第3話

「1年ちょっとぶりかな?長かったな」


 王城守備隊の兵士に案内された部屋で待っているとリックとマイヤー、マリアの3人が入ってきた。ソファに座るなりマイヤーが2人に話かけてくる。


 王城にある王子との謁見の間だ。王都に戻った2人は師と仰ぐ大木に報告をしその日はゆっくりと休んで翌日に王都に顔を出しそのまま王城に出向いていた。2人とも冒険者の格好で杖や剣を持ったままだ。


「アイマスから辺境領をぐるっと回ってホロからラウダー経由で帰ってきたの。あちこちウロウロしてたからね」


 久しぶりに会う3人は相変わらずだったがリックは王子の品格が出てきている。何気ない仕草が頂点に立つ者しかもてない”格”があった。


「2人が不在の間もアイマスやアルフォードのギルドや貴族らから報告は来ているが直接報告を聞こうか」


 リックの言葉にわかったわとアイリーンが話を始める。レスリーは基本アイリーンに報告を任せ質問や補足が必要な時に答えていた。


 リック、マイヤー、そしてマリアはアイリーンの報告を聞き時々質問や確認をしてくる。


「アイマスの海の神と言われているポセイドンと話をしたのか?」


 びっくりしてリックが聞くと


「話をしたのはレスリーだけど、私にもその声は聞こえてた。レスリーが海の神のお怒りを鎮めたのよ」


「俺が鎮めたというか、泣いていた海の代弁者としてマリアの父親のフィル公爵に話をしただけだけどね。そこで公爵が俺達の話を理解してくれてすぐに禁漁にしてくれたからポセイドンがお礼を言ってくれたんだよ。褒められるべきはフィル公爵だ」


 レスリーが言うと隣からアイリーンもそう言われればそうね。フィル公爵が即断して頂いたからよねと。


「それにしてもまたスキルが上がったんじゃないの?」


 マリアがレスリーに顔を向けて言った。その言葉に頷くと、


「そうかもしれない。いつからそうなったのかは分からないが土を触った時や川の水に手を入れた時に感じるものが以前よりクリアになってるんだ」


「またスキルが上がったのか」


 マイヤーが感心した声を出しリックもどこまで上がるんだよと言う。

 そしてアイマスの南の草原を放牧場にして馬を飼う提案をした話をするとマリアからそれについては父親からも連絡が来ていてもう放牧しているそうよと答えてよかったという2人。


 辺境領についてはダンジョンをクリアしたことを話する。


「あのダンジョン、2人だけで最後までクリアしてきたのか」


 マイヤーの言葉に俺も行きたかったとリックは悔しそうに言う。そうしてその時の宝箱や隠し部屋の話をしてから


「リックとマイヤーにお土産よ」


 そう言ってレスリーがアイテムボックスの腕輪に触れると中から腕輪と盾が出てきた。3人は出てきたものよりもレスリーの腕輪を見て


「なんだよ?それ」


 とリック。マイヤーが


「存在していたのか、それアイテムボックスだろう?」


 レスリーとアイリーンが頷くと本当かと身を乗り出すリックとマリア。レスリーが腕輪を外してテーブルに置くとリックが手に取って


「これがアイテムボックス、噂だけのアイテムだと思っていた」


 そうして腕輪をマリアが見て、そしてマイヤーの手に渡るとそれに視線を送りながら


「文献には昔から載っていた。ただ現物を見たものは誰もいないと言われている。幻のアイテムだとか書物の中だけに存在している架空のアイテムだとか言われていたが、そうか、実在したのだな」


「雑貨屋のオズも言っていた。本当に存在してたんだねって。容量はほぼ無限、中は時間が止まっていて氷も溶けない、食料も腐らないらしい。おかげでいく先々でもらった野菜や果物が腐らないので助かったよ」


 そうしてそれがダンジョンの隠し部屋にあって隠し部屋にあるアイテムの位置付けについてオズから聞いた話を3人にする。


「確かにその通りだな。ボスは倒しても時間が経つと復活する。そして復活したボスを倒すと宝箱がまた出る。それに引き替え隠し部屋にある宝箱は1回だけの出現だ。ボスを倒した時にでるアイテムより価値があるアイテムが有っておかしくない」


