第2話

 翌朝、皆で朝食を済ませるとそのまま村を出て東の方に歩いていく。村を出て15分程歩くと小さな小山がありその中に入っていく一行。


 小山といっても生えている木は太くて高く、長きを生きてきたというのがわかる木ばかりだ。レスリーを先頭にして歩いていると1本の大木に蔦が絡まっているのを見つけ皆でその蔦を切り落とす。そうすると、


『助かったよ。礼を言う』


 蔦を切ったその大木が話かけてきた。


「おっ、話しができる大木だ」


 その声にレスリー以外の全員が1本の木を見る。


「久しぶりに話しができる木に会ったよ」


 大木を見上げてレスリーが話しかけると、


『わしもじゃ。何十年ぶりだろう。お主は木と話しができる人間なのだな』


「風水術士のレスリーという」


『レスリーか。蔦を切ってくれたのはありがたいがこの山に来た目的はあるのか?』


 他の4人にはレスリーの声しか聞こえてこないが彼が目の前にある大木と話をしているのはもう見慣れた風景なので周囲を警戒しながら彼の好きにさせている。


「この近くにある村に来たんだが、村の人に元気がなくてね。何か村の人たちが潤う様な生活ができないかと村の周辺の土壌を見たり木々を見たりしているんだよ」


 レスリーの話を聞いていた大木はしばらく返事をせずに黙っていると、


『そこにある人間の村についてはわしも知っておる。昔からじっと隠れる様にして住んでおるの。山の木を無作為に切るわけでもなく静かに暮らしておる様だったから気にしなかったが元気がないか、そうか』


 そう言ってまたしばらく黙ってから


『この場所から山の反対側に行ってごらん、そこに普通の木とは全く違った木が生えている場所がある。その木の根本近くに地面から出ている茶色の野菜の様なものがあるからそれを採取してみるのだ。野生動物が好んで食べる野菜だが人間が食べても問題ないと思うぞ』


「この山の反対側だな」


『そうだ。そしてもう1箇所ある。それは村の南にある山裾じゃ。そこは良い土壌で日当たりも良い。そこで茶を作ると良いだろう。美味しい茶ができるぞ』


 レスリーは聞いていてびっくりした。


「大木がそんなことまでわかるのかい?」


『長きを生きておれば風に乗っていろんな種が飛んでくる。そいつらを見ればどの土壌で育てるのが良いのかがわかる。それと今は我だけだが昔は何本か話ができる木があった。彼らから聞いた話を覚えていたんじゃよ』


 村が生き返るかもしれないと知ってレスリーは大木にちょっと待ってくれと言い後ろにいた4人に今の大木との話の内容を伝えると全員がびっくりした。そしてマイヤーが


「レスリー、その茶色の野菜ってひょっとしてタケノコじゃないかな」


「なるほど、竹林があるのか」


「タケノコなら高級食材よ。美味しかったら飛ぶように売れるわ」


 マイヤーに続いてリックとアイリーンも興奮して言う。レスリーは再び大木に顔を向けると


「助かった。これからこの山の反対側と村の南の斜面に行ってみるよ」


『そうするがよかろう。レスリーならわかるだろう。このあたりは魔獣の気配がない。村人も安心して採取できるぞ。ただし取りすぎない様に注意するんだぞ』


「わかった」


 そう言ってレスリーが大木に頭を下げると他の4人も同じ様に頭を下げて礼を言い大木を後にした。


 そのまま小山の中腹あたりを反対側に向かって歩いていると視界に竹林が見えてきた。


「こりゃ凄いな」


「ここまで広い範囲が竹林とは」


 5人の目の前には南西を向いている斜面に竹林が広がっていた。


「村からだと小山を回らないと来られない。魔獣がいると思うとここまで足を伸ばせないよな」


「その通りだ」


 リックとマイヤーのやりとりを聞いている他の3人。そして竹林の中に入っていくとあちこちから地面から顔を出しているタケノコが目に入ってきた。5人はタケノコを掘り出して魔法袋に入れると


「これを宿の厨房で料理してもらおう」


 そうして各自が袋に入れたタケノコを持って一旦村に戻ってくる。昼頃に村に戻ってきた一行は旅館の厨房にいた女将に鞄からタケノコを取り出して渡し


「これで料理を作ってくれないかな?」


 タケノコを見た旅館の女将はびっくりして


「これタケノコじゃないの、いいのかい?これ全部使って料理を作っても?」


「もちろん、余ったら村の人に分けてあげてください」


 タケノコが高級食材であることは有名で、女将はその数にびっくりしながらも厨房でタケノコ料理を作り、そして皿に入れて持ってきた。


「あんた達が持ってきたタケノコだ。最初に食べておくれ」


 5人がそれぞれタケノコを口に運ぶと


「美味しい!」


「これ滅茶苦茶美味いよ」


「女将さんも食べてよ、すごく美味しいから」


 女将も一口食べてその味にびっくりしている。


「村長さんを呼んできてくれるかな?あと余ったタケノコは村の人にあげるから皆んなで食べてよ」


 女将はタケノコを口に入れたまま宿を飛び出すとすぐに村長を連れてきた。村長にもタケノコを食べさせるとその味にびっくりする。


「こんな高級食材をわしらにくれるというんですか?」


 村長が恐縮して言うとリックが


「実はこれはこの村の近くから採ってきたんですよ」


 その言葉にびっくりする村長、隣で女将もこんな美味しいのが村の近くにあったのかい?と驚いている。


 その後他の村人にも食べさせてから村の人数人を連れてリックらは村の出て東にある小山の反対側にある竹林に案内した。竹林を見てまた驚く村人達。


「わしらは魔獣が怖くて村のほんの近く以外には出てないんですわ」


 レスリーがこのあたりは魔素が薄いので魔獣はまず来ないから安心してタケノコ採りができますよと言うとそれを聞いて大喜びする村人達。


 一度にたくさん採るわけにはいかんのぅと言いながら村人達がいくつかタケノコを取ると袋に入れてそうして村に持ち帰った。


「このタケノコがあれば私らの村も少しは潤うでしょう。本当に助かりました」


 村の宿屋で村長が改めて礼を言う。


「明日は南の山裾を見るつもりだけど、ひょっとしたらその山裾がお茶の栽培に適しているかもしれません。そうだったらタケノコとお茶でこの村も潤いますね」


 レスリーが言うとなんとお茶も作れるのかと驚く村長や村人。


「南の斜面はまだ見てないからなんとも言えませんが明日の夕方にまた報告します」


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