第2話

 王都に戻って4日ほど過ぎた夕刻、城からの使いがウエストウッド家の屋敷にやってきた。その伝言を聞いたマリアが敷地内の3人が住んでいる家に来て居間に座ると、


「王城から使いがきたわ。明日の午後に城に来てくれって。冒険者の格好でいいそうよ」


「それは助かる」


 とマイヤー。


 この日のマリアは高級そうな私服に身を包んでいる。その格好を見るとやはりマリアも貴族だったんだなと思うレスリー。


「それと報告は非公式なものなの。だから謁見の間ではなくてその奥の部屋でするみたい。出席者は国王と王妃、そしてうちの父親、それからリックも入れた5人よ」


「マリアのお父さんも出るのか」


「国王陛下から言われたみたい。貴族代表として出てくれって」


 その言葉になるほどと頷きながら、将来のリックの嫁となり王妃となるウエストウッド家の当主を呼んだ国王の懐の深さに感心するレスリー。


「マイヤー、報告書はできてるの?」

 

 マリアがマイヤーに聞くと、


「ばっちりだよ」


 居間で4人でお茶を飲みながら話をする。


「ところでマリアは王都に戻ってからリックとは会ってないの?」


 とアイリーン。


「短い時間だったけど1度会ったわよ。忙しそうだった」


「そりゃそうだろう。戻ったら王子としての仕事があるしな」


「そのうちマイヤーも巻き込まれるわよ」


「覚悟はしてるさ」


マイヤーとマリアのやりとりを聞いていたレスリー、


「マイヤーの宰相の件ってのは国王陛下もご存知なのか?」


「もちろん。冒険者になる前にリックが自分が国王になった時にはマイヤーを宰相にするって直接話をして国王陛下もご納得されてるの」


 マイヤーの代わりにマリアが答える。


「そりゃすごいな」


 国王陛下が納得するほどの人材だったのかと改めてマイヤーを見直しているレスリー。


「今の国王陛下は若い時に騎士としてあちこちに出向いてそして今の国王のブレインの何人かを見つけてきたの。息子のリックにも同じことをさせるのは当然ね。それにマイヤーは学院時代から魔法以外、勉強の部分でも常に学院で1番の成績だった。そしてリックの親友。国王陛下は年齢に関係なく優秀な人材は登用するべきだというお考えだし国王陛下に断る理由はないわね」


 マリアが説明する話を隣でアイリーンも頷きながら聞いている。するとマリアがレスリーに顔を向けると、


「それで明日の国王陛下との面談の主役はレスリー、貴方よ」


「俺?」


 自分に振られて思わず声を出すレスリー。


「マイヤーだろ?」

 

 そう言うがマイヤーは首を左右に振り、


「報告をするのは確かに俺だ。ただな報告書の内容のほとんどがレスリーがしてくれたことについてなんだよ。風水術士として用水路を作り、村人に新しい土地を与えたり未開の地が大きな農場になるとう話、そしてホロの南の街道を開通させた話などほとんどがレスリーの偉業についてだよ」

 

 レスリーは国王陛下に謁見と言っても自分は皆に着いていくだけで良いと思っていた中、マイヤーとマリアから自分が主役と聞いて急に緊張してきた。

 

 緊張したのが分かったのだろう、アイリーンが大丈夫よとレスリーの肩を叩き、マリアとマイヤーも話をするのはこっちだし、ちゃんとフォローするから大丈夫だよと声をかけてくれたので少し気分が楽になった。


 最後にマリアが、


「本当はもうちょっとみんなと冒険したかったけどもう無理ね」


 と寂しい顔で言い、皆がしんみりしていると


「でも本当ならずっと王都にいるはずだったのに5年以上も外で好きな事をさせて貰ったからこれ以上言ったら贅沢かな、あとはアイリーンとレスリーにお任せしよう」


 最後は吹っ切れたいつものマリアの表情になっていた。



 そうして翌日の昼過ぎにウエストウッド家が持っている大きな馬車に4人とマリアの父親のフィル・ウエストウッド公爵の5人が乗り込んで城に向かう。馬車は大きくて5人が乗っても十分に余裕のある広さだ。


 城に向かう馬車の中で公爵がレスリーに、


「マリアからレスリーの偉業は聞いている。いや大したものだ」


 その言葉にありがとうございますと頭を下げるレスリー。


「うちの領地もレスリーに精査してもらおうか」


 そう言う公爵。


「失礼ですが公爵の領地というのは?」


「港町アイマス及びその周辺だよ」


 レスリーの問いかけにあっさりと答える公爵。なるほどそれでリック達はスタートをアイマスにしたのかと思うと同時に国の中で最重要箇所の1つである港を任されているウエストウッド家の力の大きさを認識した。


「この国には三大貴族という国王陛下の側近にあたる貴族がいる。皆公爵という爵位を持っていてね、その1つがマリアのウエストウッド家、他は辺境領の領主、そして王都の東にあるドーソンの街を収めている貴族だよ」


 マイヤーがレスリーに説明をしてくれてそれを聞いている間に馬車は城門を潜って中に入っていった。


 馬車から降りると護衛の衛兵の騎士の先導の下、公爵を先頭にマリア、マイヤー、レスリー、アイリーンの順で城の中に入っていく。塵ひとつ落ちていない城の廊下を歩いて何度か角を曲がり、そして階段を上がっていくと赤い絨毯が敷かれている廊下にでた。


 その廊下をゆっくりと進んでいく一行。レスリー以外のメンバーはここに来たことがあるのか落ち着いているがレスリーは初めての国王との謁見ということで緊張してきた。


「レスリー、後ろから見ても緊張してガチガチなのが丸わかりよ」


 背後からアイリーンが声をかけてくる。


「そりゃそうだろう。国王陛下との謁見だよ」


 その声に前を歩いていたマリアが振り返ると、


「大丈夫よ。国王陛下は気さくなお方だし、ちゃんと私たちがフォローするから。もっとリラックスしたら?」


「リラックスできるかよ」


 そうして絨毯の敷かれている廊下を歩いてある部屋の前で立ち止まる衛兵の騎士。扉の前に立っていた別の騎士が扉を開けて中に入るとすぐに出てきて


「どうぞ。王子が中でお待ちです」


 そう言って大きく開いた扉から部屋に入るとそこにリックが1人で大きなテーブルに座っていた。


 部屋の中は大きな執務机が奥にあり、その前にはソファ、そして10人以上が座って打ち合わせができるテーブルがあり、リックはそのテーブルの向かい側に1人で座っている。テーブルには果実やジュースが置かれていた。


 公爵と挨拶を済ませたリックは


「国王陛下はまもなく来られる。座ってくれよ」

 

 そうして公爵が国王陛下の正面になる場所に座りその左右にマリアとマイヤー、マリアの隣にアイリーン、マイヤーの隣にレスリーが座る。


 リックは公爵とも顔馴染みなので2人で雑談をしそれを他のメンバーが聞いていると


「国王陛下が来られました」


 という衛兵の声で全員が椅子から立ち上がる。すぐに別の扉が開いてリムリック国王陛下が衛兵に先導されて部屋に入ってきた。


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