 理論的に話しをするマイヤーの言葉に頷く他の4人。そうしてアイリーンが腕輪と盾をもって


「これは精霊魔法スキルが上がる腕輪、マイヤーどうぞ。こっちはすごい盾よ。受けたダメージの20%を体力に還元する優れものらしい、リックどうぞ」


 と腕輪と盾を2人に渡してマリアのは今回はなかったのよ、ごめんなさいねとアイリーンが言うと次に期待してるからねとマリア。


「20%を還元するってアイリーンの片手剣よりもすごいのか」


「こっちは精霊魔法スキルがあがる。精霊士にとったら夢の様なアイテムじゃないか」


 リックとマイヤーは手に取った装備を見て感心して言う。


「私たちは使わないしさ。2人で持っておいてよ。ひょっとしたらまた一緒に活動するかもしれないでしょ?」


「そうだな。じゃあ遠慮なくもらっておくよ、ありがとう」


 リックとマイヤーがお礼を言う。その後は再び報告になり辺境領のあちこちの村や最東端のアイリーン村、そしてレスリー街道について話をする2人。


 アイリーン村やレスリー街道という名前を聞いて最初は笑っていた3人だが


「そこに住んでいる住民やその街道を使う人々がそう言い出したってことが重要でさ、それだけのことを2人はやったんだよ」


「でも本当は5人でやったことでしょ?私達だけってのがさ」


 リックの言葉にアイリーンが言うが、横からマイヤーが


「俺達のことは気にしなくてもいい。アイリーンとレスリーがそう思ってくれている。5人でやったと思ってくれている。それだけで十分さ」


「その通り。それに流石に王子の名前を村の名前につけるわけにはいかないだろ?」


 それもそうかと納得するアイリーン。そうして一連の報告を終えると


「街道も生き返った。廃村だった村も領主の働きかけで復活してきている。辺境領はこれからますます発展していくな」


 リックが言うとマイヤーも人々の暮らしが良くなると農産物の生産量も増えるし国に取ってもいいことだと言い、それに頷く4人。


 そうしてレスリーが復活させた橋がある川の周囲が農業に適している場所となりそこをどう開発するかという話しになった。マイヤーが一旦席を外してすぐに地図を持って戻ってきてテーブルに地図を広げて


「このエリアだよな?」


「そうだ、この川のこの流域だ」


 マイヤーが指さした場所の近くに自分の指を置くレスリー。見ていたマイヤーは


「川の南側はナッシュ家の傘下にある貴族の土地で、こちら側はホロ、つまり王都の管轄地になるな」


「川の北と南で管轄が違うのか」


 レスリーが言うとリックがしばらく地図を見ていて


「別々に開発したら無駄がでるだろう。王家から指示をだそう。この流域の開発は王家として進める。開発が済んだあとの管理については南北ともに貴族に任そう。ナッシュ公爵に話をする」


 とその場で決断をする。マイヤーもそれがいいだろう。ホロで管理するよりもナッシュ公爵の傘下の貴族に一括で管理させた方が管理しやすいだろうと同意する。


 判断の早さ、決断力にさすがだなと言葉にはしないがレスリーとアイリーンも思って顔を見合わせていた。


「しばらくは自宅の森の家にいる予定かい?」


 報告が終わってリックが聞いてきた。その言葉に頷いてから、


「そろそろだろう?交代」


「そうなんだよ。おそらくだが数ヶ月以内に正式に発表される。それから半年後を目処に国王交代の儀が行われることになるだろう」


 マイヤーが言うと


「いよいよね。マリアも国王妃になるのね」


「私は何も変わらないわよ。彼は大変だろうけどね」


 アイリーンの言葉にマリアが答える。当のリックは


「まぁ規定路線だったからな。それに備えて準備や引き継ぎはしているし特に今更慌てることもないよ」


「いずれにしてももうすぐ国王交代の儀があるでしょうからそれが終わるまでは遠出は控えるつもりだよ」


「悪いけどそうしてくれ」


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