第80話 やり忘れていた事

王都に戻ってきた僕は、冒険者ギルドにやってきていた。


スマスラ遺跡の調査をキャンセルした件を報告するためだ。


「クラリスさん、またご迷惑をお掛けしました」


「エルクくん、お帰りなさい。話は聞いてるわ。ギルマスとも話をしたけど、今回は依頼失敗にしないことになったわ。良かったわね」


「はい、良かったです。ありがとうございます」


「向こうで依頼を受けたのよね?達成したのはギルド証を見ればわかるけど、教えてもらえる?」


「わかりました」

僕はクラリスさんに古代遺跡の事を報告する


「オークがそんなにいたのね。とりあえずエルクくんに怪我がなくて良かったわ。エルクくんが怪我しないように、トラップ対処に専念出来ることを条件に依頼を受けるのを許可したけど、ちゃんと守ってくれたみたいね」


僕の知らないところでそんな条件を出していたらしい。

借りるのに苦労したと言っていたのはこういうことだったみたいだ。


「気を使ってもらってたみたいで、ありがとうございます」


「いいのよ。エルクくんの担当は私なんだから、冒険者が地方でも安全に依頼を受けれるようにするのも担当受付の仕事よ」


「これからもよろしくお願いします」

クラリスさんが担当に付いてくれてよかったな


ギルドでやることも終わったので、僕は寮の部屋に戻る。


しばらく空けていたからかホコリが積もっていたので掃除をすることにする。


掃除をしていたらダイスくんが訪ねてきた


「今日は居たな。フレイ達が帰ってきてからもずっといなかったけど、どこに行っていたんだ?」


「前に受けたスマスラ遺跡の調査のリベンジをしに行ってたんだよ。手違いでまたスレーラ領に行っちゃったけど……」


「……今度馬車に乗る時は一緒に行こうか?」

ダイスくんに心配される


「大丈夫だよ。今回は僕が間違えたわけじゃないから」


「誰かと行っていたのか?」


「そうじゃなくて、乗り合い馬車の案内所の人が案内する馬車を間違えたんだよ」


「そうか、それは災難だったな」


「うん、それで今日は何の用?」


「ああ、忘れる所だったぜ。エルクが好きな物を街で見つけたから渡そうと思ってたんだよ。剣とか石鹸とかもらってばっかりだっただろ?お返しとしては少ないけど、お礼の気持ちとして受け取ってくれ」

ダイスくんから少し大きめの包まれた箱をもらった


「ありがとう。別に気にしなくていいからね。開けていい?」


「ああ」


僕は包みを開けて箱を開ける。

中にはフィギュアが入っていた。獣人の女性のフィギュアである。


「えっと、これは?」


「ああ、街の雑貨屋で買い物している時に見つけたんだよ。エルクの部屋に飾ってあるのに似ているなと思って店主に聞いたら、エルクに似た特徴の子供がよく見にくるって聞いてな。飾ってあるのを見ると獣人の人形を集めてるんだろ?たまたまあったから買っておいたんだ」


前に何回かダイスくんが部屋に来る事はあったので、その時に見られていたのだろう

なんだか恥ずかしい


「あ、うん。ありがとう。これも飾っておくよ」


「おう。フレイの別荘にラクネと行ってたんだろ?進展はあったのか?」

ダイスくんに聞かれる。ダイスくんは勘違いしているようだ


「ダイスくんが思っているような事はないよ」


「いやいや、人形買っちまうくらい好きなんだろ?別に隠さなくてもいいだろ?」

あのフィギュアを見て勘違いしたようだ


「あの人形を買った時には、ラクネの事はよく知らなかったんだよ。前にも言ったけど、村には獣人の人がいなかったからね。珍しくて人形を買ったんだよ。ラクネの人形だったってのは後から気づいたんだよ」

僕は説明する


「そうか……そういうことにしておくよ」

信じてもらえなかったようだ。


「ほんとだよ」


「わかったって。それじゃあ俺は自室に戻るわ。……一応聞いておくけど、エルクはもう宿題は終わってるよな?」


「…………忘れてた」


「…忘れてたって何もやってないのか?」


「うん…」


「…………。俺のを写させてやりたいけど、算術以外はエルクが俺と同じくらい出来てたらおかしいからな。後で算術のノートだけ持ってきてやるから、他はがんばれよ」


「うん、ありがとう」

すっかり宿題の事を忘れていた。ヤバい。

今日を合わせても後2日しかない。


「ダイスくん、ちょっと待って。歴史も写させて。僕の知ってる答えだけ写せばなんとかバレないと思うから」

僕は部屋に戻ろうとするダイスくんを止めてお願いする


「あ、ああ。わかった」


「ありがとう」


ダイスくんのおかげで算術と歴史はなんとかなりそうだ。

後は魔法学と薬学だけだから、これから頑張ってなんとかしよう


僕は掃除はやめて机に向かう。


うーん、さっぱりわからない。


僕には難しすぎる


悩んでいたらダイスくんが戻ってきて、算術と歴史のノートを置いていってくれる。


「ありがとう」


「ああ、なんとかなりそうか?」


「……がんばるよ」

ダイスくんに心配されるけど、なんとかなるとは思えないので、がんばると答えた。


「あんまり無理はするなよ」

そう言ってダイスくんは部屋に戻っていった


とりあえず、ダイスくんのノートを写すことにする

写すだけなので、サクサクと進むけど量が多いので写すだけで1日が終わってしまった。


そして次の日も机に向かう。


向かってはいたのだけど、ノートは真っ白いままだ。


宿題の問題を解こうとしたところでわからないので全然進まない。

どんどんと時間とやる気がなくなっていくだけである。

やる気が起きない僕は、気分転換に途中だった掃除をする事にする。


掃除が終わった後は、料理をしてアイテムボックスの中のストックを増やしたり、創造スキルで魔力を使ったり、干し肉作りに挑戦したりした。

うん、宿題から逃げていただけだ。そして夜になってから後悔することになる。


まあ、元々僕には出来ない内容の宿題だったと自分に言い聞かせて寝ることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る