第5話

ギルドを出た2人は一旦家に戻って体を洗って仮眠をして旅の疲れを取る。そうして昼頃に起きた2人はローブとズボンという冒険者の格好でオズの雑貨屋に顔を出した。


 店に入ってテーブルに座るとオズがお茶を出し、


「ダンジョンをクリアしたらしいね。あんた達2人ならやるだろうとは思ってたけどね」


「情報が早いな」


「外で冒険者達があの2人は半端ないって言いながら歩いていたからね。すぐにあんた達のことだってわかったよ」


 オズの目の前に座っている2人は本当に普段通りだ。ダンジョンをクリアした者が見せる優越感や周囲を下にみる様な態度が全くない。いつもと同じテンションで椅子に座っている。本当に大したものだよと思いながら


「それでいいのは出たのかい?」


「いくつか。それで鑑定してもらおうと思って持ってきたの」


 アイリーンがテーブルの上に宝箱や隠し部屋、そしてボスを倒して出た宝箱の中身を置いていく。


「結構出たんだね」


 そう言って1つずつ手に取って鑑定していくオズ。鑑定中は2人はすることがないので邪魔にならない様に黙ってオズの仕草を見ていた。


 オズはいつも以上に鑑定に時間をかけている。特に指輪は何度も手に持ってはじっとみてそれから弓に視線を送ってなるほどねとか呟いていて、


 そうして暫くしてからようやく顔を上げて2人を見る。


「難易度の高いダンジョンだけあって見たことがないのが出たんでね。何度も確認してたんだよ」


 そう言ってからまずはバンダナを手に取ったオズ。


「これは素早さを上げるバンダナだよ。アイリーンが今使っている腕輪と同じ効果だね。そしてこのバンダナと腕輪はお互いに干渉し合わない。つまり2つ装備すると両方の効果がアップされるよ」


「じゃあ今のこの腕輪の効果にさらにバンダナの効果がプラスされるってこと?」


 アイリーンの言葉に頷くオズ。


「今でもローブと腕輪でかなり素早いがその素早さがさらに増すね」


「ねぇ、これ頭じゃなくて首にスカーフみたいにしても効果は変わらない?」


「変わらないね。身につける場所には関係がないよ」


「じゃあスカーフにする」


 そう言ったアイリーンに


「アイリーン、髪を後ろで止めてるヘアバンドの代わりにしてもいいんじゃないか?」


「あっ、そっちの方がいいか。じゃあヘアバンドにして使おう」


 そう言ってその場で今まで使っていたヘアバンドを外してバンダナで髪の毛を後ろで一つに括り付けた。


「うん、効果が出てるのが見えるよ」


「ありがとう」


「そしてこの盾だ。これは盾で受けたダメージの20%を自分の体力に還元する盾だよ。もちろん盾としての防御力も高い。おそらくこの世界に2つとない盾だね」


 アイリーンの片手剣を上回る20%の還元と聞いて2人がびっくりする。


「これはリックのお土産にしましょうよ」


「そうだな」


 オズは2人のやりとりを黙って聞いていた。この前持ってきた精霊スキルが上がる腕輪にしてもこの盾にしても一緒に活動をしていた仲間、今は冒険を止めている仲間にあげようと考える者は少ない。大抵の冒険者は自分たちが使わないのなら高く売って金策にしようと考えるのが普通だ。でも目の前のこの2人は金策ということは全く考えていない。一緒に活動した仲間のことを考えている。流石だねとオズは感心していた。


「そしてこの腕輪だ。この腕輪と指輪は19層の隠し部屋の宝箱にあったって言ってたよね?」


 オズの言葉に頷く2人。オズはアイリーンが腰にさしている片手剣を見て


「その片手剣もそうだったけど、隠し部屋は普通ならまず見つからない場所にあるんだろう。そして宝箱を開けるチャンスは1回しかない。そういうことから隠し部屋からはボスを倒した時以上のアイテムが出ることがあるってことがこれで証明されたよ」


