第22話 隊列訓練

僕達のパーティの隊列について話し合いをしているとサウス先生が様子を見にやってきた


「隊列は決まったか?」


「大体決まりました」

同じパーティの男の子が返事をする

同じパーティを組むっていうのに僕はこの子の名前を知らない。それで良いのかとは思うけど、名前を聞くタイミングを逃してしまった。

相手は僕のこと知ってるみたいだし、困った。

獣人のラクネの事は名前しか知らないし、もう1人の女の子は名前も知らない。


もう少しクラスの人と関係を作っておけばよかったと思う。


「エルクの役割はなんだ?」

サウス先生に聞かれる。


男の子が何か言ってたけど、聞いてなかったな。ラクネの事を考えてたから……


「えーと、後衛だったかな……」

僕は適当に答える。基本は前衛か後衛だから運が良ければ当たるかもしれない。


「何言ってるんだ?さっきエルクは俺と一緒に前衛を頼むって言ったじゃないか」


くそ、1/2を外してた。言われてみればそんな事言ってたような気もしないではない。

「……そ、そうだったね。勘違いしてたよ」


「しっかりしてくれよ」


「うん、ごめんね」


「そうなるとセイラとラクネが後衛だな。」

サウス先生のおかげでもう1人の女の子の名前がわかった。

なるほど、セイラだったんだね。前から知ってたように振る舞う事にしよう。


「そうです」

男の子が答える。サウス先生、この子の名前も呼んで下さい。僕は願う。


「悪いがこのパーティだけは口出しさせてくれ。エルクは後衛で回復要員とする事。支援魔法も禁止だ。これは決定事項として再編成を頼む」


何故か僕は前衛では駄目なようだ。まあ、前衛と言われても戦えないから助かったけど…。


創造スキルには創れるスキルと創れないスキルがある。

先天的に覚える可能性のある魔法系は、大体創れるのだが、剣術などの後天的に訓練で体に覚え込ませるようなスキルは創れなかった。

なので、近接戦を求められても、魔法で身体強化して戦うくらいしか出来ないのだ。


「……わかりました。ではセイラに前衛に回ってもらいます」


「それで頼む」

サウス先生はそれだけ言って他のパーティのところへ歩いて行った。


男の子の名前を言ってはくれなかったな。残念だ

「それじゃあ、動きについて練り直そうか」

男の子が話し合いを再開させたので、今度こそちゃんと聞く事にする


話し合いの結果、男の子が剣と盾で相手の注意を引きつつ、セイラが風魔法で攻撃して弱らす。その間にラクネが威力の高い土魔法の準備を進めて、セイラが倒しきれない場合はラクネがトドメをさす。という作戦になった。

相手が複数の場合はセイラも足止めメインで動いて、攻撃はラクネに基本任せる形になる。


悪くない作戦に思える。


僕の役割は怪我人が出た時に回復させる事だ。

シンプルでわかりやすい。

求められるのは、敵の攻撃の対象にならないように位置取る事と、自分の魔力量を管理して、治す怪我と治さない怪我の判断をする事だ。

怪我人がいるのに、魔力が足りないから回復魔法が使えないみたいな事にならないようにとの事。

まぁ、実際はアイテムボックスに魔力回復ポーションが入っているから飲めばいいんだけど……。

アイテムボックスは秘密にしてるので今回は使わない。


今回はダンジョンの1階で訓練する為、スライムとスケルトンしか出てこないらしい。

実際にはすぐに倒す事が出来るけど、わざと倒さずに動きを確認する。

どうしても緊張感に欠けてしまうけど、訓練だししょうがない。訓練で出来ない事は、本番では出来ないのだ。


ミーティングの時間が終わり、順番にサウス先生と一緒にダンジョンに入る。


外で待っていると僕達の番になった。


中に入ると、ダンジョンは広い洞窟って感じだった。

でも何故か明るい。不思議だ。

壁を壊したりする事は不可能らしい。


適当に歩いているとスライムを見つけた


男の子がスライムに近づき牽制する。

スライムが男の子に体当たりする。

男の子は盾でガードする。


……遊んでいるようにしか見えないな。

倒さないようにしてるからしょうがないけど、滑稽に見える。

僕が笑いを堪えていると横から注意を受ける


「エルクくん、訓練中だよ。集中しよ」

気になる女の子との会話がこれだなんて……


「ゴメン。気をつけるよ」

僕は素直に謝る


スライムはセイラが風魔法で倒した


「次はもっと強敵が現れた体でやるように」

サウス先生が結果を見て課題を出す


「「「「はい」」」」


またダンジョンの中をウロウロすると今度はスケルトンを見つけた


先程と同じく男の子がスケルトンに近づき牽制して注意を引く。

今度は盾でのガードに集中している。

セイラの風魔法も攻撃よりもスケルトンが男の子を攻撃するのを邪魔する形で使っている。


なるほど、さっきよりも守りに重点を置いての戦闘になっている。

確かに強敵との戦闘を想定するなら攻めよりも守りだと思う。耐えて、耐えて、耐えて僅かに出来た隙に少し攻撃するの繰り返しか。


ラクネが土魔法を唱えてスケルトンを攻撃する。

発動するのに時間を掛けて魔力を注ぎ込んでいる為、なかなかの威力である。

土の槍がスケルトンに突き刺さり、スケルトンが倒れる。


想定だからしょうがないけど、ラクネの攻撃1撃で倒してしまって良かったのかな?

本来ラクネは、男の子とセイラが耐えている間に魔法を撃てる準備だけしておいて、隙が出来るのを待った後攻撃をするのが正解だったのでは?

まあ、実際はスケルトンだからずっと隙だらけだったけど……


後、僕何もやってない。一応怪我してないか聞いた方が良いのかなぁ

よし、3人共怪我してる体で回復させとこう。


「エリアヒール!」


僕は回復魔法を唱える。普通の回復魔法の効果範囲を僕を中心に3人も入るように広げる。


辺りが白い光に包まれる。

実際には怪我してないから何も変化は無い


「俺の右腕の古傷が消えてる…」


変化はあったようだ。ん?ラクネが男の子の声を聞いてえらく動揺してるな。なんでだ?


「よし、総評をするからしっかり聞いて、どうすれば良かったか話し合って答えが出たら私に報告してから帰っていいぞ」

サウス先生が今回の訓練の問題点を言い始めたので、ラクネの事は一旦保留にする。


「いくつかあるが、特に気になった所を言うからな。まず一つ目、パーティのリーダーは誰だ?指揮を誰がとるのか先に決めていたか?」

リーダーは男の子……だと勝手に思ってたけど、確かに決めてなかった。戦闘中も各々勝手に動いていた。


「2つ目の前に聞きたいことがある?今回の相手は格上を想定すると説明したのは覚えているか?」


「「はい」」


「1回目の戦闘でわかっていなかったみたいだから、2回目の戦闘ではさらに強敵を想定するように言ったんだが、あれは駄目だな。点数を付けるなら0点だ。他のパーティも間違えてたからな。気を落とすなよ」


厳しい採点だ。でも僕はサウス先生の言いたいことがやっとわかった。

確かに今回の僕達の動きに点数をつけるなら0点だ。


「あと、エルク」


「はい」

サウス先生は僕にだけ何かあるようだ


「訓練だから実際には怪我をしない。ちゃんと考えて動くように。何もしてないぞ」


何もしてないのは僕自身が一番わかってますよ

僕がやった事は笑いを堪えてるのをラクネに注意された事と、名前も聞けてない男の子の古傷を消しただけだよ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る