第2話

 レスリーとアイリーンが村に入るとここも賑やかだった。村に入ってすぐの広場には馬車が並んでいて村の中には商人や冒険者達がいる。


 以前は一軒、それも部屋数の少なかった宿のその隣には並んで新しい建物ができていた。増設をした様で以前よりもずっと部屋数が増えている。


 レスリーとアイリーンが以前止まった宿に入るとそこにいた女将さんは2人を覚えていたのかちょっと待っとくれというと宿から飛び出してすぐに村長を連れて宿に戻ってきた。


「これはレスリーさんとアイリーンさん、お久しぶりでございます」


 挨拶する村長に挨拶を返して


「立派な村になりましたね。人も多く賑やかになってよかったですね」


 レスリーが言うとその通りでと言い、


「あの時のお2人をはじめ5人の冒険者の方々が村を広げ、そしてホロまでの街道を修復してくださったおかげで村は生き返りました。街道ができてからは商人や冒険者の方も多く訪れてくれますし、畑でできた野菜や果物を販売することもできる様になりました。これもそれも皆さんのおかげです」


 そう言って続けて


「それで街道はレスリー街道という名前で呼ばれる様になっとりましたので村の名前を勝手ながらアイリーン村にさせていただきました」


 村長の言葉を聞いていたアイリーンもニコニコしながら


「名前が村の名前になってるって聞いた時はびっくりしたけど、こうして来てみると村の人が元気になってるし、私の名前くらいいくらでも使ってください」


「ありがとうございます」


 そうして新しく増築した部屋の1つを借りて部屋に入った2人。


「村長はじめ村の人の表情も明るくなってたわ」


「余裕のある暮らしができているからだろうね」



 翌朝は村の中を見てみる2人。畑には作物が育っていて朝から農民達がその世話をしている。そうして村の南側にいくとそこは果樹園でそこにも果実の実が沢山なっていた。


 2人はその後村を出て周辺の様子を見てみる。魔素が薄いので魔獣の気配もなくこれなら安心だろうと昼過ぎに宿に戻ってくると村の中で見かけた村長に声を掛ける。


「村の周辺を見てきましたけど魔素は少ないので魔獣に襲われる心配はないでしょう。それに柵もしっかりしていますし何も問題はないですね」


 その言葉を聞いて頭を下げる村長。


「皆さんが村を広げて頑丈な柵を作って村を囲ってくれましたからの。普段の農作業も柵の内側ですので安心ですし。周辺にも魔獣が来ないということであればなお安心できます。本当に何から何までありがとうございます」


 村の中で2人が村長と話をしているのを見ていた冒険者の1人が


「あれ、レスリーとアイリーンじゃないか?」


 その声に同じパーティの別のメンバーが顔をそちらに向けると、


「そうだ。レスリーとアイリーンだ。間違いないぞ」


 彼らはアルフォード所属のランクBの冒険者達で。レスリーとアイリーンとは直接話をしたことはないものの、ギルドで何度も顔を見ていた。


「オーラが出てるよな」


「2人とも半端ない強さだってアランやピートが言ってるけど確かにそう言う雰囲気があるぜ」


 少し離れた場所から2人を見ながら話する冒険者達。そこにホロ所属でやはり護衛クエストでアイリーン村に来ていた冒険者達がその話を聞いていて近づいてくると、


「あれがレスリーとアイリーンか」


「そうだ。ホロでも有名かい?」


「実際に見るのは初めてなんだがあの2人は有名なんてもんじゃない。レスリー街道はもちろんだがあの2人、ドーソンやホロの冒険者達が絶対に入っちゃいけないって言われているドーソンとホロの間に広がってる深い森を3ヶ月かけて踏破してきたんだよ。ホロのギルマスが言ってたよ。あの2人は普通じゃない。間違っても俺も行こうと思って北の森に入ろうとするなよ。あいつら以外の人間が入ったら森の中で3日と生きてられないからなって」


 その言葉にそれは理解できるぜと言ってから、


「2人ともランクAだが実力的にはもっとずっと上だってのがアルフォードのランクAの他の冒険者の評価だ。ギルドの鍛錬場で2人の鍛錬を見たことがあるがレスリーの風水術に度肝を抜かれたし、アイリーンの剣捌きはほとんどの奴が見えない。もちろん俺達もだ」


