第48話 秘密の取引

僕はクラリスさんに言われてローザ達を見送る


「それでなんでしたか?」


「エルクくん、ちょっと奥の部屋に行こうか」


「はい」

クラリスさんに連れられて奥の部屋に行く。

他の人に知られたらまずい話だろうか……


「それで話ってなんですか?」


「エルクくんの方から話があるんじゃないかと思って……」

……?


「特に無いですよ」


「本当に?さっき様子がおかしかったから、ローザちゃん達には内緒で話をしてるのに……」


「……依頼の件ですか?」


「はい」

クラリスさんを誤魔化せてはいなかったようだ


「えっと……凍らせた犯人はどうなるんですか?」


「怪我した教官から説教を受けるくらいじゃないかしら。犯罪を犯したわけではないし……。犯人に心当たりがあるの?いえ、エルクくんが犯人なのね」


バレてしまった……


「……はい」


「はぁ、なんでそんな事したの?」


「人が多すぎて暑かったからです。最初は桶に氷を入れてたんですけど、周りの人が寄ってきて逆に暑くなってしまって。……地面を凍らせました。」


「…………、真実はそんなものなのね。どうするの?」


「謝った方がいいのはわかってますけど、実はその前にも高等部で騒ぎを起こして怒られてまして……。見逃してください!」

僕はクラリスさんにお願いする


「その時は何をやったの?」


「観客席の隅っこで肉を焼きながら試合を見てました。あと焼きそばも。匂いに釣られた人がワラワラと寄ってきて、教官が解散するように言った時にまだ食べてない人が騒ぎ出しました」


「焼きそばって何?」

クラリスさんは騒ぎの方じゃなくて食べ物の方に食いついた。


「麺と肉と野菜を焼いて味付けした食べ物です」

説明が難しい


「おいしいの?」


「はい」


「……焼きそばを食べさせてくれたら黙っててあげるわ。あと焼肉も」


「作らせてもらいます」

それで良いのかと思いながらも、僕は即答する


「他の冒険者の人が依頼を受けるのは拒否できないから、その時は許してね」

それはしょうがない。まあ、僕達みたいな報酬度外視の冒険者はそうはいないだろうから大丈夫だろう。


「わかりました。材料を揃えてきますのでちょっと待ってて下さい」


アイテムボックスに材料は入ってるけど、アイテムボックスのことは秘密なので一度寮に戻ったフリをする。


少し時間を潰してギルドに戻ってくる


「お待たせしました。火を使いますけどどこで作れば良いですか?」


「訓練場を使って良いわ。ギルマスには許可を取っておいたから」

なんて言って許可をとったのだろうか?


疑問に思いながらも僕は訓練場で準備をする。

大きいバッグからコンロと炭と鉄板と網を出すフリをして作り出す


「まずは焼肉です。どうぞ」

僕はクラリスさんに焼けた肉を献上する


「……すごく美味しいわ」


クラリスさんが焼肉に夢中になってる間に焼きそばを作る


「なにこの良い匂いは?こんな匂いを外でさせてたら人が集まってきて当然よ……まだ出来ないの?」

待ちきれないようだ。


「もう少しです」


「なんだこの匂いは?」

ギルマスが入ってきた


「エルクくんが私の為に料理をしてくれています」


「…………。クラリスくん、君は私になんて言って訓練場を借りたか覚えているかね?」


「……なんだったかしら?」


「新人冒険者が悩んでいるから、解決する為に貸して欲しいって言っていたな。思い出したか?」

やっぱり嘘を言って借りていた。


「そうだったわ。新人冒険者のエルクくんが私に焼きそばって食べ物を食べさせたいって悩んでいたから、解決する為に火が使える訓練場を借りたのよね?」

それはヘリクツだと思う


「都合のいいように言い直すんじゃない。それでその焼きそばってのはまだ残ってるのか?」


ん?


「今作ってるところよ」

クラリスさんが肉を食べながら答える

ギルマス相手にそれで良いのだろうか?


「何か食べてないか?」


「これは焼肉よ。焼きそばはあれよ」

クラリスさんは鉄板で僕が作っている焼きそばを指差して答える


「俺の分はないのか?匂いを嗅いでたら腹が減ってきた」


「これは私のよ!」

クラリスさんは焼肉を死守しようとする。


「訓練場で何やってるんだ?ギルド中に匂いが充満してるぞ!」

カッシュさんまでやってきてしまった。


「エルク、なにやってるんだ?」

カッシュさんに聞かれる。元々はローザ達と依頼を受けにきたはずだけど……


「クラリスさんに料理を作ってます」


「なんでエルクがクラリスさんに作ってるんだ?」


「焼きそばって食べ物の事を話したらクラリスさんが食べてみたいって言ったので……」

秘密を黙っててもらう為とは言わない。それを言ったら作ってる意味がなくなる


「そうか。私の分はないのか?」

カッシュさんも食べたいようだ


ちょうど焼きそばが出来たので3人に配る。

クラリスさんは少し不満そうだ。


「これも美味しいわ、ありがとう」

クラリスさんは満足そうだ。これであの事は黙っててくれるだろう

「美味い!」

「美味いな!匂いがたまらん」

2人の口にも合ったようだ


すぐに皿は空になる。

もっと作れと3人の目が言っている


結構時間が経ってしまったし、そろそろローザ達と合流しないといけないんだけどなぁ


「焼肉用の肉と焼きそばの材料をここに置いておくのでお腹が膨れるまで作って食べて下さい。僕はこの後用事があるので失礼します。」

僕は肉と麺と野菜、塩・胡椒、ソースを取り出す。

肉は多めに出したので足りるだろう……いや、男性2人がかなり食べそうなので一言追加しておく。元々はクラリスさんとの取引なのだから。


「元々クラリスさんの為に作ったやつなので、ギルマスとカッシュさんはクラリスさん優先で食べてくださいね」


「流石エルクくんはわかってるわね。片付けはこっちでやっておくから早くローザちゃん達の所へ行ってらっしゃい」

クラリスさんに笑顔で送り出された。

ギルマスとカッシュさんは不満そうな顔をしている……

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