王都ギルド
第1話
国王交代の儀には必ず出てくれと3人から言われていることもありレスリーとアイリーンは王都郊外にある森の中に戻るとしばらくはそこでのんびりと過ごすことにする。
家の中は師の大木の師のおかげで清潔に保たれていてまるで昨日出かけた様のようだった。
果樹でも育てようかとも話をしたが家を空けることが多いので世話ができなくなって腐らせると申し訳ないと止めにし、午前は家の近くで鍛錬をし、午後は師と仰ぐ大木と話をしたり2人で森の中を散策するのが日課になっている。
森の自宅に戻って1ヶ月が経った頃、いつもの様に師を話をしていると、
『今年は太陽が出る日が多く、そして雨も適度に降っている。国中の多くの土地で豊作の年になりそうだ』
「それは良い情報です。ありがとうございます」
「よかったね」
大木の話を聞いた2人はマイヤーに師から聞いた話を手紙にして出す。国王交代の引き継ぎで日々忙しくしている彼らの時間を割くのは申し訳ないと思っていたからだ。
手紙を出して数日後2人の家の前に王城守備隊の騎士が数名馬に乗ってやってきた。
何事かとアイリーンとレスリーが外にでると馬から降りてきた騎士が首を下げて丁重な口調で。
「リムリック王子より王城に来て頂きたいとの伝言を預かって参りました」
「リックが?城に来いって?」
「何かしら?」
理由がわからないがリックが城に来てくれと言っているので行かない訳にはいかないだろうと騎士にはすぐに用意をしてから行くので先に城に戻っておいてくれというとわかりましたと馬に乗ると王都に戻っていく。
2人は冒険者のズボンは履いていたがその上にローブを着ると家を出て王都に出向き、そのまま市内を通って王城に向かう。既に話しが通っていたというかレスリーとアイリーンはすっかり有名になているので全ての検問所を顔パスで城に入るとそこで待っていた騎士について王城の中を歩いていつもの謁見の間に向かう。
そうして扉の前に立っていた騎士が扉を開けてくれて中に入るとそこにはいつもの3人が既に座っていた。
「騎士が呼び出しに来たんだけど一体どうしたの?」
挨拶もそこそこにアイリーンがリックの顔を見て言うと難しそうな顔をしているリックがおもむろに口を開いて、
「レスリーとアイリーンはいつでも城に来てもいいって言ってるだろう?マイヤーに手紙を出すくらいなら城に来て報告して欲しいんだよ。マリアもアイリーンに会いたがってるんだしさ」
「あれ?私たちが手紙で済ませちゃったから怒ってるの?」
「そうだよ」
リックのその言葉に全員が笑う。もちろんリック自身も声を出して笑っている。
扉の前に立っている騎士も笑いを堪える顔をしていた。時期国王陛下のリムリック王子がこんなにフランクに話をするのは目の前にいる4人との時だけだ。
貴族達や官僚の前では威厳を持って対応している王子が本当に気を許せる友人といてリラックスしているのが伝わってきている。
「国王交代の儀の準備で忙しいと思ったからさ。こっちも気を使ったんだよ」
「レスリー、それは違うぞ」
とリック
「忙しいのは周りだけで当人はやることがないんだよ」
そう言うと横からマリアも
「本当よ。リックなんて毎日暇だ暇だって言ってるもの」
「マリアが言うくらいだから本当に暇なのね」
アイリーンがその言葉を聞いて笑いながら言う。
「レスリーから手紙を受け取ってすぐにリックに見せたらさ、手紙なんかで済まそうなんて甘いぞって言ってな。リックの暇潰しにちょうどよかったらしいぞ」
マイヤーのその言葉でまた場が笑いに包まれる。そうしてひとしきり笑ってから
「それで手紙の内容だが、これはすごい情報だぞ」
リックが真面目な顔をしてレスリーを見る。その言葉に頷いて、
「残念ながら俺にはまだそこまで先は見えない。師には見えておられる様だ。国中の多くの場所と言っておられるがそれが具体的にどこかまではわからないが総じて今年は豊作な土地が多いということを仰っている」
「この国は以前は農作物の生産量と需要量とがほぼ一緒だった。つまり不作になるとすぐに食料不足に陥っていた」
マイヤーが説明を始める。不作になると農作物の価格があがりそれが国民の生活を圧迫していたらしい。
「辺境領でのレスリーの指示による新しい農地の開拓は進んでいるしその場所以外でも辺境領を中心に農作物の生産量は増えてきている。とはいえその効果が出るのは来年以降の話なんだ。今年が豊作であるという情報は非常に助かるんだ。我々の間では今年さえ乗り切れば来年以降は農作物の生産量の方が需要を上回って国として食料を備蓄できるという話になっていたからな」
「つまりレスリーのこの報告を聞いて我々は今年の食糧問題を気にせずに他の事案の検討に注力できる様になるということだよ」
マイヤーの後にリックがフォローする。暇だと言っているが本当はリックもマイヤーも検討しなければならない懸案事項は山ほどあるんだろう。その1つがなくなるだけでずっと仕事が楽になるはずだとレスリーは納得する。
「お役に立ててよかったよ」
レスリーが言うとアイリーンも
「来年からは確かに辺境領を中心に新しい農地からたくさんの農産物が出るから国としても楽になるわね」
その通りなんだよとリックとマイヤー。マリアも
「今言ったその上にドーソンでの牛乳もあるでしょ?それにアイマスの魚も数年前の水準にもどるだろうし。今年だけが心配だったのよ。今までドーソンの農産物に頼り切っていたからね」
確かにドーソンの周辺の大農地からは相当量の農作物が産出されるが産地が偏りすぎていて万が一の際に他に頼れる産地がなかった。それがレスリーが提言した辺境領での開発が進み生産地が分散されることにより安定的に農産物を収穫できる様になる。
「師が仰ってるから間違いないだろう。となると来年からは産地も増える、量も増える。新国王の船出としたら悪くないじゃない」
「正直ホッとしてるよ。即位してその年が不作とかだったらいろんなことを言う貴族もいただろうしな」
リックもこの仲間内では本音を隠さずに話す。今回の国王交代でも時期尚早だと異を唱えている貴族がいるということだ。
リックの言葉をフォローする様にマイヤーが
「三大貴族は皆賛成してくれている。こちらからも国王が変わっても治める領地の見直しはしないとリックの名前で三大貴族だけには通知を出しているということもあるが」
なるほどとレスリーは感心していた。自分は政治的な駆け引きの能力はないが言われてみればその通りで今の国王陛下に取り入っている貴族にしてみれば国王交代は認められない事案だろうし何かあればリックの足をひっぱろうとする貴族もいるかもしれない。
三大貴族をがっちりと抑えておけばその辺りの不満は表面化しないだろうし、その間に新国王として実績を作ってしまえばもう何も言われない。マリアがウエストウッド家の出身だというのも大きい。
その後は5人で雑談をしてからレスリーとアイリーンがあまり長くいてもとソファから立ち上がると3人も同じ様に立ち上がり、
「いいか?今度から手紙なんてのは使わないでくれよ。こっちの3人はいつでも待ってるんだからさ、ここに来てくれて構わないんだから」
「わかった」
そう言って3人に見送られてレスリーとアイリーンは王城を後にした。
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