第89話 ダイスくん

目を覚ましてから3日目の朝、なんとか歩けるようになった僕は、先生から退院の許可をもらった。


先生から少なくてもあと4日は魔法を使わないように言われる。

出来れば1週間は使わない方がいいそうだ。


今日は休みで明日は学院があるけど、学院からは普通に動けるようになってから来ればいいと言われている。


僕は寮に帰ることにする。


寮に帰る理由は必要な物を取りに行く為だ。

魔法を使わないように言われているけど、アイテムボックスは魔法扱いなのかがわからない。


わからずに使って悪化したら嫌なので、4日は我慢しようと思っている。

前にアイテムボックスが消えたことがあったことから、寮にお金や着替えなどは別で分けて置いているので、それを取りに行く


寮の部屋に戻り、アイテムバッグにお金を入れる。

一応寮でご飯は出るので、絶対必要というわけではないけど、明日から学院に行かずに部屋で過ごすことを考えると昼食は必要だし、甘いものも欲しい。


僕は外に行く前に風呂場に行く。

もう1週間くらい風呂に入ってない。先生が体を拭いてくれていたけど、やっぱり風呂に入りたい。

浄化魔法も使えないから余計にだ。


僕は風呂場に入る

昼間から風呂に入る人は少ないのか、誰もおらず貸切状態だった。


まずは身体を洗おうとしてタオルも石鹸もないことに気づく。いつもはアイテムボックスから出すので、持ってくるのを忘れた。

しょうがないので、服を着直して部屋に戻る。

タオルはあったけど、石鹸はなかった。石鹸はアイテムボックスに全部入ってるようだ。


無いものはしょうがないので、寮の備品で我慢しよう。

あの石鹸、全然泡立たないんだよなぁ。


僕は風呂場に戻って身体を洗う。

これから少しの間は、この泡があるのかどうかわからないような石鹸を使わないといけないのか……はぁ


風呂に浸かりながら僕は迷う。ダイスくんの部屋に行くかどうかを。


忙しくて来れなかっただけかもしれないけど、もしかしたら僕が魔力を暴走させたことでダイスくんにも何かしてしまったのではないかと心配になる。ラクネは何も言ってなかったけど、ラクネにもダイスくんが言ってないのかもしれないし……


僕が勝手にダイスくんはお見舞いに来てくれると思っていただけで、ただ単に来なかっただけかもしれないけど……だったら少し寂しいな。


迷ったけど、風呂上がりに僕はダイスくんの部屋に行くことにした。


コンコン!

僕はドアをノックする


「エルク……か。もう大丈夫なのか?」

ドアが開き、ダイスくんが出てきて聞かれる。

なんだか緊張しているというか、よそよそしい感じがする


「うん…。なんとか歩けるくらいには回復したよ」


「そうか、良かったな。それでどうしたんだ?」


「お姉ちゃんに回復魔法を掛けた後の事を聞きにきたんだけど、時間は大丈夫?」

本当はお見舞いに来てくれなかったことを聞きたかったけど、躊躇して違うことを聞いてしまった。

これも聞きたかったことだけど……


「……ああ。とりあえず中に入れよ」

やっぱりダイスくんの様子がおかしく感じる。動揺しているようにも見える


僕はダイスくんの部屋に入る


「ダイスくんがなんだかいつもと違う気がするんだけど、何かあった?もしかして僕が暴走させた時にダイスくんに何かした?」

僕に気を使って言わないようにしているだけかもしれないので、ハッキリと聞くことにする


「いや、悪かった。なんでもない。色々あって疲れてただけだ。それで何が知りたいんだ?」

ダイスくんはそう言う。気持ちを切り替えたように、いつものダイスくんの表情になるけど、本当に疲れてるだけだったのかな。


「あ、うん。疲れてる時にごめんね。魔力を溜めた所までは覚えてるんだけど、その後の事が何もわからなくて。治療所でラクネにも聞いたんだけど、ラクネも気絶してたみたいでわからなかったから。魔力が暴走したってことは聞いたけど……」


「そうだな。エルクが魔力を暴走させたってこと以外は特に変わった事はなかったな」


「お姉ちゃんは助かったって聞いたけど、本当?息を吹き返したの?」


「俺は倒れている所しか見てないから、本当に息が止まってたのかはわからないが、エルクが暴走した後に息をしているのは見たな」


「その後は?」


「ああ、訓練は中止して王都にすぐに引き返したんだ。ライオネットさんが女の子は教会に連れて行くって言ったから、二手に別れて俺がラクネとエルクを治療所に運んだんだ。その後すぐにラクネは目を覚ましたけど、エルクは寝たままだったな」


「心配かけてごめんね」


「ああ、元に…元気になってよかったな。学院には明日から出れるのか?」


「まだ体が思うようには動かないから、明日になってみないとわからないかな」


「そうか、なにか困ったことがあれば遠慮なく言えよ」


「うん、ありがとう」


「今日はこの後どうするんだ?」


「お姉ちゃんが教会で働いているみたいだから、教会に行こうかなって思ってるよ。助かったって聞きはしたけど、実際に会って確かめたいし。それに聞きたいこともあるから……。今、教会にいるかはわからないけどね。その後は買い物でもしようかと思ってるよ」


「そうか」


「ダイスくんは最近忙しいの?怒ってるとかではないんだけど、ダイスくんがお見舞いに来なかったのが気になってたんだけど……」

モヤモヤしていたので聞いてしまった。


「いや、俺が行った時にはまだ目を覚ましてなかったんだよ。さっきまで城に行ってたから目を覚ましてたのも知らなかった。エルクの方から来なければ、この後、様子を見に行くつもりだったんだぜ」


「そうだったんだね。良かった。ダイスくんが来てくれてないと思ってたからモヤモヤしてたんだよ。ありがとね」

良かった。スッキリした


「いや、なんか変に悩ませたみたいで悪かったな。まだ本調子じゃないんだろ?気をつけて行けよ」


「うん、ありがとう。気をつけるよ」


僕はダイスくんの部屋を出ようとして、一つ大事な事を聞くのを忘れていた事を思い出す


「ダイスくん、前に渡した石鹸って持ってないよね?」


「あれは妹に全部あげたから俺は持ってないぞ。無いのか?」

やっぱりダイスくんは持ってなかったか


「うん、アイテムボックスに入ってるから。今は魔法を使うなって言われてるからアイテムボックスを使うのも良くないかなって」


「あれは魔法なのか?」


「わからない。でも、多分大丈夫で使って悪化したら嫌だなって」


「そうか。まあ、その方が間違いはないか」


「うん」


「ローザなら持ってるだろ?元はエルクのなんだから分けてもらえよ」

ダイスくんの発言に僕は驚く


「僕にそんな勇気はないよ」

ダイスくんは、石鹸を受け取った時のローザを見ていないからそんな事が言えるんだ。

分けてと言えば確かに分けてはくれるだろう。でも僕には言えない。

他の人も同じだ。


ラクネならアイテムボックスの事も知ってるし頼みやすいけど、リーナさんと分けて使ったからもうすぐ無くなるってこないだ言ってたから頼めない。


やっぱり石鹸は諦めるしかないのか……

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