは騎士の装備じゃないぞ」


「そうなの?勝手にそう思ってたよ。それでその装備がどうしたの?」


「あの装備を国に献上したんだ。その結果だけど、2人には話さないといけないことがいくつか出来てしまった。2人にとっては面倒なことと思うかもしれない。悪い話ではないんだが、先に謝らせてくれ」

国に献上する程にいい装備だったのかな?でもあれって学院が用意した訓練用のご褒美だよね?


「あれって訓練の為に学院が用意したやつだよね?なんで献上したの?」


「それは違う。学院が用意したのは校章の描かれたプレートだ。10階層に置いてあっただろう?」


「あれ、でもあれって先生の用意したフェイクじゃなかったの?僕のスキルに反応しなかったし……」


「エルクのスキルが何に反応するのかはよく知らないけど、あの後サウス先生に確認したから間違いない。学院で用意したお宝はあのプレートだ」


「そうだったんだね」


「だからあの装備はダンジョンに眠っていた本当のお宝なんだよ」

そうだったんだ。調べたら価値が高かったから国に献上したってことかな?


「そうだったんだね。もしかして僕達からもらったことを気にしてるの?僕はあれが高い物だったからって別に気にしないよ」


「私も今更返してなんて言うつもりはないよ」

ラクネも特に気にしていないようだ。


「あ、わかった。もしかして国に献上したら褒美が貰えたとかそういう話でしょ?僕達を驚かそうとしてるんだね」

僕は気づいてしまった。ダイス君は僕達にサプライズをしようとしているんだね。


「いや、まあそうなんだが、そんな簡単な話じゃないんだ」


「……え?どういうこと?」

あれ?


「今日の話は全部内密にして欲しいんだが、ここからの話は特に漏らさないで欲しい。勇者についてだ」


「勇者がいるの?」

確か前にローザに魔王の話を聞いた時に、勇者って言葉自体知らない感じだった。


「勇者って何?」

ラクネは勇者を知らないようだ。


「エルクは勇者を知っているのか?」

なんか拙いことを言ってしまったようだ。どうしよう……。でも明らかに知ってる風に答えちゃったよね?

実際のところ、この世界に勇者がいたとして、その人のことは何も知らないんだけど……


「勇者って単語だけ知ってるよ」

事実ではあるけど、詳しくは知らないと答える。


「勇者って言葉自体極秘のはずなんだけどな……。どこで知ったんだ?さすがに漏れていい話ではないから教えてくれ」

前世の記憶とは言えないしどうしよう……


「ごめん。昔に聞いたような気がするけどよく覚えてない」


「そうか……。ちなみに勇者のことをどこまで知っている?これから説明するつもりだったが、先に聞かせて欲しい」


「知ってることなんてほとんどないよ。『魔王を倒す為に選ばれた人』みたいなイメージがあるだけだよ」

勇者のイメージなんてゲームとか漫画のキャラクターくらいしかない。

前世の知識だけど、前世に本当に存在したわけではないから。


「なんでそんなイメージを持ってるんだ?」


「なんでかな?かすかにそんな記憶があるだけだよ」


「そうか。これから話すこともそうだが、勇者って言葉自体が極秘だからその話も他にはしないでくれ」


「うん。わかったよ」


「これは文献に残っていた話と、代々王家で語り継がれてきた話になる。だから確証があるものではないが、心して聞いて欲しい」

ダイス君はそう前置きした後、勇者について語り出した。


内容はかなり衝撃的なものだった。


「悲しい話だね」

僕は感想を述べる


「ああ、なんで突然現れたかはわからないが、勇者のせいでたくさんの命が流れた。許されることではない」

ダイス君は僕の言ったことを違う風に捉えた。


確かに多くの命が失われてしまったことは悲しいことだ。

でも僕が悲しいと思ったのは勇者本人のことである。


ダイス君の話を聞くと勇者は僕と同じく地球人だったのではないかと疑ってしまう。

実際の所はわからないけど、僕がさっき言ったように勇者のイメージは魔王を討伐するというものだ。

自分が勇者として召喚させられたとして、その世界に魔王がいたら敵だと勘違いするかもしれない。

その結果後世にまで極悪人として語り継がれている。


僕もローザから魔族の話を聞くまでは、魔物を従える悪者みたいなイメージを勝手にしていた。魔王はその中のボス的位置付けだ。


本当のところはわからないけど、もし僕の思った通りなら勇者は後悔したのではないだろうか……。

やったことが許されるわけではないけど、勇者も被害者だったと思ってしまう。


「ひどい人がいたんだね……」

話を聞いたラクネの感想はやはり勇者を悪とするものだ。

ダイスくんの話を聞く限りではそうとしか思えないから仕方ない。

本当に極悪人だったかもしれないし。確認する方法はない。


「それでその勇者がどうしたの?」

ダイスくんに聞く。意味もなく極秘の話をしたわけではないだろう。なんとなく予想はついているけど。


「ああ、話は戻るが2人から譲ってもらったあの装備は勇者の装備なんだ。剣に紋章が彫られていただろう?あれは勇者の紋章なんだ。鎧と兜にもわかりにくかったが彫られていた。あの装備には大陸を簡単に破壊するくらいの力が秘められているそうだ。以前から勇者の装備はその危険性から捜索がされていた。今回、その装備を献上したわけだ」

ダイスくんが面倒なことって言った意味がわかった気がする


「正式な場で恩賞を与えることになった。恩賞の授与日は決まり次第知らせるが、褒美として何が欲しいか教えてほしい。正直な話なんでもいい。金でも領地でも地位でも大丈夫だ。限度はあるがな」

やっぱりだ。すごく面倒だ。なんとか辞退できないものか……


「あれはダイスくんにあげたよね?だから僕はいらないよ。ラクネと2人で貰ってきて」


「え!?私もちょっと……。恩賞が要らないとか、褒美が欲しくないとかそういうことじゃないけど、授与式とかはなんとかならないの?」

ラクネも困っているようだ。


「譲ってはもらったが、流石に俺1人の手柄にするのはどうかと思って3人から献上したことにした。エルクが剣、ラクネが鎧、俺が兜だ。宝箱を開けた時のままだな」

ダイスくんの気持ちも分からなくはないけど、欲張ってくれて構わなかった。

後からこんなことがあったとご飯でも奢ってくれるくらいがちょうどいい。


もう決まってしまった事なので、仕方ないから諦めて覚悟を決めるしかないね。


「それから、恩賞の内容は既に決まっている。1階級陞爵することになる。エルクとラクネは平民だから叙爵だな。準男爵になる。俺の場合は表向きには変わらないが、継承権という意味ではかなり有利になった。改めて礼を言う」

覚悟がすでに揺らぎそうだ。

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