第3話

 公務ではないせいか堅苦しい格好ではなく、白のシャツにゆったりとしたローブを身に纏っている。頭に王冠もつけていない。騎士だったせいか体つきはがっしりとしており精悍な顔つきをしている。


「待たせたかな?」


 そう言って一つだけ違う立派な椅子に座って


「皆も座ってくれ」


 その声で全員が着席した。


「今日は正式な話し合いじゃない。非公式だ。楽にしてくれて構わない」


 そう言って自らテーブルの上の果実に手を伸ばす国王。


「フィル、最近はどうだ?」


 と手に持った果実を口に運びながら聞いてくる。


「良くもなく悪くもないって感じだな。最近運動不足だったんで庭で騎士相手に模擬戦をしているが頭で思うほど身体がついてこなくなってな、そろそろ引退かもしれん」


 いきなりフランクに話始めたフィルを見てレスリーはびっくりするが周囲は表情を変えていない。非公式とはそう言うことなのかと納得するレスリー。と同時に自分の緊張が解けてきた。公爵の言葉を聞いて声をだして笑う国王、そして


「お互い若くはないってことさ。こっちもそろそろ息子に譲ろうかと思ってる」


「まだ十分働けるだろう?」


「働けるうちに譲るのがいいんだよ。国王の地位にしがみついていても碌なことにならない。新しい血は常に必要だ」


 その言葉に頷く公爵。国王はリックに顔を向けてから正面に座っている全員を見て


「さて、息子から一連の報告は受けている。今日はもう少し詳しくそのあたりの話を聞かせてもらえるとありがたい。国を良くするための助言はいつでも歓迎だからな」


 国王の言葉にリックがじゃあマイヤー頼む。というとマイヤーが報告を始めた。


 マイヤーはポイントを抑えて上手く説明していく。途中で国王が質問をしてきても即座に答えその回答に納得する国王。


 一通り説明が終わると国王が公爵に顔を向けて


「フィルは風水術士という職業を知ってたのか?」


「名前だけは聞いたことがある。ただここまでとは思わなかったよ」

 

 と思っていたことを言葉にすると、


「わしは一度風水術士と会ったことがある。騎士として辺境に出向いていた時だ。訓練で山の中で野営をしていた時に1人で現れてきての、どうしたんだと聞いて話をしたことがある」


 国王は当時を思い出す様に顔を上に向けて、そして顔を戻すと


「自然を見てあちこり廻っているという話だった。そしてそやつの話はわしにとっては新鮮な話ばかりだった。最後は頑張れと声をかけて別れたのを覚えている。奴はわしが王子だったとは最後まで知らなかったがな」


 そう言って笑ってから


「わしはあの時の言葉を覚えていてロンを辺境領主に指名した時にその風水術士の言葉を伝えて決して無計画な開発はするなと言った。奴はその言葉を守っておる様でなによりだ」


 そう言ってから国王はレスリーに顔を向けると、


「レスリーと言ったか。今回息子らに同行してあちこちで国のために尽くしてくれた様だ、わしからも礼を言う」


 国王陛下にお礼を言われて深く頭を下げるレスリー。


「それにしてもレスリーがやったことは以前に会った風水術士よりずっと高いレベルの仕事だと思うのだが、そもそもなぜ風水術士になったのかそのあたりから話てくれるか?」


「わかりました」


 レスリーはそう言うと王都の冒険者の時に見た夢から話しだした。大木に呼ばれてその場所に行き木と対話をしそしてその大木の勧めもあり風水術士という職業を選んだことなど。聞いていた国王は


「なるほど。それにしても相当な実力だな」


 国王が言うとフィル公爵も


「私も娘から聞いて驚いている。崖から落ちそうな岩を海に沈めたりあっという間に用水路を作ったり。なにより土地を見て肥沃な土地だとかここはだめだとか判断できる能力は素晴らしい。国のためになる職業だなと」


 公爵の言葉にその通りと頷いてから


「それにホロから南に向かう街道も修復したと言うじゃないか。どうして今まで修復してなかったのだという事はとりあえずは横に置いておくとして、その街道をレスリーが見事に復活させたと聞いて驚いておる」


 そこで間をおくと、


「今のマイヤーの報告と息子の報告を聞いて方針を決めた」


 そういうと国王は


「すぐにロンに連絡をしてアルフォードから西に伸びている街道の途中にある草原の開発をさせよう。新しい農地ができて作物が増えるのは国にとってもありがたい話だからな。場合によっては王家からも金を出すといえば奴のことだすぐにやるだろう」


「それがいいだろう」


 と公爵も同意する。


「それで問題はコリングだ。フィルはコリング家というのは知ってるのか?」


 聞かれたフィル公爵。この答えは用意していた様だ。


「名前だけはな、それで娘から報告を受けてから詳しく調べてみたんだよ」


 そう言って話だした公爵。コリング家は三大貴族の下にある貴族のさらにその下のクラスの貴族らしい。位で言うと子爵クラス。そしてそのコリング家がウエストウッド家の下のその下の貴族の配下にあることがわかった。


「本を正せばうちの所の貴族だ。いや全くもって申し訳ない」


「いや、そんなものだろう。この国は貴族の数が多すぎるからな。フィルが全ての貴族の行動を知らなくても仕方ないさ。それでこの家はさらに上、伯爵あたりを目指してるってことか」


「おそらくな。ただ献金ということで調べてみたんだがコリング家としての献金の記録がうちにはないんだよ」


 その言葉を聞いてびっくりする国王。同時にリックもマリア、そしてマイヤーも同じ様にびっくりする。アイリーンとレスリーにはわからないが他の3人はその言葉でピンと来たらしい。


「ということは」


「ああ。このコリング家の上の貴族が手柄を横取りしていることになる。ちなみにその貴族はフェアモント家だ。そしてフェアモント家からの献金はここ数年増えている」


 献金は最終的に三大貴族から王家に対して行われる。三大貴族は下の貴族から受け取った献金や献上物を王家に差し出す際にそれを用意した貴族の名前を書いた紙を同封して差し出すのがしきたりだ。


 報告会だったはずが予想外の展開になってきた。黙っていたレスリーらを見て国王が


「この件は後でもう一度話そう。それよりもコリング家が行っている伐採だが」


 と話を元に戻すと国王がレスリーを見て


「片っ端から伐採して植林もしていない。そうなるとその結果についてはレスリーに聞くまでもないと思うが。今からでも間に合うのか?」


 今から植林しても間に合うかと聞いてくる国王。レスリーは頷くと


「自然を元に戻すタイミングに遅いということはありません。速やかに進める事をお勧めします」


 その言葉に頷いた国王。


「わかった。国から通達を出す。無計画な伐採は禁止する。伐採する場合には伐採計画とその後の植林計画を同時に出す事。木工ギルドがある街は伐採については常に木工ギルドと話あった上で進めること。これでいいか?」


 そういうとマイヤーがおそれながらと前置きし、


「通達を守らなかった場合の罰則も明記された方が良いかと」


「そうだな」


 そう言って息子のリックにお前ならどうする?と聞いてくる。


「そうですね。罰則は必要でしょう。通達を守れない場合は以後国が認めるまで間の伐採の禁止。そして禁止中に伐採した場合には貴族爵位の降格。これでどうでしょうか?」


 リックの言葉にマイヤーが頷いている。そしてフィル公爵も良いんじゃないかと後押ししてくる。マイヤーとリックが視線を交わしているのを見て事前に打ち合わせをしていた様だ。


「それでいこう」


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