 と前置きをしてから腕輪を手に持って


「これはアイテムボックスだよ」


「!!」


 その言葉に絶句する2人。アイテムボックは名前こそ知られているが実在するかどうかが常に議論になっている。現物を見た者は誰もいないと言われている幻のアイテムだ。


「存在したの?」


「まさにこれだよ」


 そうして差し出してきた腕輪を手に持つアイリーン。


「アイテムボックスって腕輪だったんだ」


「そうなるね。容量はほぼ無限、そして中は時間が止まっているから氷も溶けない、食べ物も腐らない。私も初めて見たよ」


 アイリーンは暫くその腕輪を見てからレスリーに


「レスリーが付けておいて。私はほらっ、もう両手首が他の腕輪で塞がってるのよ」


「いいのかい?」


「全然平気。その代わりにたっぷりと荷物を放り込んでもらうから」


 アイリーンがそう言うので左手首にアイテムボックの腕輪を装備するレスリー。


「そして最後にこの指輪と弓だけど、これとこれが別々に出たというのがね、いかにもって感じだよ」


 と思わせぶりな口調になるオズ。どう言うこと?とアイリーンが聞くと、


「まずこの弓は普通の弓より数倍の威力がある。私が知ってる限りで一番優れている弓はエルフが使う弓だけど、それよりも飛距離で2倍、威力は3倍は優れてるね」


 エルフは弓の名手だ。そして弓作りの名人でもある。そのエルフが作る弓よりも数倍もの飛距離と威力のある弓となると相当だ。


「この弓だけでももちろん凄いんだよ。でもこの隠し部屋の宝箱から出た指輪とセットで使うとさらに凄くなる」


 2人はオズが言ってる意味を理解しようと黙っていると


「当たり前の話だけど弓を撃つには矢が必要だろう?」


 頷く2人。


「この指輪は矢を作り出す指輪だよ。そしてその矢は持っている弓の性能に合わせて変化する。良い弓を持つとそれに合わせる様に優れた矢が現れるってことさ」


「矢を作り出す指輪?」


「そう。アイリーン、この指輪を弓の弦を弾く手の中指か人差し指にはめてごらん」


 右利きのアイリーンが言われた通りに指輪を中指にはめる。それを見てから


「そしたらこの弓を持って矢を打つ様に弦を引っ張ってみな」


 言われるままにアイリーンが弦の弓を後ろに引くと、


「ええっ?!」


 弦を後ろに弾いていると矢が弓にセットされている。


「これがその指輪の効果だよ。無限に矢が出てくる」


「すごい」


 レスリーも目の前で見ていてびっくりだ。


「この指輪があってそしてボスを倒した宝箱からこの弓が出てきている。つまりこの指輪と弓が最も相性が良い組み合わせだということだよ。ボスを倒して弓だけが出てきたとしても弓使いなら2つとない弓なので大喜びするだろう。でも本当はこの隠し部屋にこの弓を最大に活かす装備が隠れていたんだよ。この指輪の効果が最大になる。つまり最も威力のある矢が出てくるのがこの弓だよ。レスリーがいたから見つかった隠し部屋だろうが、よく見つけてきたよ。エルフの村に行きゃあエルフ達から羨望の眼差しで見られること間違い無いね」


 そうして全ての鑑定を終えたオズが大きく伸びをする。


「それにしてもダンジョンにはすごい装備があるんだな」


 説明を聞いていたレスリーが言うとそうじゃないんだよとその言葉に首を振るオズ。


「あんた達がクリアしたダンジョンは相当難易度が高いダンジョンだよ。ダンジョンにあるアイテムはその難易度に比例すると言われている。簡単なダンジョンからは大した物は出てこないんだよ。逆に言うとこれだけのアイテムが出てくるダンジョンは相当難易度が高いダンジョンと言える。よくクリアしてきたもんだよ」


「なるほど。よくわかった」


 2人はその後オズと雑談をしてから鑑定料を支払って店を出る。オズがこんなにいらないよと言ったのをアイリーンが宝箱から金貨も出たからお裾分けですよとかなり多めに金貨を渡して無理やりオズに押し付けてきた。


 店を出た2人はアルフォードの通りを歩きながら


「ところでアイリーンは弓は使えるの?」


「もちろんよ。学院の時に習ったし学院でも剣の次に弓が得意だったのよ。でも弓って矢を買うのにお金がかかるから狩人にはならずに戦士になったの」


「なるほど。まぁお金のかかるジョブだよな」


「でもこの弓なら矢代は考えなくてもいいわね。ねぇ、このまま試し打ちしたいから外に出ない?」


 いいねと2人は城門から外にでると手近な森に入っていく。暫く歩くとランクBの魔獣を見つけたアイリーンは早速弓を構えると伸ばした弦に矢が現れて、その矢を射ると見事に魔獣の顔に当たったかと思うとその場で爆発して顔が吹っ飛んだ。


「想像以上の威力ね。これならランクSの魔獣でも相当ダメージを与えられるわよ」


 その後も森の中で魔獣相手に矢を射るアイリーン。途中からはランクAの魔獣にも矢を射っては1発で顔を吹き飛ばしていく。すごい威力だわと感心するアイリーン。レスリーは弓の威力にも感心しアイリーンの弓の上手さにも感心していた。


「アイリーンが遠隔武器を持ったら楽になるな」


「本当ね。レスリーが足止めしているのを矢で倒してもいいし。戦闘の幅が広がるね」


 たっぷり試射して満足した2人は夕刻に城門をくぐってアルフォードの街に戻ってきた。


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