第51話 ラクネの訓練
ある日、ラクネから相談を受けた。
「エルクくん、特訓に付き合ってくれないかな?」
「特訓?」
「うん、学内対抗戦の特訓。もうすぐ2回目の試合なんだけど勝てるか不安なの。1回目の試合はなんとか勝てたけど、ギリギリだったし……」
ラクネが言っているのは個人戦の話だ。
年齢を理由に僕は参加出来ないと言われたけど、他の生徒は皆参加している。
チーム戦もだけど、個人戦の結果はより成績に反映される為、皆必死である。
「予定が空いてる時なら付き合うのは構わないけど、僕でいいの?」
ラクネの訓練を見守る事は出来るけど、他に何か出来る事はあるのだろうか?
「うん、お願い」
「手伝えることがあるかはわからないけど、いいよ。それでいつ特訓するの?」
「ありがとう。放課後に訓練場でやろうかと思ってるよ。エルクくんの予定が空いてるなら今日からでも……」
「わかったよ。放課後は特に予定入ってないから大丈夫だよ」
「それじゃあ、放課後によろしくね」
ラクネと特訓の約束をした。僕に出来る事は少ないと思うけど、一緒に作戦を考えるくらいは出来るかな……
そして放課後、ラクネと訓練場に来ている
「次の試合はいつなの?」
僕はラクネに予定を聞く
「来週末だよ」
時間がありそうであまりないな。
「それで、特訓に付き合って欲しいってことだけど、僕は何をすればいい?」
「エルクくんってスキルいくつも使えるじゃない?あれってどうやって獲得してるの?私土魔法しか使えないからどうしても単調な攻撃しか出来ないの」
ラクネにスキルの事を聞かれる。
僕がスキルを複数使えるのは創造のスキルで創ったからだ。でもそれは言えないので回答に困る。
「……なんでだろうね。特別な訓練とかはしてないよ」
僕は誤魔化す
一応、授業で習ったのは時間を掛けて経験を積む事でスキルを覚えるらしい。
剣術のスキルなら剣を振り続ける。
槍術なら槍だ。
魔法スキルに関しては才能によるところが大きいので、魔法が使える所をイメージしながら魔力を集めていると稀に獲得するらしい。すぐに獲得する時もあれば何年経っても獲得出来ない事もあるようだ。
才能がないものには非情である。
「そうなんだ……。エルクくんは才能に溢れてたんだね」
なのでこうなる。
「そ、そうみたいだね」
「エルクくんはいつもどうやって訓練してるの?」
……訓練してないな。した方がいいのかな?
毎日、創造スキルに魔力を流し込んではいるけど……それ以外はやってない。最近は創りたいスキルもないから魔力を貯め込んでいるだけだ。
以前までは魔力を貯めることは出来なかった。なので適当なスキルを創ったりしていた。いつの間にか出来るようになっていたのは、創造のスキルの熟練度が上がったからだろうか…
「魔力を使うようにはしているけど、特に訓練って言うほどのことはしてないかな…」
「そうなんだ…」
ラクネは悲しそうな顔をする
もしかして僕、哀れまれた?勉強をしない残念な子みたいに思われたのだろうか?
でも、訓練に魔力を使うと創造にその分使えなくなるし、勿体ない気がするんだよなぁ。
そのせいでたくさんスキルを持っていても、どのスキルの熟練度も低いのはわかってるけど……
「それで、僕は何をしようか?」
僕は問題を見ないフリをして話を戻すことにする
「私がいつも通り訓練するから、何か気になることがあったら教えてくれる?」
「わかった」
ラクネが訓練を始める
土魔法で壁を作ったり、固めて飛ばしたりする。
特に問題はない気がするけど、なにか物足りない気がする
何が足りないのだろう……僕は考えて答えに辿り着く
「ラクネ、何を考えながら魔法を使ってる?」
「早く発動させようとか、強度を高くしようとかかな」
やっぱりだ。ラクネがやっているのは素振りと一緒だ。
それもただ振っているだけに近い。
「相手がいると想定して訓練した方がいいと思うよ。難しいと思うけど、その方が上達すると思う」
「うん、そうだよね。でもどうやったらいいのかな?」
いきなり言われても困るよね……
「誰か身近な人と戦っているのを想像するといいかも。壁を作るにも、何を目的に壁を作るかで変わってくると思うよ。例えば、火魔法で直線的に攻撃されたなら、壁の大きさよりも強度を重視しようとかね」
「そっか……」
「最初は難しいと思うから、僕が標的を作るからそれに当てるといいよ」
僕は土魔法で丸い的を作る
「それに当てればいいの?」
「うん、でも3秒くらいしたら消すからそれまでに当ててね。当てれなかったら相手に攻撃の機会を与えたと思ってね」
「うん」
僕はラクネの前に的を作る。ラクネはすぐに的に土弾を当てて壊す。
もう1つ的を作る。また土弾を当てて壊す。
僕はラクネの後ろに的を作る。3秒は経っているけどラクネが気付くまでは消さない。
やっと気づいた所で的を消す
「敵が目の前から現れるとは限らないよ。個人戦だとしても見えない所から攻撃されるかもしれないし」
「うん」
その後のラクネは周りを常に警戒して、的の数を3つまで増やしても対応してみせた。
始めた時はそこまで考えていなかったけど、空間把握能力が鍛えられているのではないかと思う
しばらくしてラクネの魔力が無くなった。
やはり、魔力が無くなったらそこでそのまま休むようだ。
そこで無いはずの魔力を振り絞って使うと魔力量の伸びがいいと思うんだけど、なんでみんなやらないのかな?
やっぱり気絶するのは良くないからかな。
僕も気絶耐性のスキルを獲得するまでに何回気絶したことか……
僕はラクネに魔力回復ポーションを渡す
「はい、これ飲むと楽になるよ」
「ありがとう……ん、苦い。変な味がする」
魔力回復ポーションはとても苦い。耐えられないほどでは無いけど苦いのだ。そして草を噛んだような味がする
「おいしくはないけど、楽にはなったでしょ?」
「うん、動けるようになった。でも不味い」
ラクネはうげーっと舌を出しながら言った。
僕は口直しに水を渡す。
「ありがとう」
「魔力も無くなったみたいだし今日はこの辺りでやめておく?」
「うん、そうする。付き合ってくれてありがとう」
「試合の日まで僕は放課後空いてるよ。どうする?」
「エルクくんがいいなら、手伝ってくれると助かるな。今日の訓練もいつもより充実してた気がするし」
「それじゃあ、明日も頑張ろうね」
休みの日も含めて、試合の前日までラクネの訓練を手伝った。
そして、試合当日になる
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