第4話

 翌日から一行はアルフォードを拠点に活動を開始した。まずは街の周辺を探索がてら歩いていく。街を出て東の方向に2時間程歩いていく。そこは草原と林のあるエリアで林の中に入ると早速魔獣と遭遇した。


「流石に辺境ね、街を出たらすぐにランクBがいるなんて」


 アイリーンが足元に倒れている魔獣の魔石を取り出しながら言う。レスリーが周囲を警戒している中魔石を取り出すとレスリーが作った地面の窪みに魔獣を落として土を被せると再び林を歩いていく。


「どんな感じだい?」


「特に気になるのはないね」


 戦闘は4人に任せて林の木々の様子を見ているレスリー。時折木の幹に手をあてたりしゃがみ込んで草や土を見たりしているが特に異常は感じられない。


 街の周辺、東側はランクBの生息地でそこで身体を動かして夕刻に戻ってくるとギルドで魔石の買取りをしてもらう。


 次の日は西側に2時間ほど歩いて森を見つけると中に入っていく。森の入り口の辺りはランクBだがそのまま奥にいくとランクAの気配がしてきた。


「前方にランクAがいる1体だけだ」


 レスリーの言葉でマリアがパーティメンバーに強化魔法をかけると戦闘を開始する。リックが盾でガッチリと受け止めている間にアイリーンの片手剣、マイヤーの精霊魔法が魔獣の生命力を削っていって、以前よりも早い時間での討伐に成功した。


「ランクBを倒した時にはよくわからなかったけど、ランクAを相手にすると2つの腕輪の効果が出ているのがよくわかる」


「確かにいつものアイリーンよりも身体の動きがよかったし剣も威力があったな」


 背後から戦闘に参加していたマイヤー、俺も装備品を買おうと言うとリックとマリアも俺も私もと。


「アイリーンの体の動きや剣の強さを見ると一目瞭然だよな」


 森を歩きながら装備の話をする4人。リックは相変わらず周囲を見ながらゆっくりと森の中を探索する。そうして特に異常がないのを確認した5人は夕刻にアルフォードの街に戻ってきた。


 ギルドで魔石を換金するとレスリーとアイリーンを先頭に商業区を歩いて大通りから路地に入っていき、


「ここよ」


 アイリーンがそう言ってオズの雑貨屋の扉を開けて中に入っていった。後に4人が続いて中に入ると早速陳列物を見て


「いろんなのが売ってるな」


 そう言っていると奥からオズが出てきた。


「おや、レスリーとアイリーンじゃないの」


「こんにちは、今日はパーティの仲間を連れてきたの」


 そう言うと続いてこんにちはと挨拶をするリック。マリアとマイヤーも挨拶をすると


「あんたたちも皆それなりのスキル持ちだね。Aランクの中でも上位の実力はあるね」


「分かるんだ」


 マイヤーが感心して言う。


「鑑定スキルで物以外のスキルも見えるのさ。全部じゃないけどね。そうして見てみると皆レベルが高いのがわかるよ。アイリーンも相当だけどこのパーティは全員がレベルが高いね」


 褒められて悪い気はしないメンバー。


「アイリーンがここで装備を買ってそれで今日街の外に出てみたんだけど、昨日までのアイリーンと全然違ってたからね。聞いたらここで装備を買ったというんで皆で来てみたんだよ」


 リックがそう言うとオズは陳列ケースからいくつか装備品を取り出してこれはリックのナイト向けだよ、これは僧侶だね、そしてこれは精霊士用だとテーブルの上に腕輪を置いていく。


「ナイト用のはこっちが盾のスキルがアップする、こっちは体力がアップする効果がある腕輪だよ。盾のスキルが上がれば敵の攻撃をがっちりと受け止められるよ」


「そりゃいいな」


「僧侶にはこれかな。魔力が増える腕輪だよ。効果は大きくならないけど体内にある魔力を増大させるから便利だろう?」


「本当ね、いい装備」


「それからこれは精霊士向けの腕輪。魔法の威力をアップさせる腕輪だよ」


「それは助かる」


 3人ともオズが進める防具のその性能を聞いて納得する。オズはレスリーを見ると、


「昨日も言ったけどレスリーのはないね」


 苦笑するレスリー、俺は大丈夫だよと答えるとそのうち何か入ったら教えてあげるよとオズ。


 3人がそれぞれの装備の代金を支払って自分の腕に装備してその腕を見ている。


「流石に辺境だな。王都やアイマスでは見ない装備が置いてある」


 マイヤーが呟いたのを聞いたオズ。


「確かにここは辺境領でダンジョンの宝箱やからいろんなアイテムが出る。それをここに冒険者が持ち込んでは私が買い取っているがね、とはいえここで活動している冒険者の多くはこんな装備にには見向きもしないんだよ」


 5人はびっくりしてどうして?、効果があるのにと言うと、


「一つは高いからだろうね。今3人が買った装備だってそこそこの値段だっただろう?」


「でも高くても効果があれば買った方が楽になるのに」


 マリアの言葉に


「そういう考えをする冒険者は一流になる。だけどたいていの冒険者は武器や防具にだけ金をかけて装備には金をかけないのさ」


「そりゃどうしてだい?」


 リックが意味がわからないと言った風の表情でオズを見る。


「武器や防具は自分で持つとすぐにその違いに気がつく。だけどね装備は武器や防具ほど急激なステータスの上昇があるわけじゃないんだよ」


「でも私は今日実際に魔獣を倒して装備の違いによる差を確認できたけど?」


 アイリーンが言った直後にレスリーが気がついた。


「アイリーン、街の外で狩りをしてた時になんて言ってたか覚えてるか?」


 何だっけと言いながらレスリーを振り返るアイリーン


「アイリーンはこう言ったんだよ。ランクBじゃわからなかったけどランクAなら2つの腕輪の効果がよく分かるって」


 その言葉にあっ!という声を出すアイリーン。他の3人も気づいた様だ。


「上のランクと対戦しないとわからないんだ」


 その言葉に大きく頷くオズ。


「同格や格下なら武器の威力だけで倒せてしまうからね。装飾品の効果を実感しにくいんだよ。それに腕輪や指輪の装備品は安くないときてる。そこに金をかけるくらいならランクが上の装備や防具と買ったほうがずっといいというのが普通の冒険者の考え方なのさ」


「自分のステータスを上げてその状態で良い武器を持てばもっともっと強くなれるのに」


「アイリーンの言う通りさ。でもね大抵の冒険者はその発想にならない。強い武器を持てば強くなると信じてるのさ。頭が硬いのが多いね」


 そう言って続けて


「もちろん、中にはきちんと装備の価値を認めている冒険者もいる。でも数は多くないんだよ。特にランクB以下になるとほとんどがそうだね」


「安くないしね」


「それもあるだろうね。でもあんた達なら分かるだろう。しっかりと装備や武器、防具にお金をかけるのが生き残るのに必要だって」


頷く5人。そしてリックが


「武器や防具のための金策をしようってこの前言ったけど同時に装備品についてもいいものを揃えていこう」


「そうね」


 新しい装備、腕輪をつけてお礼を言ってオズの店を出た5人、店の扉が閉まると、


「あの5人、普通の冒険者とは雰囲気が違うね。特にナイトのリックと僧侶のマリアだっけか、彼らは普通の市民じゃないね」


 そう呟きながら店の奥に消えていった。


 リックらのパーティは10日程かけてアルフォード街から日帰りでいけるエリアの探索をしてレスリーから特に問題はないという報告を聞き、今度は足を伸ばして野営しながら徐々に活動範囲を広げていくことにする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る