 5、6名の冒険者が集まってそんな話をしていると村長との話を終えた2人が近づいてきた


「こんにちは。護衛クエスト?」


 気さくな調子でアイリーンが話かける


「そうなんですよ。俺達はこれからアルフォード、こっちはこれからホロに行く途中でね」


「私達はアルフォードから来てここからホロに抜けていくつもりなの。レスリー街道はどうだった?」


 とホロからやってきた冒険者の方を見て聞く。


「街道は安全ですよ。途中の村にも宿があるし」


 そう言ってからあの橋を修復したのはレスリーらなんでしょ?と聞いてきた。


「そうだよ。橋に異常はなかったかな?」


「全然。しっかりした橋だし橋の上で馬車がすれ違う広さも十分にあるし。この街道を利用する商人や俺たち冒険者は助かってますよ」


「そりゃよかった」


 心底嬉しそうな表情をするレスリー。その隣でアイリーンもよかったねと言っている。この2人がアルフォードいや今や王国内にいる冒険者達の中で知らない者はいないと言われている凄腕のAランクの冒険者とは思えない。物腰は柔らかくて穏やかな口調で話をする2人。強者のオーラは見るものが見ればわかるが話しをしていると他の冒険者達の何ら変わらない感じだ。


 威張りちらすこともなく、自分たちから他の冒険者に話かけてくる気さくな2人だ。いつも自然体だからこ2人を知っている冒険者達の中でこの2人を悪く言う冒険者はいない。


「ホロからはどうするんです?」


「ラウダー経由で一旦王都に戻るつもりなの。少し休んだらまた国中を歩き回るつもりだけどね」


 そう言って道中気をつけてねとアイリーンが声をかけて宿に戻っていく2人の背中を見ている冒険者達。


「あの2人。最近アルフォードで難易度が最も高いと言われていた未クリアのダンジョンを2人だけでクリアしてきている」


「本当かよ?」


 ホロ出身の冒険者が言うとその男に顔を向けて頷き、


「最後はランクSが複数体固まっているフロアが何層かあったらしいが2人だけでそのフロアを全て攻略してそのままボスを倒してるんだよ。アルフォードでNo.1のパーティのリーダーをやってるアランが言ってたよ。あいつら2人は外見は普通だが2人とも化け物みたいに強いってな」


 レスリーとアイリーンは村で2泊して周辺を探索してから北のホロに向かってレスリー街道を歩きだした。村を出る時には村長はじめ村人達から野菜や果物をたっぷりと貰い


 村を出る時に、


「お二人のおかげでこの村は生き返りました。受け取ってください」


 と村長はじめ村人達から野菜や果物をたっぷりと貰い、それをアイテムボックスに中に入れた2人は村人の見送りを受けて村を出た。


 レスリー街道は行き交う人が多く街道沿いの廃村だった村も新しい柵や家屋が立っている。畑を作っている村もある。


 そんな街道とその左右の森の中を見ながら歩いていくとレスリーが修復した橋にかかる川が見えてきた。


 橋の近くで立ち止まって周囲を見るレスリー。


「川の流も穏やかだし川岸もかなり自然に戻ってきてる」


「本当ね。それにしても想像以上に人の行き来が多くてびっくりよ」


 アイリーンの言う通り2人が街道の端に立ち止まって周囲を見ている間にも商人の馬車が結構な頻度ですれ違っていっている。


 レスリーが川岸に近づいて川の水に手を入れてしばらくしてから手を抜くと、


「養分をたっぷりと含んでいる水が流れている。この辺りも農業に適した場所だよ」


「ここだと辺境領じゃなくてホロの管轄になるのかしら?」


「どうかな。戻ったらリックに話ししてみよう。どこの管轄であれこの場所は農業に適しているのは間違いないからね」



 そうしてレスリー街道を北に歩いた2人はホロの街からラウダー経由で王都の自宅に戻ってきた。森の自宅を出てから1年以上が経っていた。

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